番外編短編・ファリサイスピリッツ
新約聖書にはファリサイ派という宗教家が出てくる。ルールばっかり守っていやらしい宗教家だ。イエス・キリストも痛烈に批判していた。
「ねえ、その相槌の仕方やめてくれない? わざとらしいなぁ。雑談の時も無理して大きなリアクション取らなくていいから。それにおうむ返しするのもやめて」
ある日、上司から言われた。おかしいなぁ。就労移行のコミュニケーショントレーニングではそうすると良いって教わったのに。
・相槌はテンポよく
・雑談のリアクションは大きく
・話しにはおうむ返しをする
ちゃんと努力して、ルール通りに頑張っているのになんで?
そんな私、ブラック企業で鬱病が悪化し、社会復帰が困難ということで障害者手帳を取得した。福祉士の勧めで就労移行の福祉施設に行き、なんとか障害者雇用で事務職につけた。それなのに、なんで? 就労移行で習ったコミュニケーショントレーニング、なんだか受けが悪い。
「福祉士さん、コレってどういうことですかね」
ちょうど福祉士と面談する機会があり、質問してみた。福祉の大学を出たばかりという福祉士はうーと唸ってる。メガネに黒髪。真面目さを絵に描いたような人物だ。こういう雰囲気の人、職場にはいないなぁ。一応大手企業だけど、障害者雇用の私を除き、茶髪やネイルも派手な人多いし。だからと言って嫌味な感じはしないのがの不思議。私のコミュニケーションを指摘した上司もそんな雰囲気だ。
「もしかしたらコミュニケーションて小手先のルールでなんとかなるもんじゃないんですかねぇ。むしろ今っぽい抜け感あるメイクでもしていた方が効果的かも?」
そう言うと、福祉士は黙り込んでしまった。
その帰り、私は教会へ向かった。おじさんがクリスチャンで牧師。時々遊びに行く。今は一寸法師くんという変わり者もいて気になる。
彼も発達障害者らしい。福祉に関わったこともあるみたいで、この件について相談するか。
「なるほど」
一寸法師くんはニヤっと笑っていた。そういった経験、一寸法師くんにもあるらしい。
「普通の人に擬態しようとして努力して努力した結果、そういうルール通りのテンプレ人間になるんだよな。普通の人からしたら、なんか過剰で不自然に見えるかも」
「そっか……。なんか就労移行で頑張れば頑張っただけ損したみたい」
「そーだよ。福祉施設は基本、最底辺に基準が合わせてあるし、頑張れば頑張るほど損さ。たぶんそんなコミュニケーションの授業とかやる気ない連中のが結果的に生きやすい」
「そんなぁ。福祉って何なの……。すごいパラドックス……」
思わず愚痴が出てしまう。でも何となく今の結果になったのは分かる。コミュニケーションのルールだけに囚われていた。正解ばかり気にとられ、自分のことしか考えていなかったかも。まるでファリサイ人。ファリサイスピリッツの私。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。だから俺は福祉を辞めたが、かえって生きやすくなったなぁ。本当に福祉に真面目に付き合えば付き合うだけ損だしな。君も適当にやったらいいよ」
「て、適当でいいの?」
「そんな普通の人も案外、何にも考えずに適当に生きてるよ」
一寸法師くん、笑ってた。気の抜けるような笑顔。そうかもしれない。私、ちょっと考えすぎていたかも。




