西騎士団団長、そして出発
レデリックさんの出発の通達があってから、学園の生徒達は各々で準備を進めていた。先輩や姉さん、春乃と交流はないけど生徒会に所属している結城さんは、訓練場に毎日来ては色々と魔法の練習や体を動かしていた。その様子に、俺も皆の様に華麗に動けたら良いなと思いながら観察していた。反対にダンジョンというモノを知らないからか、楽観的に考えて何もしない人もチラホラと見られたが…。生徒会の中で獅子原だけがその傾向にあって、二日間の内訓練場に来たのは一回の十分程度だった。
俺は朝早く起きてはモンスターに関する本を読んで勉強をし、朝食を食べてから訓練場で時間一杯魔法の練習を続けた。その際に、剣を借りる事が出来て少しだけ振る練習が出来た。しかし問題がもう一つ発生、思っていたよりも剣が重たく、打ち合い稽古をしている騎士の人達の様に何度も速く剣を振るう事が出来ない。基礎的な筋力不足も露見し、筋トレもダンジョンに帰ってから追加で毎日する事を決意。
そうして己の問題点だけが増えていく一方に、不安感を募らせながらも時間は過ぎていった。
そして今日、ダンジョンに行く日。
いつも通りの朝…とはいかず、今日は朝から来訪者が部屋に来ている。
「すみませんシュウ、朝早くから来てしまって…」
「大丈夫だよ、どうしたのティア?」
今回のダンジョンに行く際の恰好で、流石に学園の制服という訳にもいかないので王国から支給された装備を身に着けていた時に、部屋の扉がノックされて扉を開けた先に、ティアが申し訳なさそうに立っていた。流石に部屋の外に立たせておく訳にもいかずに、中に入ってもらったのだが…。
「今日、ダンジョンに行くことになったと聞いて…シュウも行くんですか?」
「うん、俺も強くなりたいからね」
相当…そりゃあ俺のステータスを知っているから心配にもなるだろう。
不安そうな表情をしているティアを見ながら、俺はそう思う。
自分達の都合で巻き込んでしまった、しかも勇者でも無い俺の事が心配なのだろう。
「でも、ダンジョンは危険でシュウにはまだ早いと思います…」
「大丈夫だよ。レデリックさんと、会った事はないけど西騎士団団長が護衛で一緒に付いてきてくれるらしいから」
「セレスが?だ、大丈夫ですかね?」
何故か西騎士団の団長さんの事を話したら、ますます不安そうにしているティア。
二人の騎士団長の同行は凄く心強く感じるんだけど、何でそんな反応をするんだろう?
「セレスさんって名前なの?」
「本名は違いますけど、そうですよ。行くのは洞窟なんですよね?」
「そうらしいですよ」
「不安ですね、あの子は魔法が凄いんですけど…洞窟内でセレスの魔法が使用されると考えると…」
ティアの顔が不安そうだ。
…話している感じ、洞窟ではセレスさんの魔法の実力が発揮されないという事だろうな。
「大丈夫だよ!勇者なんだから!…俺以外は」
「私は勇者様も心配ですけど、シュウの方が心配なんですよ…」
俺の自虐に、ティアは僅かに俯いて囁く様に呟いた。
巻き込んだ負い目はもちろんあるだろう。でもそれ以上に俺の事を心配してくれている事が感じられた。ティアは優しいな…。
「ありがとうティア。でも、俺は何もしないなんて事はできないんだ」
こんな駄目な俺でも、何もしなくなれば本当に俺は駄目人間になってしまう。先輩にも、家族にも顔向け出来なくなる。
俺はそんな事を思いながら変わらない決意を胸に、笑いながら出来る限りティアに安心してもらえる様に言う。
俺の言葉を聞いたティアは、諦めたような呆れているような顔をした後僅かに頬を綻ばせる。
「仕方ないですね…。…必ず帰ってきてくださいよ、シュウ?」
「はい」
