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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の部下

 障害者雇用って暇だ。あっという間に社内ニート化しているけど、それでいい気がする。


 とあるホワイト企業の工場で事務職やっていた。見た目では障害者雇用には見えないだろう。鬱って目には見えないから。


「百田さん、エクセルのここの数字が間違ってる。数式も勝手にいじらないでくれないか。せっかく俺が効率いい数式を入力していたのに」


 せっかく社内ニートしていたのに、上司が文句つけてきた。上司といっても派遣社員。現場ではこの人が私の教育係ってことになっているみたい。


 自称一寸法師という上司。身体も小さいし、こんなの自称しているのはどうなんだろう。それになぜかエクセルの数字だけこだわりがあって面倒な上司だ。顔もおじさんなのか中学生なのかよくわからないタイプ。


 しかし、一寸法師くんの横顔を見ていたら、何かピンとくるものがあった。こういう顔、精神科医の待合室でもよく見かける。いや、確証はないが、猫背で撫で肩だし、目の色の暗さも何か持っていそう。


 その後、私はこの上司・一寸法師くんを観察するのが趣味になった。どうせ暇だし。仕事していない罪悪感は驚くほどない。障害者雇用って国から会社にお金も入るし。雇用率も決められていて会社は障害者を雇う義務がある。それを守れないと、会社がお金を払う。


 あんまりやる気がなく、努力も好きじゃない。そもそも努力できないタイプの私は障害者雇用って悪ないと勝手に思ってる。確かに給料は低いが、どうにか障害年金も出たし、ギリギリなんとか実家で生活できるし。頑張って一般人みたいに仕事してもコスパ悪いし。適応障害が悪化して障害者になったの、今では全く恥ずかしくもないし、全然良いと思う。結婚もできないと思うけれど、コスパよく一人で生活するだけだったら、全然アリじゃない?


 今はそう自分に言い聞かせているところ。


 しかも今は障害者疑惑のある上司・一寸法師くんの観察も楽しいし。


 あぁ、今。一寸法師くん、正社員の上司にミスを責められてる。内心では全然納得いってなさそう。それでもグッと我慢しているなぁ。あぁ、一般人のカモフラージュ、大変そう。


 それに同じ派遣の子の恋しているっぽいにもバレバレで面白い。彼女のためにも必死に一般人のフリをしているのか。歴史の授業で習った隠れキリシタンを見ているみたいで面白いなぁ。踏み絵でも持って迫害しに行っちゃう?


「一寸法師くん、ストレスチェックの結果はどうでしたか?」


 会社でストレスチェックがあった。私の結果は全然、良かったけれど、多分一寸法師くんの結果は悪そう。


 今は偶然、事務室の中は誰もいない。どうせ誰もいないし、迫害しちゃおうか?


「大変ですねぇ。一般人に擬態しているの。私みたいにオープンで働いたらいいのに」

「な、何を言っているのか?」


 一寸法師くん、露骨に目が泳いでいる。面白い。これはもう何か特性を持っていると判断していい。


「確かにわたしだって結婚も諦めたし、一人暮らしも諦めた。SNSで見るキラキラ成功者に嫉妬もするけれど、無理して一般人に擬態しているのって、社会やこの会社にだって迷惑では? 所詮、うちらは社会での異物でしょ?」


 一寸法師くんから、表情がなくなった。目は灰色だ。


「このストレスチェックも医者に見せたら堂々と受診できると思うよ。正社員さんもこの結果が悪かったら恥ずかしがらずに受診をって言ってたじゃん?」


 どうせ暇だ。一寸法師くんをとことん揶揄ってやろう。


「ねえ、このストレスチェック踏める?」


 一寸法師くん、躊躇なく踏みつけていた。ガシガシと何度も踏みつけると、ゴミ箱にポイっと投げた。


「俺は一般人よりも、同じものを抱えている連中の方が差別的だし、正直、すごいストレス。福祉もそれがあって辞めたし」

「あららー。福祉でぬくぬくコスパよく手抜きしながら生きていく方がいいのに」

「嫌だね」


 一寸法師くんは頑なだった。


「俺ら子供の頃は今みたいに福祉に繋がるのもハードルがあったしな。今更その生き方変えろっていうのにも無理がある」

「良かったぁ。私は一寸法師くんと違って若くて。むしろ過剰診断て言われてる世代だわ」


 そんな風に揶揄ってやったが、別に楽しくはない。別にスキルがつくわけでもないし。給料明細を見るたびにストレスだし。雇用率ありきの数字上の身分だし、社会ニートになるのも当然か。SNSを見ると「非正規は婚活するな」と過激な言葉が並んでいたのを思い出す。


「あなたはありのままでいいのよ。障害があるんですもの。無理して努力しないでもいいと思うわ」


 久々に福祉士と面談したら、こんな言葉ももらう。確かに良い言葉だけど、救われない。何か違う気がする。


 また一寸法師くんをいじめたくなってしまう。彼は簿記一級の資格も持ち、数学の才能もあるという。いいなぁ、ずるい。


「ねえ、会社の人に擬態しているって言いふらしていい?」


 そんな脅しみたいなセリフで一寸法師くんを迫害してる。だってつまんないんだもの。退屈なんだもの。誰かこの社内ニートから救って欲しい。

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