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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の針

 チクチクと針で縫っていく。細かい作業だ。目がちょっと痛い。今は若いからいいけど、歳とってこれをするのはきついなぁ。


「アオイさん、手芸上手! 器用だし、早いね!」

「え、ええ。ありがとう!」


 私は福祉士に笑顔を作る。わざと頬のあたりに力を入れ、エクボが見えるように研究して作った表情だ。この方がこういった福祉作業所では行きやすくなるって学んだし、実際、大人しくて明るくハキハキと笑顔でいると得する事も多い。


「うあああ!」


 チラリと他の利用者を見ると、癇癪を起こしている者もいた。福祉士さん達もプロだから動じていない。特性の一つらしいが、私の耳はキンとしていた。


 それに目の前の作業を頑張らないと。針を動かし、チクチク、チクチクと縫っていく。作っているのは天使のマスコットだ。この作業所では比較的人気があるらしい。頑張ってねと近所の人が応援して買ってくれる事もある。小説や漫画で言われているような差別って私には実感がない。確かに私のように目に見えない発達障害は、言葉にするのは難しいけれど……。


 再びチラリと癇癪を起こしている利用者を見る。たぶん、私はあの子よりマシ。嫌だなぁ。同じ利用者同士でこういう順序とか、区別みたいのあるのって。差別みたいじゃない。


「アオイちゃん、私これ飽きちゃった。つまんない。地味な作業なんて」


 そんな事もいう利用者もいたが、私は笑顔でそつなくこなす。必死に作った笑顔を振りまき、良い感じにこの作業所でも適応していると思う。


 内心は退屈だし、同じ利用者同士でも順序があるって思っているけどね。


 そんな事を考えながら一日が終わり、家に帰る。あんまり帰りたくない。母親も私と似たような特性を持っているが、病院にいっても自己愛性なんとかとか適当に病名がつくことも多く、いまいち医療にも福祉にも繋がれず、毎日酒を飲んでいた。


「ママ、ただいま」


 母に近づくと、酒の匂いが鼻につく。


「あぁ、アオイか……。夕飯は適当にやって。私は寝るから」

「う、うん」

「ヘラヘラ笑ってないでよ。全く福祉作業所の賃金もスズメの涙。もっと稼いでこいって」


 おまけに私をどつくと、自室にこもって寝ていた。いびきが襖の奥から聞こえてきてため息しか出ない。


「なんでママには診断名つかないんだろ……」


 医療にもあたり外れがあるらしい。ちゃんと聞いてくれる医者は福祉に繋げるために「免罪符」を用意してくれる。そうでない医者は医学的根拠ばかりにこだわり、「免罪符」がつかない。同じ病気でも福祉に繋がりやすいものとそうでないものと差があるみたい。その差も基準もよくわからない。一つわかるのは人間には運が重要だってこと。医者選びも運。


「ハァ……。疲れたなぁ」


 一人で料理していると、ため息が出る。苦いため息だ。一応母が好きな青椒肉絲を作ってみたが、食べないだろう。父が風俗の女性と不倫し、家を出ていってからずっとそう。


 コンコン。


 その時、誰かがきた。近所のカルト信者のおばさんだった。魔女見たいな容姿で気持ち悪い。


「あなた達の家がこんな状態で、障害もあるのは先祖の行いが悪いからです」

「何言ってるの?」


 気持ち悪いおばさんだったが、ヘラヘラ笑ってしまう癖が抜けない。


「かえってください」


 どうにか拒絶したが、おばさんは薄ら笑いを浮かべてかえっていく。


「何あの人、本当に気持ち悪いなぁ……」


 家にいるのも耐えきれない。だからって一人暮らしできるほどの資金もない。結局、近所の公園に一時避難。


 もう夕方だ。近所の子供たちこ帰ってしまい、静か。オレンジ色の光が眩しく、カラスの鳴き声が響く。


「あれ、一寸法師くん?」


 そこに近所に住む一寸法師くんがいた。自称一寸法師という変な男だ。おじさんにも中学生にも見えるような雰囲気。でも悪い人じゃない。なぜか時々、気にかけてくれて葡萄やチョコレートをくれる日もあった。


「最近、どう?」

「わからない。福祉作業所がつまんない。正しい障害者になる為の笑顔、疲れてきたわー」

「なるほど」


 一寸法師くんは私の愚痴愚痴、全く否定しない。なぜかこの人の前では笑顔が消えてしまう。果たして良い事か悪いことかは不明だけど。


「愛され障害者って何って感じ。世間の本音ではそういう人しか欲しくないんだろうね」


 私の声、カラスの鳴き声とともに消されていく。


「なんならさ、厄介な障害者がいても良いんじゃねーか?」


 一寸法師くん、変な提案をしてきた。


「そう?」

「そうだよ。なんなら、そういう創作物があっても良いよな」

「あ、確かに……?」


 実際、そういう創作はあんまり見たことないが。


「実は今、なんかシナリオとか漫画みたいなの書こうと思ってるんだよ」

「へぇー」

「そういうので、チクっと読者を刺してみたい。針みたいにさ。一寸法師の針」


 一寸法師くん、ケラケラと笑っていた。私もつられて笑ってしまう。これは作り笑いじゃなかった。


「そうだね、一寸法師くんの創作、楽しみにしている。完成したら、見せてね」


 きっと明日も明後日も作り笑いが続く。母も変わらないだろう。それでも一寸法師くんの針が出来上がるのが楽しみだ。




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