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【お陰様で4万pv】ハズレスキルで"最弱"霊獣ダンゴムシを引いた俺、実は"最強"霊獣だった件〜戦争を止めろ!王都の次は世界を救え  作者: タルトタタン
第四章 ダニエル救出編

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14 副総艦の妻

 森を抜けた頃には、馬は大きく息を切らしていた。

 ぜぃ、ぜぃ、と荒い呼吸が夜気に混じる。

 日はすでに完全に落ちて、辺りは静まり返り、風の音だけが木々を揺らしていた。

 

「……ここだな」

エトが周囲を見渡す。

「この辺りは魔物が出ない。ここで野営する」

 

 リクが頷いた、その直後。

霊獣[アシダカグモ]サスケがするりと地面に降りる。

 

 次の瞬間――

細い糸が、音もなく広がった。

 

 木々から木々へ、地面から空間へ。半径五十メートルほどの範囲を囲うように、中心には糸が幾重にも張り巡らされていく。

 

 やがて中心のそれは、テントのように空間を覆うねぐらへと形を変えた。

 

ダンさんがひょっことローブから顔を出す。

「すごいな!さすが蜘蛛の霊獣!」


「これで、半径50メートルは聴覚型の霊獣が侵入したら感知できる」

エトが淡々と言う。


「この糸は音を吸うからな。霊獣の聴覚を拡張しても聴こえないはずだ」


リクは中心の空間に一歩踏み込む。

風の音すら、遠くに消えたようだった。


「すごいですね……」


 

「休むぞ」

エトは小さな袋から携帯食を取り出す。そして、ひとつの瓶を開けた。

 

 中には、なめらかなパテ。

「……春香さんが用意してくれたやつですね」

「あぁ」

短く答える声は、どこか柔らかい。

 

 リクは、それを見て――

ふと、今朝の光景を思い出した。

 

――あれは、朝食の最中だった。

 

 リクとエト、そして春香。

 静かな時間。

 

 その空気を切り裂くように――

 霊獣[伝書鳩]アベルが窓から飛び込んできた。

赤い封筒がくわえられていた。

 

 エトと春香が、同時に立ち上がる。

 

「緊急だ! ダニエルさんの救出指示だ」

空気が、一瞬で変わる。

 

「三分後に出る。準備しろ」

「わ、わかりました!」

リクが慌てて立ち上がる。

 

 だが春香は違った。すでに動いていた。

 

 無駄のない動きで携帯食の袋をまとめ、テーブルに置く。

 そのまま外へ駆け出し、馬の手綱を取り、玄関を開け放つ。

 

 その表情は、いつもの穏やかさではない。

凛とした、緊迫した表情だった。

 

 リクは水筒を掴み、ローブを羽織る。

 その肩に、ダンさんが軽やかに飛び乗った。

 「ダニエル見つかったのか!?」


 エトはすでに装備を整えながら手紙を読む。

「場所はアルク地方の古城。ダニエルさんの生存が確認された」

「良かったな!」


「しかし北部地方か……夕暮れまでに中間の森を抜けないと」

 

「エト!」

春香が馬を引いて戻ってくる。

 

「もう行きます。急がないと――」

エトが馬に跨ろうとした、その時。

 

「待ちなさい」

春香が、袋を差し出す。

 

「必ず食べなさい。少しでいいから」

まっすぐな視線。

「あなたは、自分のことをおろそかにしすぎる」

 

 一瞬だけ、沈黙。

 

「……わかりました、春香さん」

 エトは素直に受け取った。

 

 春香は小さく頷き、二人を見る。

「気をつけて」

 

「行くぞ、リク!」

アベルが空へ舞い上がる。

 

「はいっ!」

馬が、地を蹴った。勢いよく走り出す。

 

 その中で、リクはふと振り返る。


 屋敷の前。

春香は、そこに立っていた。

両手を組み、深く頭を下げている。

 

 ――祈るように。

 

 ずっと、そのまま。

 

 リクは、ゆっくりと目を閉じた。

 

(……絶対に助ける)

  


 夜の静寂の中。

決意だけが、はっきりと胸に残っていた。





続く

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