21 月下の決闘
マルコは、ふっと笑った。
「……はははっ。降参だ。ヤコブ」
カラン――。
彼は自ら剣を床へ置く。
その音が、静かな訓練場に響いた。
ヤコブは数秒だけ警戒した後、ゆっくりと剣を鞘へ収めた。
「……一体、何が目的ですか?」
「ふふ……戯れだ」
月光の下。 マルコは楽しげに目を細める。
その笑みの奥に、 底知れない何かが見えた。
「……マルコ殿下」 「質問、よろしいでしょうか」
「許そう」
ヤコブは静かに口を開く。
「王都隕石事件、……農業村リリン襲撃事件」
わずかに空気が張る。
「何か、知っている事はありますか?」
「…………」
マルコは一瞬だけ黙り込んだ。
そして。
「ふふ」
喉の奥で笑う。
「聞いてどうする、ヤコブ」
「……もし、何らかの関与がある場合」
ヤコブの瞳は真っ直ぐだった。
「本部にて、詳細を聞かねばなりません」
「……そうか」
マルコは小さく頷く。
だが次の瞬間。
その口元が、 ゆっくりと吊り上がった。
「では――話すわけには」
ニヤリ。
「いかないよなぁ!!」
パチン――。
マルコの右手から乾いた音がした。
「――ッ!!」
直後。
バサァァァァッ!!
闇が、弾けた。
訓練場の上空。 城壁の影。 松明の裏。
無数のコウモリが、一斉に飛び立つ。
百。 二百。
いや――それ以上。
赤い瞳が、夜を埋め尽くした。
そして次の瞬間。
黒い津波のように、 ヤコブへ襲いかかる。
ギィィッ!!
鋭い鳴き声。 視界を埋め尽くす黒。
だが――
「鳩の動体視力を、舐めないでいただきたい」
ヒュン――ッ!!
白刃が月光を裂く。
一閃。
二閃。
三閃。
迫ったコウモリが、空中で次々と斬り落とされた。
ヤコブの目は、一切ぶれていない。
黒い羽が、夜空へ散る。
床に落ちたコウモリ達はもがき苦しんでいた。
ヤコブは眉をひそめた。
「……このコウモリ達は……あなたの霊獣では?」
「ああ、そうだが?」
マルコは薄く笑う。
「可哀想だとは、思わないのですか」
「はぁ?」
マルコが鼻で笑った。
「駒だろう」
「私は千体近くを操る事ができる」
「どうせコウモリなんぞ、すぐ湧いてくる」
その声に、温度はない。
一瞬。
ヤコブの瞳から、 感情が消えた。
続く




