19 石を齧るダンさん
「ダンさん? どういう事だ?」
ダンさんは、ぴょんと外壁へ飛び乗る。
そして、鉄格子の周囲の石壁に触れた。
「……やっぱりな」
カリッ――。
一口、石を齧る。
すると。
ぽろり、と欠片が崩れ落ちた。
「この石、北部の寒さで劣化しにくい石だな」
「でも、その分――強度は弱い」
ダンさんがニヤリと笑う。
「この石なら、おいら削れるぞ!」
「えっ……!?」 エトが目を見開く。
「柵そのものは無理でも――」
「周りを削れば、柵ごと外せる!」
「そんな事が……」
ダニエルが、わずかに顔を上げる。
「ダンゴムシの霊獣が……」
「へへっ。おいらこういう穴掘り系は得意なんだ!」
ダンさんは胸を張る。
「さっそく齧るぜぃ!」
ガリガリガリ――。
静かな夜に、石を削る音が響き始める。
その音を聞きながら。
エトは、初めて少しだけ安堵した表情を浮かべた。
───
同時刻、城内訓練場。
夜気を裂くように、松明の火が揺れている。
ヤコブは足を止めた。
視線の先。
そこには、審判服を着た二人の男が立っていた。
訓練場の周囲には、最低限の兵。
妙なほど静かで――妙なほど、整いすぎている。
(……違う)
胸の奥で、嫌な感覚が膨らむ。
「……マルコ殿下」
ヤコブが低く言う。
「稽古のはずでは?」
マルコはゆっくり振り返った。
月光の下。
その口元だけが、薄く笑っている。
「いや……決闘と伝えたはずだが」
「ヤコブ」
マルコの視線が、真っ直ぐ突き刺さる。
笑っているのに、目だけが冷たい。
その瞬間。
ヤコブは理解した。
(仕組まれている)
これは逃げ場のない、処刑場だ。
続く




