22 第一王子の絶望
「……理解できません」
ヤコブは首を振る。
「私にとって、伝書鳩たちは家族のような存在です」
「はっ、何が家族だ」
マルコは吐き捨てる。
「たかが鳩だろ?」
「お前と俺は複数契約できる……鳩なんて、捨てるほどいるだろう」
ヤコブの眉が歪んだ。
「……あなたは才能がある ……遠隔で千体を操れるほどに」
「それなのに……なぜ、そんなに不満そうなのですか」
「ふっ……」
マルコは鼻で笑った。
「平民にはわからんさ……第一王子として生まれ、期待され……」
「成人の儀で召喚されたのが――コウモリだ」
拳が震える。
「クソみたいな霊獣だ」
マルコの瞳が揺れた。
脳裏に浮かぶ。
忘れたくても忘れられない、あの日の光景。
――成人の儀。
城内第一聖堂。
王族だけが入ることを許された神聖な場所
第一王子マルコが黒の石碑の前に立つ。
次代の王。
誰もが信じていた。
現れるのは、伝説級の霊獣だと。
黒の石碑が輝く。
王族が息を呑む。
そして――
バサッ。
一匹のコウモリが飛び出した。
「……えっ」
マルコは目の前の光景を信じる事が出来なかった。
あまりにも静かだった。
「……コウモリ?」
幼いハンナが呟く。
マルコは震える手で振り返った。
玉座の前。
父である国王が立っている。
「……以上か」
低い声だった。
神官が青ざめながら頷く。
「は、はい……」
国王はゆっくりと座り直した。
それ以上何も言わない。
だが。
その目だけで十分だった。
『王になる器ではない』
そう言われた気がした。
隣では王妃が小さく呟く。
「そんな……」
肩が震えている。
その言葉が息子を案じているようには、マルコには聞こえなかった。
だが全員が思っていた。
期待されていた第一王子の霊獣が――『ただのコウモリだった』と。
その日から。
マルコは狂ったように鍛えた。
一体。
十体。
百体。
五百体。
千体。
誰にも真似できないほどの数を操れるようになった。
だが。
どれだけ成果を見せても。
父は頷くだけだった。
「そうか」
それだけ。
母も笑わなかった。
「もっと強い霊獣なら……」
そんな言葉を、何度聞いたか分からない。
──何体操ろうが。
──どれだけ努力しようが。
──最初の評価は変わらなかった。
――コウモリだから。
マルコは自嘲するように笑った。
「千体操れる? だから何だ!」
拳が震える。
「俺が欲しかったのは……」
「霊獣ミカエルや、霊獣麒麟のような存在だ!」
「弟のルカや……まして、半分平民の血が混ざったハンナが召喚してしまうとは……」
「王族でも選べない…… 理不尽だと思わないか?」
「……知っているか、ヤコブ」
マルコは力なく笑った。
「コウモリはな耳がいい」
その声には、自嘲が混じっていた。
「俺は最初便利だと思っていた」
「城中の会話が聞けるからな」
だが。
マルコの瞳が暗く沈む。
「聞かなければ良かった」
成人の儀から数日後。
夜の王宮。
窓辺にいたコウモリが拾った声。
「……全く」
母の声だった。
「私の家系に傷が付くわ」
マルコの身体が固まる。
「代々、聖の魔法を扱うコダール家で……」
「よりによってコウモリなんて」
侍女が慌てる。
「お、お言葉ですが王子様は……」
「結果は出しているわ」
王妃は遮った。
「けれど第一王子なのよ」
「もっと相応しい霊獣があるでしょう」
その言葉は。
刃より深く刺さった。
そしてさらに。
「そして数年後だ」
マルコは笑う。
成人の儀。
第二王子ルカの前に現れたのは。
麒麟。
聖堂が歓声に包まれる。
神官が震える。
国王が立ち上がる。
「素晴らしい……!」
そして。
母は。
ルカを強く抱きしめた。
「すごいわ!ルカ!」
「これでこの国は安泰よ!」
その笑顔を。
マルコは一度も向けられたことがなかった。
その瞬間。
マルコの中で何かが完全に壊れた。
マルコはヤコブを睨む。
「お前だってそうだ!」
「伝書鳩じゃなければ……その頭脳と剣で、総監にだってなれただろ」
「……お互い、恵まれなかったな」
「――違います」
ヤコブは静かに答えた。
「私は、霊獣伝書鳩使いだからこそ……今の自分があるのです」
剣を握る手に力がこもる。
「……どうか、なめないでいただきたい」
ヤコブは、まっすぐに剣を構えた。
続く




