35. 鬼軍曹レーヴァ
鬼軍曹回です。
訓練は、その後一ヶ月にわたって続いた。
――――――
「返事は?」
「「イエスマム!」」
「聞こえませんね。 その体たらくでよく二足歩行できますね」
「「イエスマム!!」」
「腹から声を出しなさい。 その程度の声量では庭先の小鳥も目を覚ましません」
「「イエスマァァァム!!!」」
腕立て伏せをしながら叫ぶ二人を見て、
周囲の冒険者たちは距離を取っていた。
「あいつら何やってんだ……」
「近づくな。 目を合わせるな」
「教官の女が怖すぎる……」
――――――
「リン。 踏み込みが浅いです。 庭に生えた雑草の方がまだ見込みがあります」
「イエスマム!」
「マスター。 その剣筋は何ですか。 知性を持つ生命体として最低限の動きをしてください」
「イエスマム!!」
「声だけは一人前ですね」
「「イエスマム!!」」
「よろしい。 腕立て追加です」
「「イエスマム!?」」
「……しかしよ」
一人の冒険者が、呆れたように呟いた。
「普通は三日で逃げるぞ、あんな訓練」
「だよな……」
「しかももう一ヶ月だぞ?」
「こいつら、地味に頭おかしくねえか……?」
「いや、あれを平然とやらせてる教官が一番おかしいだろ」
――――――
「そこまで」
一ヶ月後。
二人は床に倒れ伏していた。
もはや見慣れた光景である。
「……死ぬ」
「もう死んでる……」
「安心してください。 まだ死んでいません」
「その励まし何の意味があるんだよ……」
「というか生きるか死ぬかの基準が怖いんだけど……」
レーヴァはそんな二人を見下ろしながら、
満足げに頷いた。
「リン」
「……なんだよ」
「見込んだとおり、センスがありますね」
「っ……へっ」
露骨に嬉しそうにする。
単純である。
「マスターも」
「え?」
「これでようやく、私の力を扱う最低限の土台が整いました」
「今まで最低限もなかったの?」
「お話になりません」
「ひどくない?」
即答だった。
だが事実でもある。
レーヴァは静かに目を細めた。
(とはいえ――)
リンは想定以上だ。
筋も良い。
覚えも早い。
何より、折れない。
そしてマスターも、
ようやく“器”として最低限の水準に達した。
(あとはレベル、装備――)
そして。
(リンクの構築も必要ですね)
そこまで考えて、
レーヴァは小さく頷いた。
計画は順調。
むしろ、
想定以上に。
「……?」
なぜか背筋に寒気を覚えたマコトが、
そっと身を引いた。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
無事(?)地獄の基礎訓練を完遂しました。
次回からは、鍛えた成果を試す実戦編です。
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