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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の客

 四十代に入り、毎日疲れる。髪も抜けるし、白髪も増えてきた。


「うそぉ……」


 鏡を見ながらため息が出るが、この老化現象、そんな嫌いじゃない。


 若い頃は身体を売って生活していた。マイルドな言葉でいえば援助交際。今風の言葉ではパパ活。正確な言葉では売春をやっていた。しかし、もう売るものはない。若い頃は風俗店の店長に騙され、給料も中抜きされていたけれど、もうそんな心配はないはず。


「ママ、作業所に行ってくるね」


 私よりさらに年老いた母。いつからこんな小さくなったのかは謎だが、風俗店をやめた私は医療や福祉に繋がった。よく検査したら軽度知的障害や発達障害もあったらしく、今はもう若い頃みたいなことはしていない。


 作業所は駅近くにある。綺麗なビルの一室にあり、明るく清潔な雰囲気だ。福祉作業所というと、ホッチキスの箱詰めや菓子折りの箱作りをイメージするかもしれないが、ここは違う。


 動画制作や編集、イラスト、ライター、AIのアニメーションなどクリエイター系の作業所。パソコンも他数置いてありし、パッとみたら誰も福祉作業所とは思わない。私も最初、どこかのデザイン事務所かと思った。


 まあ、来ている人はさまざま。私みたいに若い頃に福祉に繋がれずにいたおばさんもいたが、子供の頃から福祉に染まっている若い子もいる。おじさんもいるし、わかりやすい共通点は無いみたい。


「あやかさん、今日もイラスト制作ね。本当独自の感性があってうまいわ」


 イラストを描きながら、福祉士さんに褒められる。鼻が高い。


「どこかに投稿したらいいのに」

「そんな、でも……」

「障害者アートって今、需要があって……」


 なぜか障害者向けのアートコンテストの案内をくれた。生き生きと働こうなんてキャッチコピーもついていたが、違和感。なんとも言えないが、私、単なるイラストレーターではなく、障害者であること自体をも止められているのだろうか。


 そんなモヤモヤが消えないまま、一日が終わり、電車に乗って帰る。


 最寄りの駅前ではスイーツを販売している屋台が出ていた。店員は一人だけ。あんまり大きな駅でもないし、一人でも十分だけど。


「工場直送のカステラか。美味しそう」


 つい買ってしまった。店員は無愛想なタイプ。おじさんなのか中学生なのかよくわからない容姿が印象的。


「ありがとうございます。またのご来店お待ちしております」


 棒読みの声を聞きながら、何かピンときた。この店員、作業所にいそうな雰囲気。いや、確信はないし、私の思い込みかもしれないが。


 その後、毎日ここでスイーツを買っていた。チョコケーキ、スコーン、クッキー、マフィン、マカロンを買いデブになりそうだったが、店員に顔も覚えられ、少し会話するようになった。


「俺は一寸法師というあだ名だ。そう呼んでくれていい」


 自称一寸法師とか変な人。やっぱり特性持ちかと思ったが、その通りだったらしい。今は障害を隠して日雇いのバイトをしながら、派遣先を探しているという。


「そっか。私は作業所でぬるく働いているけど。最近できたクリエイター系の作業所で」


 そう言った時、一寸法師くんから笑顔が消えた。


「その福祉の経営者って誰だ?」

「朝霞レイだよ。元は薬物依存の俳優だったけれど、今は改心しているって。福祉やるなんて根はいい人なんだろうね」

「それは……」


 一寸法師くんは頷かない。むしろ悪い噂のある福祉作業所だし、辞めた方がいいとはっきり言ってきた。


「世の中には弱いやつを食い物にする鬼みたいな奴がいるんだよ。君、気をつけろ。いかにも人が良さそうだ。鬼に目をつけられないように……」

「だったら鬼退治してよ。一寸法師くんだったら私のこと、守ってくれないの?」

「俺には打ち出の小槌も何もないからな」

「そんな……」


 でも、私はずっと騙されてきた。芸能人になれるって上京したら、風俗だった。その風俗でも中抜きされた。スピリチュアルや占い、ネットワークビジネスにもよく騙されていたし、つい最近は投資や副業詐欺にも騙されたばかりだったじゃないか。


「悪いことは言わないから、別のしっかりした福祉を探した方がいい」

「う、うん……」


 一寸法師くん、確かに打ち出の小槌は持っていなさそうだったが、心は悪に染まってなさそう。この人が言うことなら間違っていないかも。


 単なるカンだ。一寸法師くんにこそ騙されている可能性もあったが、結局、あのクリエイター系の福祉作業所は辞めた。


 その判断は間違いじゃなかったらしい。福祉の運営者だった朝霞レイが薬で再犯というニュースを知った。しかも運営していた作業所でも、補助金を水増しして得ていたとか……。


 利用者や現場の福祉士は誰も知らなかったらしいが、命拾いした。一寸法師くん、打ち出の小槌がなくても弱くはないんじゃない?


「福祉士さん、一寸法師の童話を絵本にして描いてみたよ。どう思う?」


 障害者アートのコンテストは落選したけれど、今はそんな絵本を描くのも楽しい。


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