29 選んでくれてありがとう
コツン――。
小さな衝撃が甲羅へ伝わる。
「いて……」
ぼんやりと目を開ける。
濁った水の中。 一本の矢が、甲羅へ優しく当たっていた。
「……リクの矢?」
矢には一本の蜘蛛糸が結ばれている。
ゆらり。
濁流に流されながら、ダンさんの身体がゆっくりと回転した。
「リク……」
助けようとしてくれたんだ。
意識が薄れていく中――。
ふと、あの日のことを思い出す。
霊獣管理協会でスキンシップ訓練をしていた頃。
『リク……おいらのこと、恥ずかしくないか?』
最弱霊獣。
役立たず。
ハズレ。
そう言われ続けてきた自分は、聞くのが怖かった。
すると、リクは少し照れくさそうに笑って言った。
『……正直、そう思う時もある。』
(やっぱり……)
胸が締め付けられる。
だけど。
『でも――』
リクは真っ直ぐおいらを見て笑った。
『それ以上に、ダンさんが俺を選んでくれたことの方が嬉しかったよ。』
……
ゆっくりと目を開く。
(月明かり……)
水面から差し込む淡い光が揺れている。
(あの時……)
(おいら……すごく嬉しかったんだ……)
胸の奥が温かくなる。
(リク……)
(こんなおいらを選んでくれて……ありがとう。)
最弱で。
何もできなくて。
王都を浄化できたのだって、たまたまだし……。
(また……迷惑をかけちゃうかもしれない。)
それでも――。
小さな足がゆっくりと動く。
矢へ向かって。
(でも……)
ぎゅっ。
蜘蛛糸の結ばれた矢を、しっかりと抱き締めた。
(おいらは――)
(リクと一緒にいたい!!)
その瞬間。
「反応ありました!!」
サスケが叫ぶ。
「矢にしがみついています!」
「引き揚げます!!」
蜘蛛糸が張る。
リク、エト、ダニエルが一斉に糸を掴んだ。
「せーのっ!!」
グググググッ!!
濁流に逆らいながら、糸がゆっくりと引き上がる。
「頼む……!」
「切れるなよ!!」
水面が大きく渦を巻く。
そして――
ザバァァァァッ!!
小さな影が勢いよく水面から飛び出した。
「ダンさん!!」
リクが駆け出す。
両腕を大きく広げ――
空中で、ダンさんをしっかりと受け止めた。
「……リク。」
震える声だった。
「良かった……」
リクは力いっぱいダンさんを抱き締める。
「本当に……良かった。」
ダンさんも、小さな足でリクの服をぎゅっと掴んだ。
もう、離さないように。
続く




