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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の傍観者

 安全地帯で冷笑するのって楽しいなぁ。


「何このギフテッド一寸法師ってやつ。変なヤツだな」


 俺は暇な大学生という今年もあり、SNSで適当なアカウントを見るけて観察するのが好きだった。中には炎上するような内容もあるし、匿名掲示板に貼り付けて騒ぎになっていく様も見たことがある。


 あぁ、楽しいね。冷房がきいた部屋でポテチを食べながら、SNSを観察するって。


 今は自称ギフテッドという一寸法師という男のアカウントを追いかけていた。数学の才能はあるらしい。実際、ナントカの公式とかナントカの定理とか呟いていたし、数字には異様なこだわりもあるらしい。


 一方で障害者でもあるらしい。座ってられないとか。遅刻や忘れ物が多いとか、数字への強いこだわりもあったとか。


 幼い頃は親にギフテッドだと育てられ、ろくな医療や教育も受けられなかったらしい。大人になった時、就職もできない現実に絶望して、親を無視し、初めて福祉とつながったという。障害者雇用、福祉作業所、引きこもり就労支援施設の経験もあり、そこでの嫌な体験をよくSNSで愚痴っていた。


「ふーん。障害者ってリアルでほとんど見たことないが、一寸法師みたいのもいるんだな……」


 なぜか口元がゆるんでしまう。傍観者として他人事とし、一寸法師の愚痴を見るのって面白いなぁ。別にネットで見ているだけだから、実害もないし。一寸法師の行動の愚かさも、上から目線で笑えるというか。


「一寸法師、福祉支援も自分からやめて引きこもり? そんで家で毒親とこもって数学やってるの? 馬鹿だなぁ」


 一寸法師がそんな決断をしたとき、さらに笑ってしまった。愚かな選択にしか見えなかったし、あの状況で福祉支援の手をふりほどくとか、どうかしている。案の定、毒親の共依存に耐えられず、引きこもり支援施設に相談中。


 その後はけっこう順調だったらしく、ペットボトル工場に就職はできたらしい。最初は福祉と違い、最賃レベルの給料でも喜んでいたが、仕事量の多さやスピードについていけず、鬱と適応障害になったらしい。


「馬鹿だなぁ。無理矢理一般就労なんかに行くから潰れているじゃん。大人しく福祉支援を受けていれば良いのになぁ」


 本当に一寸法師がなぜこんな選択をしているのかわからないが、お節介なフォロワーもいて「ブルーカラー系の工場よりホワイトや大企業に行ける事務系派遣を狙った方が良い」とアドバイスしている者もいた。


「しかしなんで一寸法師はこんな頑なに福祉嫌がっていたりするんだ? プライドかね。自業自得なんじゃないの?」


 実際、「弱者男性監察スレ」という匿名掲示板を見たら、一寸法師もちょっと話題になり、その愚かな判断が叩かれていたりもしたが、別の炎上が楽しくなり、一寸法師を追いかけるのも辞めた。


 それにマッチングアプリで彼女もできたしな。名前はアイコちゃん。同じ大学生で顔もかわいい。今日もカフェで落ち合う予定だった。


「あれ? 今日、もう待ち合わせの時間すぎているよな……」


 なぜか彼女が来ない。連絡しても既読がつかず、電話も出ない。


「なんだ?」


 似たようなことが何回か続いた。遅刻だけでなく、メッセージを送っても無視された。きいてもいないのに、性被害の過去とか突然重い話もされたり、なんか距離感が変というか……。


 好きで付き合っているはずなのに、だんだんとストレスも感じるようになってきた。アイコのこと、すごい好きなけど、彼女の中に理解できない「怪物」のようなものが取り憑いている感じ。その「怪物」は俺はもちろんのこと、本人ですら気づいてなく、制御もできていない。


「なんか疲れた……。ちょっと距離置かない?」


 そんな提案をしてみたら、アイコはぼろぼろと泣き出してしまう。


「わたし、実は目に見えない障害を持っていて……」

「は?」


 それからはアイコの独白が始まった。幼少期から現在にいたるまでの生きづらさや特性についての告白だった。まるで罪の告白みたいな口調。俺は迷える子羊を導く神父にでもなったのだろうか?


「あ、そうなんだ」


 そう言うしかない。どう反応していいかわからない。とにかくアイコの告白に耳を傾けるしかない。


「専門家や福祉に頼ったら?」


 これはどうも手に負えない。正直、理解もできない。アイコは好きだが、「怪物」は全く意味がわからない。


「それは嫌」

「なんで?」

「だったら君も、もし明日から後天的な障害者になって福祉に頼れる? スムーズにできる? お金も稼げないよ。ある意味、自由もなくなってしまう。ずっと可哀想な人を演じないといけない」


 ここでアイコはため息をつく。


「わたしも生活保護や年金、福祉サービスを受けることになんの罪悪感もないクレクレ体質の怠け者だったら逆に良かったよ。でも現実はそうじゃない」

「まあ、確かに……」


 とは言っても、アイコの生き方もわからない。理解なんてできず、「怪物」に疲れてしまう。やっぱり臭いものに蓋をして、俺らの世界から分断されている方が良い。そんな自分勝手な考えも浮かんでしまうほど。


 久々に一寸法師のアカウントも見てみた。最近はブラック工場から抜け出し、派遣でホワイト企業に入り込めたらしいが。


「一寸法師が家族や友達、上司や部下だったらなんか嫌だなあ……」


 本音が溢れた。俺の中にも「怪物」がいるのかもしれない。「怪物」もフタして閉じ込めておければいいが、今の世には結界を作る陰陽師とかいないし。

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