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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の担任教師

 社会人として生きていく上で、正義感とか優しさとか必要ない。実際、優しい人から職場を辞めていくものだ。


「田中先生、辞めたあと、急に体調悪くなって亡くなったらしいよ」


 職員室でそんな噂を聞いた。田中先生、教育熱心で、登校拒否生徒とも向き合う良い先生だったのに。やる気のないわたしにも優しかったのになぁ。


「そうなの、残念ですね……」


 そんな私、とある女子高で数学の教師をしていた。といっても産休教師の穴埋めに入っただけの非正規。でも、正規で働くよりも楽だし、今の私にはピッタリな働き方だ。部活や生活指導など任されないし、教員同士の派閥にも無関係。教えているだけだから。テストも出るところ、全部言ってしまったりする。


「ここだけの話、今度のテストは教科書の89ページあたりが出るからね! そこだけやっておけば、まずまず大丈夫!」

「伊藤先生、神! 大好き!」


 おかげで生徒から全く嫌われず、むしろ好かれていた。真面目にやっている先生ほど嫌われるし、理不尽この上ないなぁ。まあ、生徒には陰で行く遅れのおばさんとも言われてるの知ってるけど。


 そんな感じで仕事も適当に終わらせて帰る。真面目な先生たちは夜まで職員室に残っているらしいけれど、そんなの絶対嫌だと思う。


「帰ろ、帰ろ……」


 さっさと家に帰る。ちなみに家も学校の近くの安いアパートで暮らしていた。事故物件という噂もあり、雨漏りもするが、仕事で疲弊するより、ミニマムな生活していた方が楽。


「ふーん。婚活カウンセラーが非正規派遣女とかは婚活すんなって。正社員になった方が結婚できるとか……。すごい偏見だな。ポリコレとか言っているのに、職業差別は許されるって理不尽じゃね?」


 結局、婚活も運の要素が強そうだし、こういうネット記事を見るたびに冷めていく。


 いや、もうとっくの昔に冷めていたのかもしれない。昔は公立の小学校で頑張って働いていた。生徒のには障害特性がある子もいた。数学だけが異様にできる子。一寸法師くんというあだ名もついていた。


 私は一寸法師くんが特性の為、将来困ることになるだろうと親御さんにも再三忠告していた。何度も面談を繰り返し、時には祖母にも話を聞いてもらったが「うちの子が障害者だなんて!」と逆ギレされ、主任にもこんなクレームを入れられた。


「余計なことをするな。情熱があるのはわかるが、正しさで人を説得することなんて無理だ。大学の授業で習ったこととリアルは違うんだぞ」


 私の努力が報われることはなく、迷惑扱いだった。結局、適応障害と円形脱毛症を患い、あの学校を辞めざるおえなかった。


 それから全くヤル気がない。仕事も適当にやってる。責任感がないのも承知しているが、頑張ったところで。正しさや優しさを発揮したところで……。意味ないってわかってしまった。


「そもそも私が一寸法師くんの人生の責任取れるわけでもないしな……」


 そんなことにも気づいてしまい、ますますやる気がない。


 そんな過去を思い出していたからだろうか。街で一寸法師くんとそっくりな人とすれ違った。


「い、一寸法師くん……?」


 当時から灰色がかっていた目はさらに濃くなっていた。身体の特徴も変わらず小さい。それなのに、顔だけは年相応に老けてる。どうやら打ち出の小槌はまだ入手できていないらしい。一寸法師くんの姫も一体どこにいるのだろう。


「なんか、ごめんね……」


 なぜか一寸法師くんに謝ってしまったが、彼は無視し、人波にのまれ、見えなくなってしまった。


「ま、まあ、いいか……」


 そう、私が一寸法師くんの人生、責任取れるわけじゃないし。頑張っても、努力しても報われないし、明日の仕事も適当にやろう。


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