27 最弱霊獣に託された力
ゴボッ――。
ダンさんの身体が濁流の中へ沈んでいく。
脚を伸ばす。
だが水を掻くだけだった。
流れが強すぎる。
上なのか下なのか。
もう分からない。
小さな足が虚しく動く。
しかし身体は沈むばかりだった。
(はぁ……)
苦しい。
胸が痛い。
息ができない。
冷たい水が口の中へ流れ込む。
意識がぼんやりとしていく。
遠くで誰かが叫んでいる気がした。
リクか。
ダニエルか。
ララか。
でも。
もう聞こえない。
音がどんどん遠くなる。
まるで世界そのものが離れていくようだった。
小さな脚が震える。
(神様は……)
ゆっくりと沈みながら思う。
(なんでおいらをこんな風に作ったんだ……)
濁った水の向こうに光が見える。
でも届かない。
(乾燥すれば干からびて死ぬし……)
瞼が重い。
(溺れそうにもなるし……)
身体も小さい。
力も弱い。
(弱いし……)
意識が少しずつ闇へ沈んでいく。
(結局……)
(おいらは……)
その時だった。
不意に。
懐かしい声が聞こえた。
『なぁ……ダンドドシン』
(……師匠?)
霞む意識の中。
懐かしい景色が浮かぶ。
まだ幼かった頃。
大きな岩の上で昼寝をしていた師匠。
誰より優しかった。
『我々霊獣ダンゴムシにはな』
師匠ダンディが言う。
『世界を救う力がある』
(世界を……救う……?)
幼い頃の自分が首を傾げている。
『え?』
『本当だ』
師匠は真面目な顔だった。
『我々には――神の使いの加護がある』
『神の使い……?』
その言葉を聞いたところで。
記憶が揺らぐ。
まるで水面に映る景色のように。
ぼやけていく。
(そういえば……)
師匠は何て言ってたっけな。
(終末の霊獣ミカエルと……)
そこで記憶が途切れる。
(なんだっけ……)
思い出せない。
ニ百年も前の話だ。
おいら、頭よくないし。
(師匠、ごめんな……)
苦しそうに笑う。
(おいら……忘れちゃった)
瞼が重い。
もう開かない。
(なんだったかなぁ……)
遠く。
遠くで。
誰かが呼んでいる気がした。
リクかもしれない。
──でも。
もう聞こえない。
(なんだか……眠くなってきたな……)
水中で。
ダンドドシンはゆっくりと目を閉じた。
そして――
師匠の声だけが、闇の中に残った。
『忘れるなよ、ダンドドシン』
『我々霊獣ダンゴムシは――』
続く




