番外編短編・やり直しギフテッド一寸法師
ある日、教会の帰り、スマホを見ながら歩いていた。知り合いの漫画家が炎上しているらしく、それを眺めるのが面白くて仕方ない。
「やっぱり人の不幸は蜜の味だなぁ。いや、ポップコーンみたいなもんか。映画のお供みたいな?」
そんな事を考えながら歩いているのが良くなかった。
ドッカーン!
トラックにぶつかり、あえなくご臨終。ギフテッド一寸法師、完。
◇◇◇
目が覚めたら、おかしいことに気づいた。なんか世界が終わるとか、大予言とかそんな話題で盛り上がってる。
「は?」
しかも俺、死んでない。小学生に戻っていた。パソコンはあるが、スマホもSNSもない世界。なんじゃ、これは?
トラックにぶつかって死んだはずだが、まさかの小学生に逆戻り。これは転生か。なんなのか。神のご褒美か。陰謀論者の友人、蔵橋に誘われているとはいえ、教会に通って良かったということか?
「つまり、俺。小学生から人生やり直せるんか?」
厄介な発達特性はそのままだが、もしかしたらあらゆる困難を最小限に抑えられるかも知れないな。まずは母がギフテッドとか天才とか夢物語を語る前に、福祉に興味持ってもらおう。
「ママ、僕、特別支援のクラスに入りたい」
どれだけ特性に苦労しているかも語り、さりげなく福祉関連の書物を読ませた。これで俺、幼少期からの福祉エリートになれるぞ。このまま上手くいけばぬくぬくと福祉漬けのいい感じの人生が送れるかもしれない。なんという薔薇色の人生。
しかし……。支援級に入ったり、医療に繋がったのはよかったものの、どうも思っているのと違う。
「お母さん、息子さんには決してジュースを飲ませたらダメです。砂糖で脳が悪化します」
主治医が藪医者だった件。毎回妙なことを言われ、気づくと母は立派な自然派ママになっているじゃないか。添加物はもちろん、砂糖や肉、牛乳も禁止され、特性が治ると噂のカルト宗教の集まりにもで出るようになってしまった。
それだけだったらまだ救いようがあるが、姉はこの件で栄養失調になってしまい、父は女を作って逃げた。元々、家庭に無関心だったとはいえ……。
肝心の俺も支援クラスでとっても退屈だった。確かにいじめは無い。教師も優しいが、毎日「ありのままでいい」って言ってくるし、普通級の奴らが遠足に行っているのを見かけると、羨ましくて歯軋りしてしまう。いいなぁ、遠足で科学博物館の見学……。
そんな俺だったが、祖母の介入でなんとか母はカルトを辞められたが、借金が残った。姉も俺も大学進学が危うい様子だ。
結局、姉は高卒で働きに出て逃げるように家を離れた。一方、俺は幼少期から福祉漬けだった為、高卒資格もない。中卒で作業所暮らしが決まっている。作業所に通うもののスズメの涙の給料で、家に帰ると母に毎日怒鳴られる日々。しかも初診日も小学生時代のため、障害年金をとるのにも余計に面倒な状態。
「なんだ、コレは。全く薔薇色の人生にならん……」
まあ、元々が特性を持った「俺」だしな。どんな環境を変えてもどんな選択を選んでも、結局、結果は同じなのかもしれない。
それに好きな数学も全然できない。一寸法師くんと言われないのも違和感しかない。案外、この呼び方が気に入っていたのかもしれない。
「神様、もういいです。十分にわかりました。親でも環境でもなく、俺自体がガチャ失敗だったんだな。もう誰のせいにもしません……」
そう祈った瞬間だった。元いた世界に戻っていた。死んでもいなかったし、転生もタイムスリップもしていなかったらしい。
「はぁ……」
それでも、ため息が出る。結局「俺」は一寸法師として生きていかないといけないらしいから。
「まあ、それでもしょうがないか。今の人生も、案外良いルートを選べているかもしれないし……?」
隣の芝は青くないし、人生はなるようにしかならないのかもしれない。