その後、ティアは仕事があるらしく部屋から出ていった。元々忙しく俺達の事の話もティアには話が入っていなかったようだ。昨日の夜に知らされて、朝に俺の所に時間を作って来てくれたらしい。
なんか先輩とティアには余計な心配をさせてるなぁ。今度、お礼とかしないとな。
そう考えながら支度をし、荷物を持って部屋を出る。
今日はダンジョンに移動している間に携帯食料を食べるらしく、朝食は無くその足で城の城門まで歩いていくと、そこで待機していた騎士の人に地図を渡された。
それから王国の東門が集合場所な為、地図を見ながら城下町を歩いている。
意外と賑やかだ。出店なども多く出店している、あのお店の商品美味しそうだ。それに人も多い、まだ朝早いというのに。
周りの景色を見回しながら歩みを進めているうちに、集合場所に辿り着いた。
見る感じ、ほぼ全員集まっている様だ。
「シュウ・ハヤマです」
「確認できました、お気をつけて」
人数をチェックしている騎士の人に挨拶をしてしばらくした後、鎧を装備している騎士団の人達の中からレデリックさんが前に出てくる。
「これからここから東にある洞窟ダンジョンに出発する!その前に彼女を紹介する!西騎士団団長セレステル・レオノールだ!セレス、勇者様達に挨拶を」
レデリックさんが隣にいる可愛い女の子に声をかけ、背中を押して前に出る様に促す。
あの子が西騎士団団長なのか?小学校高学年か中学生ぐらいだぞ。
俺がそう思っていると、セレステルさんは一歩だけ前に進み、
「み…皆さん、初めまして。に、西騎士団団長セレステル・レオノールです…。今日は…その…よろしくお願いします…」
オドオドしながら挨拶をした…!
スッゴイビクビクしてる!ティアの様子から魔法云々とかじゃなくて、この怯えている様子に不安になるんだけど…。
「セレス、それじゃ勇者様達が不安になるだろ?」
「だ…だって、こんなに人がいる前でなんて…恥ずかしくて」
「はぁ~…。いつまで経っても恥ずかしがり屋は改善しないな。皆、すまないな!これでも実力はしっかりしているから安心してくれ!それでは出発する!」
レデリックさんの挨拶を皮切りに、俺達は馬車に乗せられてサンレアン国を出発した。
「柊ちゃん、酔ってない?大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です…」
「………」
「………ふーん」
「……チッ」
「あははは……、これはまた…大変ですね…」
何でこんな事になったんだ…。嫌がらせか?嫌がらせなのか?何で生徒会メンバーの馬車に乗る事になってるの?空気が重いよ…。
馬車が六人乗れる所為で、生徒会の中に余り者の俺が入る事になったのがこの状況の始まり。
先輩が親切に俺の事を気にかけてくれるけど、それが原因で姉さんも春乃もこっちを睨みつけてるし、獅子原も不機嫌だ。この空気に苦笑いしている結城さん、助けてくれないかな…。
「怜華、柊の事はほっといていい」
「怜姉ちゃん、そんなに相手しないでご飯食べよ?」
「そうですよ怜華さん!移動している間に食べちゃいましょう」
「っ!…いただきま~す!」
皆、渡された携帯食料を食べ始める。
俺も食べよう…包みを剥くとスライスされた乾燥肉を硬そうなパンで挟んである。
1口噛むと見た目通り硬い…、なんとか噛み千切るが口の中の水分が無くなる。
皆も、何とも言えない顔をしている。不味くはないが硬いからな…。
「柊ちゃん、はいお水」
「…あ、ありがとうございます」
「怜華、柊に構いすぎ」
俺の事を随一気にしている先輩。そんな光景を眺めて不穏な空気になる馬車内。
………早く着かないかな~…。
現実逃避しながら、俺は静かにこの状況が過ぎ去るのをただ耐えるだけの時間を過ごした。
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