番外編短編・次世代のギフテッド一寸法師のその後
二十代の生活保護者が増えているらしい。
「あーあ。俺、子供の頃に早期診断されて福祉に繋がったわけだけど、今は後悔している」
俺は今、旧友と会っていた。小学校の頃の同級生。同じ支援クラスだった。
「結局、高校もいけなかった。大学なんて夢さ。それにもうお金もつきそうだし、生活保護も考えているところ」
「そうか……」
「一寸法師くんはいいね。親に大学に行かせてもらえてるんだろ? 頑張って就活しないと。正直、日本では新卒カードがプラチナチケットだからね」
そんなことを言われても困る。大学卒業後は慎ましく身の丈にあった福祉作業所で農業でもやろうと思ってたから。早期に福祉に繋げてくれた母のことを思うと、その方がいい気がして……。
しかし旧友と別れた後、ひとり、考え込んでしまう。本当にそれでいいのだろうか。もう夢も希望も捨ててしまったが、新卒カードをドブに捨てる必要は?
ふと、おおじさんの顔が浮かぶ。母の弟だ。おじさんも俺と同様の障害をもち、一寸法師と言われている男。
おじさんの人生も紆余曲折だ。子供の頃には福祉に繋がれず苦労したらしい。母が言ってた。俺のばあちゃんが、おじさんを天才扱いしてちゃんと教育しなかったとか。
とはいえ、おじさん。なんだかんだで死んではいない。今は派遣社員だ。障害を隠して働いているらしいが、とある工場の品質管理課の分析の仕事で、ガスクロの水分計の分析がおもしろいんだろうだ。幸い、特性についてもバレていないという。
そんな話を聞いてしまうと、このまま福祉に染まり「生涯ずっと支援される」状態ってどうなんだろう。おじさんについてはさんざバカにしてきた。福祉に繋がらないのはプライドが高いからとか、見栄っ張りだとかも言ってしまったが、本当にそうだろうか?
そんな悩んでいる時だった。ばあちゃんの家に行くことになった。最近、具合が悪く引きこもっているから様子を見に来て欲しいと母からの要望だった。
「ばあちゃん、きたよ」
ばあちゃん家、断捨離したたらしい。家具も最低限しかない。インテリアも撤去され、病室みたいなシンプルさ。
「あぁ、一寸法師ね」
俺のことを呼んでいるのか、おじさんのことを呼んでいるのかもわからない。ばあちゃんの目、虚ろだった。それに母からは最近、認知症の疑いもあると言われていたし。
「一寸法師、数学はどう? 順調?」
これは完全におじさんだと勘違いしているな。俺はおじさんと違ってそんな才能はない。でも、わざわざ否定する気にもなれない。ばあちゃんの小さな背中やしわしわな手を見ていたら、余計なことを言いたくなくなった。
「頑張って、一寸法師。あなたは数学の天才なのだから」
「う、うん……」
「好きなことをやるのよ。自分の息子が何にもやりたいことが無いとか、我慢しているとか聞いたら悲しいじゃない?」
ばあちゃんの目、潤んでいた。今にも泣きそうな目だ。
「一寸法師、あなたは天才。誰よりも天才よ。私の子供なんだから。ええ、何でもできるわ。鬼退治だってできるし、打ち出の小槌だってあるわ」
俺、何と言っていいか本当にわからない。母はばあちゃんのこと、毒親なんて言ってたが、本当は違うんじゃないか。ただ愛情の伝え方が不器用だっただけ?
「うん……。ばあちゃん、その通りだよ」
家に帰ったら、就活について調べてみるか。もう全部諦めてきたけれど、やっぱり何もやりたい事が無いなんて悲し過ぎるよな。




