26 水底へ消えた相棒
リクが振り返る。
「ダンさん泳げないだろ!!」
「溺れるぞ!!」
「少しくらいなら大丈夫!!」
ダンさんはそう言うと、ぴょんっと壁へ飛びついた。
小さな足が石壁に食い込む。
水が湧き出てる穴へよじ登るが──
濁流が身体を叩く。
ザバァッ!!
「うわっ!」
顔面に水を浴びる。
だが落ちない。
「もう少し……!」
穴との距離はあと数メートル。
しかし。
ゴォォォォッ!!
激流が再び叩きつける。
「わわわわっ!?」
ダンさんの身体が大きく揺れる。
壁にしがみつきながら必死に耐えた。
「ダンさん!!」
リクの悲鳴が響く。
「おいらなら大丈夫!」
そう言った直後。
ザバァァッ!!
さらに大量の水が顔面へ直撃する。
「あわわわわっ!!」
小さな足が滑る。
だが。
なんとか踏ん張った。
「い、今だ……!」
背中の泥を掴み、丸める。
──そして霊力を込める。
「泥団子――!!」
ダンさんの瞳が輝いた。
「百発百中で当たる魔法!!」
ビュンッ!!
泥団子が放たれる。
激流を切り裂き。
一直線に飛ぶ。
そして――
ビシャッ!!
水の噴出口へ命中した。
一瞬。
何も起きない。
次の瞬間。
ググググッ――。
泥が穴へ押し込まれていく。
そして。
ピタリ。
水が止まった。
「止まった!!」
エトが叫ぶ。
「やった!!」
リクも拳を握る。
ララが水面へ顔を出す。
「はぁっ……はぁっ……」
ようやく呼吸ができる。
ダニエルも安堵の息を吐いた。
「助かった……」
その時だった。
バサバサバサッ!!
「えっ?」
ダンさんの目が見開く。
天井付近の闇から飛び出した数匹のコウモリ。
一直線にダンさんへ突っ込んだ。
ドンッ!!
「わっ!?」
小さな身体が大きく揺れる。
足が壁から離れる。
「ダンさん!!」
リクが叫ぶ。
ダンさんは空中で必死に手足を動かした。
だが届かない。
「しまっ――」
次の瞬間。
ドボォォォンッ!!
ダンさんの身体が濁流の中へ消えた。
「ダンさん!!」
リクの悲鳴が響く。
ダンさんの姿は一瞬で見えなくなる。
「くそっ!!」
ダニエルは反射的にララの背から飛び降りた。
「ダニエルさん!?」
エトが叫ぶ。
だがダニエルは構わない。
水中へ潜る。
ザブッ!!
冷たい濁流が全身を包む。
(いた……!)
薄暗い水の中。
激流に流されながら沈んでいく小さな影。
ダニエルは必死に腕を伸ばす。
あと少し。
あと少しで届く。
「っ……!」
指先が触れそうになる。
──だが。
ゴォォォォッ!!
濁流が二人の間を引き裂いた。
「なっ……!」
ダンさんの身体が横へ流される。
ダニエルも逆方向へ押し流される。
指先が――
かすめた。
それだけだった。
掴めない。
届かない。
(待て……!クソっ!濁って見えねぇ!!)
必死に泳ぐ。
だが水流の勢いがそれを許さない。
それでも手を伸ばした。
しかし。
ダンさんの小さな姿は。
濁った闇の奥へ沈んでいく――。
「ダンさんっ!!」
水面へ顔を出したダニエルの叫びが、水牢に響いた。
続く




