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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の同士

 やりたいこなんて無いけれど、自己啓発は嫌いじゃない。


「さあ、皆さんの才能を活かして成功しよう。誰もが必ず一つの才能を持っています!」


 今日は自己啓発セミナーに来ていた。人気な講師で、著作も多い。メディアのインタビューでは「才能発掘博士」なんて呼ばれていた。見た目は少しチャラい男性だったが、話し方はしっかりしていて引き込まれる。


「才能とは、ついついやってしまうこと。他人には難しいことでも、私には簡単にできるってものはないですか。さあ、思い出してこのワークシートに書いていきましょう」


 シンプルな貸し会議室だが、俺のような受講生は三十人ぐらいだ。この状況、どうしても前に立つ講師がキラキラして見える。それ以外はモブか。そう俺はモブの自覚しかない。すっかり受講生に紛れてしまい、質問コーナーの時に手を挙げても見つけてもらなかった。


 ふと、なんでこんな場所にいるんだろうと思い始めてきた。確かに気分は高揚していたが、明日からは会社に行って上司に詰められ、帰って酒を飲んで寝る生活だ。


 本当にやりたいこともない。アラサーという歳になっても結婚とか子供とかにも興味がない。かといって趣味もない。好きなものもない。自己啓発セミナーに出たら何か変わると思ったのに、余計に自分はモブだったって認識してしまった。


「さあ、次はアファメーショのコーナーです。私はすごいって言いましょう。そうすると、言霊の力で人生が変わっていきます。そうです、思い通りの人生に変わっていきますからね!」


 講師の声を聞きながら、頭が痛くなってきた。子供の頃は宝くじに当選することが夢で、まさに何回も願いを口にしていたが、叶った試しもない。


 中学生の時は憧れの先輩に「モブキャラが偉そうに」って言われて振られたし、第一志望の大学にも会社にも落ちた。本当に自分の力で人生を変えられるのだろうか。


「それでは最後の質問コーナーにまいりましょう。あ、そこの君。え、自称一寸法師くんっていうの? 面白いな。質問は何かね?」


 隣に座って男が質問していた。ちょっと落ち着きがなく、自己啓発中も貧乏ゆすりをしていた男だ。年齢不詳。おじさんにも中学生にも見える。おそらく身体が小さいからか。だから一寸法師か。なるほど。


「先生のセミナーは面白かったです。希望が出てきた。では質問です。私はすごいって言っていたら、俺の障害は治るだろうか。発達障害という生まれつきの脳の障害なんだが、普通の人みたいになれますか?」


 会場、水を打ったかのようにシンとしてしまった。講師も変な顔をしている。


 確かに空気が読めていない質問だった。今までの質問はお金とか成功とか、恋愛の質問ばっかりだったから。


 チラリと隣を見る。悪意はなさそう。単に空気は読めていないだけ。一寸法師くんの灰色の目を見ていたら、本当に自己啓発で願いを叶えたいだけかもしれない。


「俺は障害者雇用もクビになったぐらいだ。福祉もダメだった。先生の言うとおりにしていたら、普通の人になれますか?」

「いや、そうじゃない。君は君のありのままの才能を伸ばすべきだ」


 講師はタジタジになりながらも、必死に質問に答えていた。


「大丈夫。人間は誰しも才能を持っている。お金にならなくても成功しなくても、君がいることで誰かの役に立てることが必ずある」

「そうですかね。先生の言うとおりだといいんですが」


 一寸法師くんの質問のおかげで会場の温度は冷めたままで終わった。


「自己啓発で俺の障害、治ったりしないかね。打ち出の小槌じゃないのかな? 打ち出の小槌ってあるのかな……。打ち出の小槌……」


 帰り、なんとなく一寸法師くんに声をかけた。彼、同じような言葉を繰り返していた。


「あの先生の言うとおりなら、自分の思う通りに人生をコントロールできるはずだろ? 君もそう思うだろう? なんでコントロールできないの?」

「それは……」


 ふと、俺は空を見上げた。雨でも降りそうな灰色の雲だ。いくら俺が「天気が良くなった」と思考してアファメーショしたとしても、変えられない。自分で変えられるものもあるかもしれないが、変えられないものもある。俺みたいなモブキャラ人生もその一種か。


「やっぱり、コントロールできないもんもあるよ。俺だって好きでもないビルのメンテナンスの仕事してる」

「そっかぁ」

「一寸法師くんの障害も、別に君のせいじゃないよ。自分でコントロールできないもんだったというだけの話」

「そっか。君は優しいね。福祉で出会った連中と大違いだよ。当時者より一般人のが冷たいって思ってたが、偏見だったな。人それぞれなんだ」


 一寸法師くんの声、少し明るくなってきた。空の色は相変わらずだったけれど、二人で話していたら少し気が楽になってきた。


 その後、一寸法師くんと親しくなり、たまに一緒に自己啓発セミナーに行くようになった。


 別に自己啓発で成功したいわけじゃない。ただ、そこへ行って良い気分になって帰ってくるだけ。自己啓発の使い方としては悪くないと思うんだ。

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