13. 洗礼
レーヴァさんの実技試験です。
たぶん参考記録扱いです。
「レーヴァさん、怒ってます?」
「いえ、マスター。どうもいたしませんよ」
「なんだか口調違わない?」
「ダンカン、といいましたね。
早く始めましょうか」
「お、おう……俺はいいぞ」
レーヴァはそう言って、
ダンカンさんを急かすように連れて行ってしまった。
……見たことはないが、
あれは絶対怒っていたに違いない。
――――――――――
(ダンカン視点)
俺はダンカン。
このスタットの街の冒険者ギルドで
首席教官を務めている。
これでも昔は迷宮都市で名を上げ、
C級冒険者まで上り詰めた。
年齢による衰えを感じて引退したが、
後進を育てるのも悪くない。
むしろ性に合っていた。
……だが。
さっきの黒髪の少年には、
珍しく不覚を取った。
見たことのない下段の構えから、
俺の武器だけを狙ってくるとは思わなかった。
武器を弾かれ、
思わず本気で蹴り飛ばしたが、
それでも脇腹に一撃をもらった。
新人に一撃を入れられたのは、
これが初めてだ。
マコト、と言ったか。
あいつは強くなる。
そう確信していたところへ――
「私の試験がまだですよね?」
あの女が声をかけてきた。
その感情のない声に、
少し寒気を覚える。
二十歳前後か、
あるいはまだ十代か。
だが身に纏う装備と立ち振る舞いから、
明らかにただ者ではない。
騎士、あるいはそれに準ずる者。
マコトはどこかの御曹司かもしれんな。
……今度こそ気を抜けん。
向かい合い、
剣を構える。
その瞬間、理解した。
――隙がない。
それどころか、
構えただけで分かる。
達人だ。
ふと、手の甲に水滴が落ちる感触。
……汗?
この俺が、
気圧されているのか?
「マスターを足蹴にしましたね、あなた」
その声に顔を上げる。
無表情のまま、
女の目だけが笑っていなかった。
その声音には怒気すらない。
背筋が凍る。
汗が噴き出す。
足が震える。
なんだ、これは。
迷宮都市で一度だけ見た、
S級冒険者の威圧感に似ている。
……いや、
もしかするとそれ以上だ。
「――これはもはや、死に相応しい」
俺にだけ聞こえる声でそう囁いた。
カタカタカタカタ……
愛用の鎧が震える音を立てる。
足だけじゃない。
全身が震えていた。
女が剣を握り、
静かに構えに入る。
その瞬間。
「すいませんでしたーー!!!
参りました!!!」
気づけば俺は、
地面に頭を擦りつけていた。
……これはダメだ。
絶対に関わってはいけない類の人間だ。
俺は心に誓った。
二度とこの二人には関わらない、と。
――――――――――
この日、
スタットの冒険者ギルドに新たな伝説が生まれた。
――ギルド最強の教官を土下座させた新人現る。
その日以降、
スタットの冒険者ギルドで
僕たちに話しかけてくる者は、
タニアさん以外いなくなった。
……これが洗礼?
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
新人なのに、
なぜか出禁一歩手前になりました。
今日はこのあと1話投稿します。
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