番外編短編・夢追いおじさんのその後
とある漫画が炎上したらしい。発達や知的障害グレーゾーンのミナちゃんがヒロイン。タイトルは「ミナちゃんと鈴木さん」。ミナちゃんの受難を露悪的に描き、福祉団体からも声明が出るほど。
「へぇ。そんな漫画あるのか。今時の漫画はわからんなぁ」
俺はそんなネットニュースを見ながらため息が出る。また受賞できなかった。一次通過はできるようになったが、どうもその先がわからない小説志望の夢追いおじさん。
この炎上を見ながら思う。障害者を露悪的に描いたらバズって書籍化とかできるんだろうか。バイト先のお客さんからも職場の障害者雇用の人の愚痴、聞くし。人の中にある潜在的な悪意を引き出したら……。
「いやいや、そんなことは倫理観的にダメだ。やっぱり俺はお気楽な青春ラブコメが好きだ。こういうのが好きなんだよ。最後はハッピーエンドがいい」
結局、またプロットを練って執筆している。アホだなぁ、自分。こんなに書いたって報われるかわからないのに、身体が勝手に作品に向き合ってしまうんだ。
「しかしなぁ……」
例の炎上漫画の福祉団体の声明を見ながら、なんとも言えない。これで漫画家の人生を終わらせるのだって可能だ。ラノベ作家を目指す俺としては全く笑えないなぁ。表現の自由とはなんなのだろうか……。
「あれ。あの子、一寸法師くん?」
そんな時だった。少し前、創作講座で出会った一寸法師くんと再会した。発達障害を持ち、自称一寸法師という変わった彼。別に嫌いじゃない。一緒にファミレスに誘ってランチを食べることにした。
「奢ってやるよ。サイゼのミラノ風ドリア、うまいよな」
「ありがとう」
一寸法師くんは素直に笑ってる。うーん、「ミナちゃんと鈴木さん」を読んだ後だと、同じ障害者とはいえ一寸法師くん全然違うな。むしろ「ミナちゃん」より印象よく見えてしまった。これって功罪か。もしかしたら、障害者を聖人君主みたいに描くこともそれはそれで「罪」の方が生まれる可能性もある。
「ところで君はずっと小説書いてるのか?」
「ああ。落選続きだけどね。ネットにあげてもpvゼロだった。はは……」
やばい、これ以上語ると愚痴にしかならない。一寸法師くんも微妙な表情だ。俺は空気を読み、話題を変えた。
「一寸法師くんはどこで仕事してるの?」
「うん、俺は今は障害隠して派遣で働いてる。とある油関係の工場なんだが、分析の仕事でさ。ガスクロとか水分計で分析するのが楽しい。実験室みたいな職場で」
そう語る一寸法師くん、楽しそう。幸い、上司や同僚にも恵まれているらしく、ミスや遅刻も最低限に抑えられているとか。
「良かったな、一寸法師くん」
「あぁ。人生どうにかなるよ。障害あっても別に死にやしない。バッドエンドなんて簡単に確定しないから、なんとか生きられる。君もそうだ。まだまだ夢の途中だろ?」
そう語る一寸法師くん、優しいな。俺の方こそ励まされているみたいじゃないか。
「一寸法師くんはもうラノベ作家は目指さない?」
「そうだなぁ。なんか創作自体はしたいけど、今は別にもういいかなっていう」
一寸法師くん、もう夢については未練がなさそう。ちょっと勿体ない気もする。もし本当に一寸法師くんに才能があったとしたら……?
「そうか。でも一寸法師くんが幸せだったらいいんじゃない?」
結局、結論はこれしかない。




