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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の推し

 ご当地アイドルは二年、地下アイドルは一年しか持たなかった。


「こんばんわ! 今夜はみんなからお悩み相談を募集するよ。どんな質問でも大歓迎!」


 でも、なぜか配信者だけは長続きしている。顔出しもしていないし、動画もアニメキャラが出ているのに。おかしなものだ。


 しかも、低身長の男には人権はないという発言で炎上したのにも関わらず、なぜかリスナーは増えていき、それだけで生活できるようになってしまった。本当におかしなものだ。


「おぉ、また一寸法師くんからコメント。スパチャありがとうー。うん、一寸法師くんが低身長だってことは知ってるから。あはは」


 熱心なリスナーが一人いた。名前は一寸法師。なぜそんな名前かは謎だが、小さな身体にコンプレックスがあるらしく、私に何度もコメントを送り、投げ銭までしてくる。正直、ありがたいけれど、他のリスナーに比べてちょっと変。その熱量、何?


 動画配信サイトだけでなく、SNSの方にも一寸法師くんからメッセージがきた。しかも長文。一万文字ぐらいあるかも。


 要約すると、発達障害がある一寸法師くんは今までろくでもない人生だったらしい。毒親のもと、数学の英才教育は受けたパッとせず、福祉や障害者雇用でも失敗し、引きこもりへ。それでも努力して一般雇用にいがみつき、今は派遣社員をしながらギリギリの生活中だとか。ちなみに一人暮らし中。子供おじさんじゃないから、褒めてという。


「それって褒めるところか?」


 私は高校生の時には上京し、事務所の寮で暮らしていた。バイトも掛け持ちし、とにかくアイドルになって夢を叶えるためにレッスンに通い、オーディションにも何回もトライしたものだ。結果、ご当地アイドルも地下アイドルも続かず、なぜか配信業で受けてるっていう結果だけど。


「なんかこのファンさぁ……」


 空気が読めないというか、なんというか。社会性の欠如というか、子供っぽさ。文面を見ているだけでイライラしてきたが、事務所の方にもファンレターが来たらしい。


 手書きの下手クソな文字だった。ファンレターの方は自分語りだけでなく、私への賛美の言葉が埋め尽くされ、真っ黒。私のファンになったのも、過去に振られた女と似ているかららしいが。


「アヤナちゃんは神様……。って書いてあるけど、私て神様だったの?」


 思わず手を見つめた。指先がカサつき、ネイルも半分剥がれてる。アラサーの手、いくら配信で誤魔化せてもリアリルはこんなもんだ。


「私って本当に神様……?」


 だったらなぜ子供の頃から憧れていたキラキラしたアイドルになれなかったのだろうか。なぜ演技力が抜群の女優にもなれなかったのだろうか。なぜ歌も演技も中血半端で、炎上をネタにしている配信者なんてやっているのだろうか。


 しかもその中でも競争がある。私よりも過激な発言がうまく、容姿もよい若い配信者、いっぱい生まれてる。


 そういえば最近、再生回数も登録者数も伸びないしなぁ。過激な発言をしても炎上すらしなかった。興味持たれずスルーって感じ。


「もう賞味期限、近い?」


 もう一度、手を見ていると泣きたくなってきた。どう頑張っても夢は夢のままだったみたい。


 結局、涙はこらえきれず、一晩泣き明かした後、事務所に引退を伝えた。止められなかった。あっさりと受け入れてられ、ますます涙が溢れてしまう。


 実家に帰ってしばらく何もしないことにした。田舎だから、上京失敗して帰ってきたって笑われていたみたいだけど、まあ、いいか。実家の子供部屋で虫の音を聞いていたら、もう涙は出なかった。


「あぁ、祠があるね……」


 実家の近所を散歩中、古い祠を発見した。石や木が祀られていたが、全く手入れがされていない。ぼろぼろになって朽ちる寸前。


「日本人って宗教に寛容だけど、神様の扱いに容赦ないねぇ……」


 祠を見ていたら、ますます自分は神様じゃないと思う。こんな扱いをされる神様になるぐらいなら……。


 実家での暮らしに飽きた後は、地元の幼馴染と結婚した。相手は会社も経営しているし、年収も高い。まあ、右腕には刺青も入っているし、元ヤンキーだけど、何の不満もない。


 家の廊下を水拭きしている時、スーパーで野菜を買っている時、子供のおむつを替えている時、ふとした瞬間に幸せだと思う。


「夢が叶わなくても、良かったかも……」


 私は神様じゃないし、ごくごく平凡な女。それを認めてしまえば肩の荷が降りてしまった。


「あぁ、幸せ……」


 ふと、一寸法師という名前のファンも思い出す。平凡な女に戻った私を見てどう思うだろうか。神様はいないって嘆くだろうか。


「まあ、私は神様じゃないし、一寸法師くんの人生の責任なんてとらなくていいってことだよね?」


 そう思うと、さらに肩から力が抜ける。今はもっと手がガサガサに乾燥しているけど、いいか。夫には母親らしい手だと褒められているし。

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