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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師のキャリアカウンセラー

「なんでこういう就労支援って、農業と手芸と清掃ばっかりやってるんですかね? あとコミュニケーショントレーニングもさ、実践したが、前職のヤンキー上司の相手には全く意味なかった気がする。思えば、ヤンキー上司、筋肉マッチョの上司には怖がっていたし、コミュニケーションスキルとかより筋トレしよっかな」


 利用者と面談中だった。ここは引きこもりやニート、氷河期世代のための就労支援施設だ。一応国の管轄。元々は氷河期世代の為の「若者向け」だったが、いつのまにか年月がたち、今は五十歳前後の利用者もいる。


 一方、この利用者。特に氷河期世代ではない。年齢もまだまだ若者といえる。が、障害を持っていたらしい。福祉施設で上手く馴染めず、障害者雇用も失敗した、引きこもり状態になった後、我々のところに相談しに来た。


 この利用者、資格も色々持っている。簿記一級まで持っているじゃないか。ブランクが足を引っ張りそうとはいえ、ここにも毎日来てくれてるし、遅刻もない。見た目は小さく自称一寸法師と言っていたが、まあ、ここではハイスペックなようだし、手薄でいいかぁ。


「本当にどうして、こういう施設ってさ、農業やりがちなの? しかも来週、近所の文化を知ろうって神社参拝まである。イスラム教徒の人が利用者にいたら、どうするんですかね?」


 しかし、この一寸法師、口が回って可愛げがない。素直じゃない。こういう利用者、扱いにくいんだよなぁ。


 とはいえ、俺はもう老人だ。教員を務め上げた後、ここで第二の人生を楽しんでる。やっぱり、家にこもってる年金生活者なんて人との繋がりがないから、良くないし。


「まあまあ、そんな事はいいじゃないですか。一寸法師くん、君は何かやりたいことはあるのかい?」

「数学」


 即答だった。簿記も数学の亜種だと思えばやる気が出て、一級まで取れたのだという。


「数学ねぇ……」


 果たしてそれは職業になるのだろうか。教師ならともかく。見たところ、一寸法師は教師には向いてなさそう。なにより素直じゃないので、組織で働くのも向いてなさそう。素直さがないっていうのは、あらゆる面で致命傷だと思う……。


 が、忠告する気になれない。ここは一応、税金で存続しているわけだし、少しでも内定実績も出さないとダメだから。


「ではまず、求人票はいくつかみていこう」

「そうですね。どうせ工場、清掃、警備、介護、飲食ぐらいしかないと思うけど」


 つくづく素直じゃない奴だ。ため息が出そうになる。一寸法師の灰色の目、何かを見透かしているようで嫌だな。


 そうだよ、引きこもりや氷河期世代にいい求人があるなんて嘘は言えない。所詮、この国は新卒カードを上手く使わないとレールから落ちるからね。そこから這い上がるのは大変。こんなキャリアカウンセラーをやっている俺も外れたレースの修正方法、よく知らない。


「やっぱり工場しかないね。夜勤ありの三交代制で、最賃レベルの給料か……。バカにしてるよな」


 言葉の割に一寸法師は笑顔だった。福祉施設の工賃よりよっぽど良い待遇だという。


「へえ……」


 それは笑っていいか微妙だったが、その後の一寸法師は素直だった。履歴書を一緒に作り、面接対策も受け、内定も取ってきた。


 ほっとした。これが実践の数字となり、国から入るお金も変わるからね。正直、内定さえとってくれたら後はどうでも良いっていうのが本音だ。


「そういや、京子さ、結婚相談所も婚活カウンセラーの仕事ってどうなんだ?」


 もうそんな利用者のことなどすっかり忘れた。今日は久々に娘の京子が帰ってくるし、近況でも聞いてみるか。


「うーん。まあ、成婚させるまでが仕事って感じ」

「へえ」

「正直ちょっとなっていう相手でも、なんだかんだと言いくるめて成婚させるというか」


 成婚料の関係もあるし、その後の結婚式、新居、保険のプランもおすすめすると、結婚相談所にも色々と利益があるそう。ちなみに望みのない男女にはズルズルと希望を持たせ、できるだけ月々の会員料をもらうという。


「そ、それは引くな」

「でも、ビジネスだもん。うちのボランティアじゃないし。お父さんの仕事はいいよね。引きこもりや氷河期世代の支援だっけ? やりがいありそう」


 果たしてそうだろうか。今は工場などの仕事に無理矢理利用者を押し込んでいるような気がしてならない。


 あの一寸法師のことも思い出してしまった。


「いや、別にやりがいなんてないよ。なんかこっちの押しつけてるだけって感じだし。本当に何でこういう施設って農業、手芸、清掃ばっかりやらせてるんだろうね?」


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