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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の親戚

 遠縁のおばあちゃんが亡くなり、三年がたった。今日はその三回忌。


「くさいなぁ、この家……」


 思わず小声で呟いてしまう。おばあちゃんは田舎の地主の嫁。この地域では裕福だったらしい。大きな家だが、仄暗く、あんまり長居はしたくない感じ。


 お坊さんも来てお経も聞いたが、さらに重い気分だ。あぁ、都会に戻りたい。私は行き遅れの独身女だけれど、やっぱり田舎より都会の方が生活しやすいと思う。


 最後に親戚一同で食事だ。あんまり美味しくないお寿司を食べる。シャリはパサパサとし、マグロやイカもくすんでる。スーパーのお寿司の方が絶対美味しい。


 ふと、となりを見たら親戚の息子がいた。おばあちゃんから見たら孫にあたる。年齢不詳だ。おじさんにも中学生にも見える不思議な顔。それに身体も小さい。あだ名は一寸法師。本名はなんだったか。忘れてしまった。


「まずい」


 寿司を吐き捨てる姿、見事にこの場の空気が読めていない。


「俺はばあちゃんのこと、好きじゃなかったな。他責思考だったし、こんな田舎に嫁いだのも時代のせいだって文句言ってるのも何度も聞いた。ま、女は結婚に逃げられるから楽でいいよな」

「一寸法師くん、拗らせていない?」


 この言動、ネット上によくいる拗らせて男子そのものじゃないか。一寸法師くん、引きこもり歴も長いというし、ネット漬けの生活で色々拗らせてそう。


 でも、この子嫌いじゃない。ちょっと庭にでて二人で話すことに。庭は線香の匂いも井草の匂いもしない。お坊さんのお経ももう終わっているし、一気に空気が軽くなった。


「そういえば一寸法師くんって障害者雇用で働いてるって聞いてたけど?」

「そんなのとっくに辞めたよ。福祉にも行ったが、クズみたいな仲間にウンザリして辞めた」

「クズみたいって酷い」

「実際、福祉の低賃金で余裕ない連中が多いからな。親元でぬくぬくできる子や障害者雇用でも長くいられる人は別だけどさぁ」


 さらに一寸法師くん、愚痴をこぼす。発達障害が憎い、これのせいで普通に生きられることも叶わないとため息をこぼす。コーヒーよりも苦そうなだった。


「っていうか、発達障害って存在するのかな?」

「え、何言ってるんだよ?」

「私が好きな都市伝説インフルエンサーとかスピリチュアルリーダーとか、そんな病気は存在しないって。製薬会社と医療利権で作られた障害だって」

「まさか陰謀論者かよ。くだらねぇ」


 一寸法師くんは鼻で笑っていたが、私はこういうの好きだ。実際、ポジティブ思考でいたら臨時収入や元カレと復縁が叶ったこともあるし、都市伝説インフルエンサーのおすすめの酵素玄米を食べたら健康的だ。あれほど悩まされていた頭痛、生理痛、慢性疲労もスッキリ治った。


「せっかくだし、都市伝説インフルエンサーのセミナーとか出てみない?」

「ま、まあ、自己啓発は嫌いじゃないが……」

「もしかしたら、その障害、治ったりするんじゃないの。子供の頃より、一寸法師くん、落ち着きも出てきたし」

「そうか、この厄介な障害が治るのなら……」


 一寸法師くん、目を伏せた。


「打ち出の小槌が手に入るのなら……」


 陰謀論だと笑っていた一寸法師くんだったが、一緒に都市伝説やスピリチュアル系のセミナーに出たら、態度をころっと変えていた。


「よし、この酵素玄米と奇跡の水、波動調整ペンダントで思考を変えて人生を変えるから!」


 何て笑顔も見せていた。私もそう。行き遅れで、仕事もパッとしない。容姿も良くなく、他人に誇れるものが何もない私は、都市伝説やスピリチュアル系インフルエンサーの言葉が心地よくて仕方ない。


 私はさらにハマっていき、合計百万円もする個人セッションを受けていた。


「あなたはライトワーカー。特別に選ばれた光の戦士なの」


 そんな言葉は耳に心地よく、何度も個人セッションを契約し、気づいた時には借金が膨れていた。


「どうしよう。なんでこんな借金の額になってるのよ……」


 当然、泣きつく先は個人セッションをお願いしているスピリチュアルインフルエンサーだ。


「それはあなたの波動が引き寄せもの。さあ、思考を変えて波動を上げればなんでも上手くいく」


 そんな言葉をもらったが、現状は何も変わらない。むしろどんどん酷くなっていく。


「そうか。こういうスピリチュアルは実体がない。甘い言葉を売って現実逃避させるのが本質……?」


 騙されたと気づいた私。悔しくない。それよりもスピリチュアルのこの本質を上手く応用すれば、自分でも稼げるんじゃないかと気づいてしまった。


「実際に顧客の願いが叶わなくても、波動や思考のせいにできるしなぁ……。引き寄せの法則をそのものよりレクチャーして人を誘った方が儲かるじゃん……」


 まるでネットワークビジネスやネズミ構のようだと気づいてしまったが、借金もあるし、後がない。SNSでそれっぽいことを言っているだけでも稼げてきたし、騙される方から騙す方にジョブチェンジしよう。


 そんな時だった。また、親戚の集まりで一寸法師くんと再会した。


「その後、どう? 波動は高くなった?」


 一寸法師くんは冷めた目をしていた。今は工場勤務中だが、波動をいくら高めても何も変わらないどころか適応障害も併発しているという。


「あら、それは……」

「スピって夢が叶えそうって思わせてるのが商売の本質っぽいよな。当然、俺の障害も生きにくさは何にも変わっていないんだが?」


 一寸法師くん、力なく笑っていた。


「スピはやめよっかな。いくらライトワーカーと言われても、ブラック工場での待遇何も変わらないし。本当に引き寄せの法則があるなら、なんで俺はこんな状態なんかね? スピって弱者から搾取して現実逃避させるだけのツールだなって……」


 それには答えられない。これからスピリチュアルを使って商売しようとしている私。一寸法師くんみたいなタイプはあんまり客にしたくない。

 

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