番外編短編・救いの専門家
病院で知り合った一寸法師くん、なぜか俺の教会も見学したいというので連れてきた。
「牧師さん、本当にここ教会です? マリア像もないし、キリストの絵も飾っていないじゃないか。学校の教室みたいだ」
「プロテスタントの教会だとそんなもんだ」
「もしかして偶像崇拝禁止?」
「それもあるが、うちの教会は金がない!」
「開き直って言うこと?」
一寸法師くんは引いていたが、教会は初めてらしい。賛美歌集や聖書に興味を持ち、「すげー鈍器本!」と言うぐらいだったが。
そこへ信徒の一人、蔵橋くんが来た。四十すぎの独身男性で陰謀論者だ。陰謀論界隈で話題になっているヨハネの黙示録の解説を聞きたいと教会にやってきた変わり者だ。といっても珍しい存在でもない。教会はいろんな人が来る。
「へえ、陰謀論者か。今だに反ワクチンやってるのか?」
一寸法師くん、空気が読めないらしい。案の定、蔵橋くんはカチンときたらしい。なぜか一寸法師くんを手帳もちだとレッテルをはり、福祉センターに行けばと煽ってきた。
「どうせ障害年金も医者を騙して診断を重く書いてもらってるんだろ? 陰謀論者のインフルエンサーが障害年金は怠け者の制度って言ってたぞ!」
「何だって!!!」
これには一寸法師くんの目が吊り上がっていた。一応止めたが二人ともヒートアップしてしまい、牧師の声など耳に届かない様子だ。
「やい、怠け者。神が見てるぞ、不正に障害年金受給してるって!」
「何だって!」
一寸法師くん、顔を真っ赤のしながら障害年金の申請の難しさを吠える。手続きの手伝いや代行を社労士に依頼すると「成功報酬」として何ヶ月分か取られることも言い返していた。
「精神疾患の労災の申請もやってみろよっ! あれも証拠揃えて経緯を文章にして申請するの超大変なんだからな! 障害年金も労災も怠け者の制度じゃない! 生きるために必死になって勝ち取るもんだ!」
一寸法師くんの目、血走ってる。
「他にも福祉の申請主義のこと、調べてみろよ!!!! 決して怠け者の制度じゃねぇ!!!! 社労士の勉強しようかと本気で考えてしまうぐらいだ!!!!」
これには蔵橋くんも黙ってしまった。
後日、蔵橋くんが教会にやって来た。障害年金、労災、自立支援医療の申請などAIに質問しながら勉強したんだという。
「この制度、困っている人をさらに追い詰めるような複雑さだった……。単なる怠け者が楽するために申請するような制度じゃない……」
蔵橋くん、自分の無知さにシュンと落ち込んでいた。
「あいつ、また教会来てくれるといいけど……。俺、余計なこと言っちゃったかなぁ?」
「大丈夫。あれで案外、しぶとい性格だし、陰でこっそり祈っているみたいだし」
「そうか。まあ、主に任せてるしかないね。俺には一寸法師を救えないし」
「そう、主に任せなさい。主は救いの専門家なんだから、大丈夫」
そう言うと、蔵橋くん、少し笑顔を見せていた。
「祈ろうか?」
「ええ、牧師さん」
そう、餅は餅屋。救いは救いの専門家に任せるのが一番だ。




