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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の後輩

 今は本当に幸せ。


「福祉士さん、今日はどのお菓子を詰めるの? え、ゴマクッキーだ! 美味しそう!」


 ニコニコ笑顔になってしまう。今は福祉作業所にいられるだけで幸せだから。


「マコちゃんは本当に素直でいい子だね。もうこのまま擦れないでいて」

「そんな〜。照れちゃう」


 自分で言うのもなんだけど、福祉士さんたちにも好かれていると思う。挨拶をしっかりとし、仕事も丁寧に真面目にこなす。ここではそんな「当たり前」が重要らしい。


「一寸法師先輩も頑張っていますね。すごい、こんなに仕事終わったの?」


 同じ作業所にいる先輩・一寸法師くんに声をかけた。小さな身体が特徴的であだ名は一寸法師。最近、簿記一級の試験に合格し、実は天才という噂で持ちきりだ。中には「高望み」だと嫉妬する人もいる。わたしはそんなことないと思うんだけどなぁ……。


「うん。僕はこういうシングルタスクを延々と続けるのは得意だし」

「へえ、先輩ってすごいんですね」

「そうか?」

「そうですよ。わたしなんて、中卒で何にもできないですもん」


 生まれ育った家庭ではネグレクトを受け、ろくに学校にも行けなかった。もちろん、大学なんかには行けず、地元のヤンキーとつるみながら、万引きや立ちんぼを切り返していた。


 そんな時だ。なぜか不良の少年少女に伝道しているキリスト教会の牧師さんと出会い、そこから医療と福祉に繋がり今に至る。


 今はグループホームで住む家もあるし、日中は作業所という居場所がある。もうヤンキーや立ちんぼ客に会わなくて良いってだけで幸せ。


「マコは変わってるな。簿記一級とかとっても、何にもならんかった。数学の勉強もできたけどさ、社会が求める能力はソレじゃないんだろうな」

「先輩、自虐しています? そうだ、今度うちの牧師さんの教会きます? クリスマス近いですし、クッキーもらえるって」

「宗教かー」


 一寸法師くんの反応はあまり良くない。確かにキリスト教とか宗教と聞いて、丸ごとウエルカムって人は少数派だろう。


「いや、いい。ニーチェも神は死んだって言ってるし。僕は科学を信じるさ」

「へー」

「うん、やっぱり宗教はちょっとね……」


 一寸法師くんの気持ちもわかる。ということで、わたしは一人で教会へ。日本の教会はとにかく地味だし、牧師さんも学校の先生みたいな雰囲気だった。


「牧師さーん、久しぶりです。こんにちわー」

「マコちゃん、久しぶりだな」

「うん!」


 牧師室では色々と現状を話す。福祉作業も楽しいことや、一寸法師くんのことも。


「一寸法師くん、せっかく簿記一級取れたのに、仕事には行かせないみたい。なんかもったいないね。そういう事ってあるの?」


 牧師さん、たぶん六十五歳ぐらいのおじいちゃんだが、わたしとは全く違う反応だった。


「神様のご計画に合わないことをいくら努力しても、あんまり良い結果にはなりません。まあ、神様が全てのことを益にしてくださる時を待つしかないですね」


 てっきりわたしと同じ意見だと思ったのに。そもそも神様ってなんだろう。一寸法師くんは、もういない的なこと言ってたけど。


「でも一寸法師くんみたいな方こそ、神様が必要なのかもしれませんね。前いた信徒も引きこもりから、ようやく働けるようになったそうです」

「へぇ、神様の奇跡ってやつ?」

「それだけではなく、本人の意思も大事です。聖書では自由意思が尊重されています。本人の意思を無視して何かを強制させるって難しいですから」


 牧師さんはため息をついた。神様の愛が必要な人も、自ら手を振りほどっている、と。本当は神様の救いはいつでもどこでも得られると言う。


「それってちょっと福祉にも似てない? わたしにいくら支援者がいても、わたし自身がその気がなかったら難しかったかも?」


 福祉は基本的に申請主義だ。それに、人権だってひと一番尊重される。何かを強制されることはないので、自分から困ってます、助けてくださいって言わないと難しい。


「マコさん、鋭いです。福祉は元々は宗教の奉仕活動とも似ていて、昔は生きづらい人も教会やお寺が面倒見ていたんですけどね」

「なんで今はそうじゃないの? 修道院でもくもくと写本作ったり、お寺で写経するの生きづらい人にちょっと良さげじゃない?」


 牧師さんは答えない。それに、これから副業の仕事があるらしく、わたしに構っている暇もないみたい。


 よく見ると、教会の壁もシミが多く痛んでる。雨の日も雨漏りするらしいが、予算の問題で修繕は来年ぐらいになるらしい。


 ひとり残されたわたし。壁に貼ってあるポスターを見つめた。聖書の言葉が書いてあるらしい。


 主よ、わたしの心は奢っていません。

 わたしの目は高くを見ていません。

 大きすぎることを、わたしの及ばぬ驚くべきことを、追い求めません。詩篇131篇1節。


「どういう意味だろう?」


 わからない。時々、牧師さんに聖書の言葉の意味を聞くが、難しくてさっぱりわからない。


「まあ、もう帰ろっかなぁ……」


 また明日から作業所だったが、一寸法師くんはあんまり来なくなった。福祉士さんによると、一寸法師くんは疲れてしまったらしい。


「マコちゃん、一寸法師くんに手紙でも書いたら?」

「うん、書いてみる」


 福祉士さんの勧めで一寸法師くんに手紙を書いた。イースターは教会で遊ぼうよって誘ったけれど、返事はなかったし、最近ちっとも一寸法師くんの顔を見ていない。


 今日ももくもくとお菓子の袋詰めの作業をやってる。ちょっと飽きてきたかなぁ……。でもニコニコ笑顔で作業していた方が、福祉士さんも喜ぶよね?

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