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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師のクラスメイト

 クラスにはいろんな子がいる。単に生まれた歳が同じ、学区が同じというだけでひとまとめにするのはどうなんんだ。


「石田、お前何見てるんだよ!」


 クラスのいじめっ子に睨まれ、僕はすぐに目を逸らす。こんな乱暴者、関わったらろくな目に合わない。それに……。


「お前、自称一寸法師なんだろ? 今すぐ大きくなってみろよ? ギャハハ!」


 今、いじめっ子のメインターゲットは一寸法師くんだった。もちろん、一寸法師というのは本名じゃない。あだ名だ。身体が小さく、彼の母親がそう呼んでいるらしいから。


 そんな一寸法師くん、案の定、いじめっ子に目をつけられ、新学期からいじめられていた。時には殴られているのも見たことがある。それでも先生受けは良く、いじめがバレてはいない。


 正直、一寸法師くんにはみんな感謝していた。生贄になってくれたようなもの。確かに授業中、落ち着きがなかったり、算数以外の成績はゼロ点だったり、集中力もないクラスメイトだったけれど、僕は本当に彼に感謝していた。


「一寸法師くーん」


 帰り道、一寸法師くんにあった。あんまりこの辺りから通っている生徒はいない。キョロキョロとあたりを見合わし、学校の連中がいないことを確認すると、僕は話しかけた。


「あぁ、石田くんか」

「一緒に帰ろうよ」

「いいけど。僕って障害者ってやつらしいよ」

「は?」

「先生が言ってた。僕、なんか障害があるからそういう学級に行けって、先生が家に押しかけてきたよ」


 どういうことだろう。僕は一寸法師くんは単なる変わり者にしか見えない。突然、障害者と言われても戸惑う。


「僕ってそんな変かな?」

「そんなことないよ。そんな学級には行かなくていいよ」


 もし一寸法師くんという生贄がいなくなったら、僕たちがいじめられる可能性がある。そんなの絶対に困るから。


 このことは、すぐに他のクラスメイトにも共有された。もちろん、いじめっ子の耳には絶対入れなかったけれど。


「そんな一寸法師くんが特殊学級行ったら困るじゃん」

「あの子のおかげでうちらのクラスの平和が保たれているようなものなのに」

「どうする? ていうか先生、一寸法師に構いすぎじゃね? えこ贔屓?」

「確かに。これ、うちの親から学年主任とかにクレーム入れてもらうこととかできない?」


 僕たちは緊急会議を開き、一寸法師くんを我がクラスに留める作戦を練った。その結果、先生は主任や校長から大目玉をくらい、休職してしまった。実際、一寸法師くんへの障害告知とかかなり問題だったらしい。


 それに、一寸法師くんの親も我が子を天才だのギフテッドだの呼び、一般のクラスに入れることをこだわっていたらしいから。心底ホッとした。これで貴重な生贄を失わずに済んだ。


 もっとも学年が上がる頃には、一寸法師くんもすっかり病んでしまい、登校拒否が始めったらしい。母親がつっききりでホームスクールもやっているというから驚きだ。


 僕もちょうど親が転勤になってしまい、あの小学校とは縁が切れた。以来、一寸法師くんには会っていない。


 十数年後、僕も人の親になった。当時は一寸法師くんの障害もよくわからなかったが、薬が開発され、理解が進んでいるらしい。時代は変わった。


「ねえ、あなた。今は学年に一つ障害者向けの特別支援学級があるらしいわよ」

「へぇ……」

「私らが子供だった時は、全然理解もなかったけれど普通のクラスの交流も多いって聞いたし。でも過剰な診断はそれはそれで問題になってるとか。診断受けて息子さんが引きこもりになったというママの話も聞いてさぁ、それは微妙というか……」


 妻からそんな話を聞き、一寸法師くんのことを思い出す。もしかしたら、今だったらあの子も少しは生きやすかったりするのかな。それともあんまり変わらなかったのかなぁ。


 そんなことまで思い出した時だ。息子が学校でいじめられていると訴えてきた。


 これには妻も心労で円形脱毛症になるぐらいだった。僕も何度も会社を休み、担任と面談したり、正直疲れた。昔、一寸法師くんを生贄にした報いが今更来たのかもしれない。


「僕だって報いがきたし、あの時のいじめっ子も悲惨な末路になっていればいいなぁ……」


 そんな悪い気持ちも生まれるぐらいだった。いわゆるザマァってやつ。スカッとしてみたい。さっそくSNSでいじめっ子の名前を検索すると……。


「は?」


 いじめっ子は看護師になっていたらしい。驚いた。しかも男性看護師としてインフルエンサーみたいな発信もしているらしい。WEB上の名前は白衣の大天使。


「う、うわぁ……」


 うめく。他にも中学、高校でのいじめっ子の名前を検索すると、看護師や介護士、福祉士になっていた。口元が引き攣ってしまう。


「まあ、確かにいじめっ子ぐらいのメンタリティのが医療、福祉業界は合いそうな……。綺麗事だけでは勤められない大変な職業だし……」


 彼らがいじめの報いを受けた様子もない。報いは罪悪感を持てる人にしか来ないのか。いじめっ子はこの世では生きやすそうだ。あの世では違っていて欲しい。

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