23 7日間の砂時計
ヒュン――。
白刃が閃く。
「ぐっ……!」
マルコの右手から血が散った。
小指の爪が宙を舞い、石畳へ落ちる。
マルコは思わず剣を落とす。
カラン――。
ヤコブは剣先を向けたまま、一歩前へ出る。
「マルコ殿下」
静かな声だった。
「本部まで同行していただきます」
「王都隕石事件」
「農業村リリン襲撃事件」
「知っていることを全て話していただきます」
マルコは小指を押さえながら、ふっと笑った。
「……良いのか?」
「何がです?」
ヤコブの眉が僅かに歪む。
マルコは顎である方向を示した。
「あの砂時計だ」
「砂時計?」
ヤコブは視線を向ける。
訓練場の端。
小さな石碑の上に、一つの砂時計が置かれていた。
上部の砂は、ほとんど残っていない。
さらさらと最後の砂が落ちていく。
「……意図が読めません」
「くくっ……」
マルコが喉の奥で笑った。
「くくく……!!」
その笑いに、ヤコブは本能的な危険を感じる。
剣を構え直し、一歩下がった。
「何を企んでいる」
「もう時間だな」
マルコは答えない。
ただ笑っている。
ヤコブの背筋を冷たいものが走った。
「知っているか、ヤコブ」
マルコがゆっくりと言う。
「コウモリの尿にはな」
「特殊な金属を腐食させる性質がある」
「……何?」
「その金属で作られているんだよ」
マルコの笑みが深くなる。
「ある川の水を堰き止める金具がな」
ヤコブの瞳が揺れた。
嫌な予感が形になる。
「まさか……」
「ちょうど七日間」
「コウモリに尿をかけ続けさせた」
マルコは愉快そうに笑う。
「ただの地下牢だと思ったか?」
――同時刻。
古城地下牢。
「あと少しだ!」
ガリガリガリ――。
ダンさんが勢いよく石壁を削る。
「もうすぐ柵ごと外れるぞ!」
エトが安堵の息を吐きかけた、その時だった。
ザァァァァァ――――ッ!!
「!?」
牢の天井付近にある排水口のような穴から、大量の水が流れ込んできた。
「なっ……!?」
ダニエルが目を見開く。
「水だ!!」
冷たい濁流が一気に牢内へ流れ込む。
足首。
膝。
みるみる水位が上がっていく。
「ダニエルさん大丈夫ですか!?」
エトが叫ぶ。
ダンさんも石を削る手を止めた。
一方その頃。
訓練場。
マルコは笑っていた。
「はははははっ!!」
「そうだ」
「あれは地下牢じゃない」
月光の下。
マルコの顔が歪む。
「あれは――水牢なんだよ」
続く




