ギフテッド一寸法師の鬼
近所に一寸法師という男がいるらしい。障害があるって噂で、福祉施設でも馴染めず、今は親元で引きこもっているという噂。
「お母さん、大変ですね」
「ええ。でも息子が帰ってきてよかったわ」
ゴミステーションで、そんな一寸法師の母親に会った。疲れた顔の中年女性だったが、なぜか目が生き生きとしていた。
「今は息子の食事を作るのが生きがい」
「でもお母さん、どうするんですか。息子さん、将来孤独になった時……」
母親の顔が固まった。
「そんなのどうでもいいじゃない。というか、あなたの顔どこかで見たことあるわ。誰だったかしら。そう、タレントの朝霞レイくんに似てない?」
心臓が跳ねた。それは俺の元芸名だったから。
「い、そんなことないですよ」
俺はすぐにゴミステーションから逃げる。危なかった。過去の芸名がバレそうだなんてリスキーだった。
過去に朝霞レイという芸名でタレント活動していた。まあ、B級タレントだったけど、名前はそこそこ有名だった。
そこそこが良くなかったんだろうな。全く売れなかったらむしろ良い。そこそこ売れていたから、地位や名誉を手放すのが怖くなった。かと言ってA級レベルのキラキラ芸能人にもなれず、プレッシャーに押しつぶされ、結局、薬に手を出して捕まった。
初犯だったこともあり刑自体は重くなかったが、もう芸能界での椅子はない。確かに簡単に復帰できる芸能人もいたが、俺は元々B級だし。金もないので整形のメンテもできず、今はすっかり落ちぶれているってわけ。昔やってたホストでもまたやろっかなぁ。
「どうしよっかなぁ。俺、ネットでエゴサすると悪い評判しかない」
家に帰り、一人ネットでエゴサ。じつに情け無い有り様だったが、動画サイトを見ていたら、福祉作業所のビジネス広告が出てきた。
「なんじゃコレ?」
別に福祉のプロでなくても、運営できるらしい。現場はプロに任せる必要があるが、障害者を受け入れることで国からお金が入る。確かネットニュースでもこういうのを悪用して障害者ビジネスをやってるのは見たことがあるが……。
「いや、でも待て。このビジネス、ノーリスクでけっこう美味しくね?」
そんなビジネスコンサルやセミナーなどもあり、俺みたいに薬で捕まった芸能人も参入しているらしい。しかも福祉施設経営というクリーンなイメージもつき、芸能界に復帰できたという。
「マジか……。おいしいじゃん。打ち出の小槌?」
そんな情報を調べている俺の顔、鬼に似ていたかもしれない。
「という障害者施設の運営も考えているんですよ。お母さん、どう思いますか?」
例の一寸法師の母親とまた会った。
「いいかもしれない……。息子が食いつきそうなクリエイターとか研究者とかのサービスがあったら……」
母親、遠くをみていた。
「私が死んだ後も、息子の居場所があれば本当に嬉しいわ。あなたみたいな人がいて本当によかった……」
「ありがとうございます、お母さん」
では、さっそくビジネスでも始めようか。まあ、一寸法師のような当事者には何の利益もないだろうけど。俺の利益しか無いかもな。




