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【お陰様で4.5万pv】ハズレスキルで"最弱"霊獣ダンゴムシを引いた俺、実は"最強"霊獣だった件〜戦争を止めろ!王都の次は世界を救え  作者: タルトタタン
第四章 ダニエル救出編

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32 月下の来訪者

 ユダが、訓練場のすみに落ちていた縄を拾ってきた。


 ふるえる手で、マルコの両手首を、後ろで縛る。

 マルコは、抵抗しなかった。

 うつむいたまま、石だたみにひざをついていた。


「……ヤコブさん、傷を」

「大丈夫です。急所は外れていますから」


 ヤコブは、わき腹を押さえたまま、石像の上を見上げた。

「ニコラ」


 ニコラが、ふわりと肩に降りてきた。


 片手で紙に短く書きつけて、足の筒に入れる。


 [第一王子マルコ拘束。至急、本部より応援を]

「頼んだぞ」


 ニコラは一度だけ、ヤコブの頬に顔をよせて、夜空へ飛びたった。

 白い羽が、月の中で、小さくなっていった。


「……ユダさん」

「はい」


「奥様と娘さんは、本部で保護しています。もう、大丈夫ですよ」


 ユダの肩が、ゆれた。


 何か言おうとして、言葉にならなくて、ただ、深く頭を下げた。


───


 パン……


 パン……


 パン……


 ゆっくりとした拍手が、闇の奥から聞こえた。


「——!」

 ヤコブは剣を拾って、ふり返った。


 たいまつの光が届かない、訓練場の入り口。


 ひとりの男が、立っていた。


 旅人のような、色あせた外套。


 整えられた、あごひげ。


 月明かりの下で、青い瞳だけが、やけに澄んでいた。


「見事だったよ、副総監殿。いいものを見せてもらった」


 まるで友人に話しかけるようなおだやかな声だった。


(……この顔)


 五年前。


 外交の場で、国王の後ろに控えていたとき——。

「……リザエル王」



 背後で、マルコが息をのんだ。

「……着くのが予定かなり早いですね……」


 男は、マルコを見て、困ったように眉を下げた。

「マルコ殿下。爪が甘かったね。……でもまあ、ここまでよくがんばった」


「リザエル王…ダビデ殿」

「……交渉の……依頼された毒は実はまだ…」


「交渉?」

 リザエル王は、少しだけ首をかしげた。


「もう、いらないよ。ごめんね」


 マルコの顔から、すっと血の気が引いた。

 ヤコブは剣を構えて、一歩、前に出ようとした。


 ——出ようと、した。


(……?)

 足が、動かない。


 傷の痛みではなかった。


 剣をにぎる指も、爪の先ほども、言うことをきかない。


 ユダの手から、紫の魔石がこぼれ落ちた。


 カツン。


 拾おうとしたユダの手も、宙で止まっていた。


「無理しないほうがいいよ。傷にさわる」

 リザエル王は、本当に心配そうに言った。


「安心して。今夜は、誰も殺さないから」


 ゆらり。

 外套の足もとで、何かがゆれた。


 細くて、長い影。

 月の光を受けて、ぬれたように、にぶく光っていた。


(なぜだ……なぜ、誰も来ない……)


 訓練場の外には、兵がいたはずだ。


 城の中にも、見回りの足音があったはずだ。


 聞こえるのは、たいまつのはぜる音だけだった。


「静かだろう?」


 男は城を見上げて、目を細めた。


「この城も、王都も……みんな、ぐっすり眠ってる」


 それから、ふと思い出したように、ヤコブへ顔を向けた。


「ところで」

 にこりと笑った。


「霊獣ダンゴムシの使い……リク君は、どこにいるのかな?」


 ヤコブののどが、ひくりと動いた。

(リク君……)


(……戻ってくるな)


 せめて、鳩たちに。


 左目に意識を集めて、飛びたったばかりのニコラの視界を、さがした。


 ——何も、見えなかった。


 いつもなら迷わずつながるはずの白い翼が、夜空のどこにもいない。


 叫びたかった。


 声さえ、もう、出なかった。




続く

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