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「神奈川です」
「そうだったな。俺の家族は静岡だ」
「家族って両親ですか?」
「両親もだし、今は妻と子供も遊びに行ってる」
「無事だといいですね」
「ああ、全くだ。こんな思いは俺たちだけで十分だよ」
そこで三上が立ち上がり、宇崎さんはしまったといったような顔になる。
「悪かったな。三上さんの気持ちも考えずに家族の話なんて」
三上はぶんぶんと首を横に振り「私は宇崎さんと小野寺さんのご家族には本当に無事でいてほしい」と口にした。
「ありがとう」とお礼を言うと三上はグッと下唇を噛んで目を潤ませると、その後、ニコリと笑った。三上の初めての笑顔は素敵だった。
「私、家に帰ります」
「は? あの街に戻るってのか?」
「はい」
「殺されるぞ」
「それでも良いんです」
いずれはあの化け物がここへやってきて殺されるのかも知れない。
だって逃げ道なんてないんだから。
でもだからってわざわざ死にに行くなんて。
「諦めるなよ。ひょっとしたらヘリかなんかで助けが来るかもしんないじゃん」
「そんなんじゃないんです」
三上の笑顔は卑屈に歪んだ。