■第135話 便利な道具の限界と、地道な採取探索
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翌朝。たっぷりと睡眠をとり、極上の休日を満喫して心身ともに完全回復した僕は、新しい『根こそぎのお手軽スコップ』を腰に提げ、意気揚々と宿を出た。
「よし、今日こそあのスコップの威力を試してやるぞ」
だが、ダンジョンへ向かう前にもう一つだけ確認しておきたいことがあった。僕は大通りを外れ、再び『黒猫の宝箱・まったり支店』のドアを叩いた。
「いらっしゃいませー! にゃふふ、お兄さん。今日は泥だらけじゃないわね。スコップの使い心地はどう?」
「まだ使ってないんだ。これから行くところなんだけど……その前に、ちょっと聞きたいことがあってさ」
カウンターの向こうで尻尾を揺らす黒猫のお姉さんに、僕は身を乗り出して尋ねた。
「この間買った『反応のツルハシ』も『誘導のハサミ』も、近くに素材がないと反応しないだろ? そもそも、どこに珍しい鉱石や植物があるのか、場所をズバリ教えてくれるような便利な魔道具ってないのかな? 地図とかレーダーみたいなさ」
もしそういうものがあれば、広大なダンジョンをあてどなく歩き回る手間が省ける。まさに効率の極みだ。
しかし、僕の期待に反して、黒猫のお姉さんは「にゃはは!」と大笑いした。
「お兄さんってば、欲張りねぇ! 残念だけど、そんな都合のいい魔道具はないわよ。もしそんなものがあったら、この街の冒険者たちがこぞって買い占めて、ダンジョンの中のレア素材なんか一日でスッカラカンになっちゃうわ」
「うっ……確かに、言われてみればそうだね」
「ツルハシもハサミも、あくまで『近くにあるものを感知して教える』だけ。どこに何が生えているか、どこに鉱脈があるかは、冒険者自身の足と勘で地道に探すしかないのよ。それが採取の醍醐味ってもんでしょ?」
「……なるほど。やっぱり、そんな甘い話はないか」
便利な道具を手に入れたからといって、冒険のプロセスを完全にスキップすることはできないのだ。
僕は少しだけ肩を落としつつも、気を取り直して店を出た。
「チビチビ……ッ。よし、シャキッとしたぞ」
まったりダンジョンに足を踏み入れた僕は、さっそく『気付けのポーション』を口に含み、強烈な眠気を誘うオーラを振り払った。
入り口付近の浅い階層は、相変わらず他の冒険者たちに採取され尽くしており、ツルハシもハサミもピクリとも反応しない。
「やっぱり、奥に進むしかないな」
ポーションを消費しながら奥へ進むのは、途中で尽きれば『寝落ち』の洗礼を受けるというリスクが伴う。だが、リスクを冒さなければリターン(レア素材)は得られない。
気力を保ちながらしばらく歩き続けると、やがて左手の『誘導のハサミ』がグイグイと僕の手を引っ張り始めた。
「おっ、植物の反応だ!」
岩陰を抜けると、そこには鮮やかな青い葉と、黄色い小さな花をつけた植物の群生があった。
『【星風草】の群生地だぞ! 葉っぱと花びらが風邪薬の特効薬になるんだ!』
ハサミの頭上にポコンと吹き出しが浮かぶ。
僕は胸を高鳴らせ、腰の『根こそぎのお手軽スコップ』に手をかけた。
「よーし、ついに出番だぞ! このハイテク魔道具スコップで、根っこから一気に……」
『ストーップ! 星風草の根っこには薬効はないよ! 必要なのは花と葉っぱだけだから、ハサミの出番だぞ!』
「……あ、そうなの?」
僕はスコップを握りかけた手をそっと離し、大人しくハサミに持ち替えた。
少しだけ肩透かしを食らった気分だが、素材が手に入ることに変わりはない。僕はチョキチョキと軽快な音を立てて、花と葉っぱを採取していった。
「よし、これくらいにしておこう」
群生しているからといって、根こそぎ刈り取ってしまうのは採取家のマナー違反だ。次の冒険者や、植物が再び繁殖するための分をしっかりと残し、僕は麻袋を背負い直して次の場所へと向かった。
さらに奥へと進むこと数十分。
今度は右手の『反応のツルハシ』が、ピコンピコンと激しく光り出した。
『おおっ! 岩肌の奥に【紅蓮鉱石】の反応あり! 火属性の魔力を秘めた良質な鉱石だぞ!』
「よしきた、鉱石のおでましだ!」
僕は背中からツルハシを抜き放ち、赤く鈍い光を放つ鉱脈に向かって構えた。
前回はバケモノ筋力で叩き割ってしまい、激レアの『星銀鉱』を粉々にしてしまった苦い記憶がある。
「今回は慎重に……力を抜いて……そーっと……!」
カンッ!
少しだけヒビが入る。
「よしよし、この調子で……エイヤッ!」
ガキンッ!! バシャァァンッ!!
「ああっ!?」
またしても力の加減を誤り、ツルハシの先端が鉱脈のど真ん中を直撃。せっかくの【紅蓮鉱石】が、飴玉のように粉々に砕け散ってしまった。
『あちゃー……力みすぎだぞ! もっと手首のスナップを効かせて、周りの岩だけを削るんだ!』
ツルハシの吹き出しが、ため息をつくような絵文字を出してくる。
「くそっ、やっぱり剣の受け流しと、採掘の力加減は全然別物だな……!」
額に冷や汗を浮かべながら、僕は再びツルハシを構え直した。
それから数十分。粉々に砕いてしまった鉱石の残骸の山を築きながら、僕は泥だらけになって岩壁と格闘し続けた。
「ハァ……ハァ……っ! 取れた……!」
『ナイスファイト! 完璧な状態の【紅蓮鉱石】、三つゲットだぞ!』
なんとか無傷で採取できたのは、たったの二、三個。
バケモノじみたステータスを持っているはずなのに、繊細な作業となると途端に不器用になってしまう自分が少し情けなかった。
「ふぅ……でも、まあこんなもんか」
僕は腰のポーチを開け、『気付けのポーション』の残量を確認した。
あの強烈なまったりオーラの中で冷や汗を流しながら採掘に集中していたせいか、想定以上にポーションの減りが早い。もう残り数口分しか残っていなかった。
「今日はこの辺で帰ろう。また途中で寝落ちして、他の冒険者に起こされるのはごめんだからな」
スコップの出番はお預けになり、採掘の難しさも思い知らされた。
だが、確かな収穫と「次はもっと上手くやってやる」という地道なモチベーションを胸に、僕は足早にまったりダンジョンの出口へと向かうのだった。
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