ダンジョン、カイエンヌ洞窟
気まずい空気の中、結局先輩から色々と心配をされながらしばらくして、馬車が止まり皆がそれぞれ荷物を持って馬車を降りる。
「皆、集まってくれ!」
馬車から降りると草木の匂いが風に乗り、緊張している俺の心を僅かに解す。緊張であまり気にしていなかったが、辺りを見回すと少しだけ開けているが、森にやって来ていたようだ。高低差がある土地らしく、見ると崖の様になっている所が目に入る。いま俺達がいるのは崖下の位置だ。
レデリックさんの呼び掛けに、学園の生徒達が一か所に集まる。
「これからダンジョンに入るが、ここからは皆気を引き締めてほしい!ダンジョンには何が起こるかわからない!」
目の前に大口を開けている洞窟の入口を見る。
一見はただの洞窟に感じる。ただ見つめているとどこか異様に感じる。まるでこちらを誘ってきている様な、見えない手に手招きをされている気さえしてくる…。
大丈夫、大丈夫だ。今出来る限りの準備はしたはずだ、レデリックさんとセレステルさんだって付いている。騎士団の人達が護衛だってしてくれる。
「まず、俺から入っていく!勇者様方は騎士の護衛と一緒に入って来てくれ」
そう言ってレデリックさんは洞窟に入っていった。
それから先輩達生徒会メンバーが二人の騎士の人と入っていく。
俺は足手まといにならないように、最後の方に入ろう。戦闘能力が乏しい俺が前線や途中にいるのは危険だし、周りに迷惑を掛けてしまう。
どんどん洞窟に入っていく人を見ていると、他の人達も流石に緊張しているようだ。表情が硬いのが見て分かる。普段よりも歩みが進まないのか、自分の足元を見ている人もいた。それでも少しずつ生徒達はダンジョンに入っていく。そしてついに最後の俺の番になった、ゆっくりと洞窟に入っていく。
…足場は気を付けていれば、最初の方は危なくはないだろう。
俺がそう思っていると、俺の後ろにはセレステルさんがちょこちょこと歩いてくるのが見える。どうやら前線はレデリックさん、後方はセレステルさんが担当していく様だ。
最悪、何かが起こった場合でも逃げ道を確保するのにセレステルさんみたいな強い人が必要なんだろう。必ずしも前線だけが危険という訳でもないだろうし…。
それからしばらく歩いていると、前方から爆発音がし肌にビリビリと衝撃が、そして突風がやってきた。
前の方で戦闘になっているようだ。
「あの…セレステルさん、聞いても良いですか?」
俺は少し後ろを向きながら、後ろで少し縮こまりながら歩いているセレステルさんに声をかける。
「は…はい、なんでしょう?」
「なんで洞窟なのにこんなに明るいんですか?」
明るいのだ。最初に洞窟の入り口を見た時は闇と言っても良いぐらい暗かったのに、ダンジョンに入ると足元もしっかり見えるぐらい明るい。
「そ…それは、このダンジョンはここまで調査しましたよという目印みたいなもので、ダ…ダンジョン専用の道具を使って…いるんです」
ダンジョン専用の道具なんてのもあるんだ。そういうのは、本よりも実際に見る方が良いんだろうな。
「そうなんですか、じゃあまだ調査してない所もこのダンジョンにあるんですか?」
「あります…こ…ここは二十階層までは調査ができていますが、そこから下はまだ調査できていません…」
「その理由を聞いても?」
「た…単純に私達の実力が足りていないのです」
レデリックさんやセレステルさん程の人達の実力でも足りない…。いや、この場合二人の実力というよりも時間が足りないのかもしれない。なにせ二人は騎士団の団長だ、ダンジョンに入る程の時間があるとは思えない。
「ダンジョンに入る利点はレベルが上がるからですか?」
「そ…その他にも魔物の情報収集であったり、冒険者の方達が一攫千金を狙って入るらしいです」
そんな事を話しているうちに視界が開けた。と言っても、大きな縦穴の真ん中にある幅1mぐらいの道を歩いているからだ。手すりもないので恐る恐る下が覗き込んでみると、下は深いのか暗く見えない。
縦穴の道を渡り更に下っていくと、後ろから複数の足音がしてきた。
「ま…魔物が来ます!警戒してください!」
セレステルさんが声を出す。
途端に、後ろにいた俺や周りの人達に緊張が走る。
落ち着け、手に集中しろ…。
俺は魂の剣である直剣を出しながら警戒していると、
グギャアァ!!
と、奇声を上げながらこちらに向かってくる子供サイズで肌が緑色の魔物が走ってくる!
ゴブリン、図鑑で見た魔物だ!
ゴブリンはボロボロの剣や棍棒を振り回しながら、一心不乱に俺達目掛けて突進してくる。
俺も剣を握り応戦する。
魂の剣とゴブリンの剣が激しくぶつかり衝撃、手に響く痺れが恐怖を増幅する!ここで油断すれば死ぬ…!
ゲームでは弱い存在だけど、本物と対峙すると緊張感や恐怖でそう簡単に倒せる相手だと思えなくなった。
両手で剣を強く握りゴブリンの剣を押し返そうとするが、ゴブリンの力は思っていたより強くなかなか押し返せない!
「ぐっ!」
喉から自然と声が漏れる。
渾身の力で剣を横に切り払いゴブリンと一度距離を置く。
「はぁ…はぁ」
緊張と恐怖、そして想像以上のゴブリンの力強さとの鍔迫り合いで息が荒い。
ゴブリンが剣を振り上げるのと同時に、左手を突き出す。
「火よ!」
瞬間、昨日より強い火が出る。二日間体調不良になりながらも魔法の練習をした成果だ。
ゴブリンは突然出た火に驚き、動きが鈍る。
ここだ!
剣を振り上げゴブリンの左肩に叩きつけ押し込む。瞬間、ゴブリンから苦悶の声が漏れた。
肉を斬る感触、剣を押し込み骨を砕きゴブリンの体を両断する。
「は…は…」
息が苦しい。
息を整えながら、目の前に倒れているゴブリンの死体を見ると、体を両断されて苦痛の表情で死んでいる。
俺が殺した…。
持っている剣を見るとゴブリンの青黒い血がベットリと付き、体を見ると所々に返り血が付いている。
初めて生き物を殺した。
一人言い表せない感情を抱いていると、
「キャァッ!」
女子の悲鳴が耳を劈く!
悲鳴がした方向を見ると、女の子がゴブリンに押し負け斬られそうになっていた。
ヤバい!!
剣を握り直し女の子を助けようとした時、
「火槍」
そう聞こえて、走り出そうとしていた俺の真横を細長い炎が通り過ぎる。あまりの速さに俺は啞然としてしまっていた。その炎がゴブリンに命中すると、一瞬で燃え上がりゴブリンは跡形も無くなった。
「大丈夫?敵を殺さないと、自分や仲間が死ぬ事になるわ。怖い気持ちは分かるけれどね?しっかりと止めを刺さないとダメ。殺すことに慣れろとは言わないけど、気を引き締めなさい」
そう言いながら炎が発射された方から歩いてくるのは、まさに美しいを体現したような妖艶なお姉さんだ。
騎士の恰好だけど、胸元が開いていて目に毒だ。つい見てしまう。
しかしそれ以上に、俺はつい気になる事を言ってしまった。
「誰?」
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