↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
83/85

14-5・いつも君がいた

 卒業式の当日。自転車で会場の玄滋津(げんじつ)市民体育館に向かう。


「尊人!おはよう!」 

「あっ!おはよう!」


 信号待ちで、自転車に跨った櫻花(おー)ちゃんに遭遇する。


「尊人のお母さんは来るの?」


 会場が変更されて、駐車場もいっぱいあるから、親が卒業式を見に来やすくなっちゃったんだよね。


「多分、来ない・・・と思う」


 お母さんには「恥ずかしいから来ないで」って言っちゃった。


「おーちゃんのところは?」

「来るってさ。『逞しくなった尊人にも会いたい』って言ってた」

「『逞しい』・・・まぁ・・・少しは」


 櫻花(おー)ちゃんのお母さんに会ったのは、小学校の時が最後かな?その頃に比べれば逞しくなってると思うけど、「小学校の時と変わらないね」って言われそうで会うのが怖いな。


「行こう」

「うん」


 信号が青に変わったので、おーちゃんが先に自転車をスタートさせて、僕は後と並列の中間ぐらいの位置で追う。

 小学校の時から、一緒にいる時はいつもおーちゃんが前で、僕は背中を追っ掛けていた。中学になると、一緒が苦しくて、登下校中に会っても、早足でおーちゃんとは別々に歩いてた。高校になって自転車通学になってからも似たようなもんかな。最近になって、やっと一緒に行動をしても苦しく感じなくなった。


「『背中を追う』に戻っただけなんだけどさ」


 もし、後じゃなくて、早足で追い越すんじゃなくて、櫻花(おー)ちゃんの隣や斜め前を進めたら、何かが変わっていたのかな?でも僕にはできなくて、「できるようになりたい」って思ってる時は苦しかったけど、「できないのが僕」って考えるようになったら、少し楽になった。きっとこれから先も、おーちゃんが僕の背中を見つめることなんて無いんだろうな。


・

・

・


 仲間達のおかげで生き返ることができたあの日・・・あの直後に、喋る光が僕だけに聞こえるように「希望を叶えて良いか」と最終確認をしてきた。OKをしたら、僕の影響で記憶消去を受けない真田さん達以外は、勇気を振り絞って戦ったことを忘れる。


 僕はたくさんの人から注目をされるのが苦手。僕が活躍した記憶なんて無くて良い。大半のクラスメイトに対してはそう思っている。

 だけど、真田さん達に忘れてほしくないのと同じくらい、櫻花(おー)ちゃんには僕の頑張りを覚えていてもらいたかった。意気地無しのまんまじゃなくて、「やる時はやる子」と見直した記憶を残したかった。


 でもそれでは、思い出してしまった辛い記憶も残ってしまう。

 おーちゃんには、憎しみと絶望が混ざった表情をしてほしくない。ずっとキラキラな笑顔のままでいてほしい。


・

・

・


「あっ!私、滑り止めは合格したよ」


 おーちゃんが自転車を漕ぎながら振り返って教えてくれる。僕は自転車の速度を少し上げて、おーちゃんに追い付いた。


「おめでとう!」


 櫻花(おー)ちゃんは、第一志望の国公立と、滑り止めの私立のどっちも関東の四年制大学。


「尊人はどうだった?」

「滑り止めは合格したよ」

 

 第一志望がクリアできなかった場合、僕は県外で生活することになります。言うまでもなく、第一志望がクリアできなきゃ自信には繋がらないので、未だ真田さんにはコクってません。


「そっか・・・おーちゃんは関東に行っちゃうんだ」


 第一志望の合否に関係なく、櫻花(おー)ちゃんは関東に進出する。

 ずっと、近所だった幼馴染。僕のお姉ちゃん代わりだった彼女は、僕が思春期になるころには素敵なの女の子になっていた。会話はできなくても、毎日のように見た顔。でも、4月からは離れちゃう。ずっとキラキラだったおーちゃんは、関東での大学生活を経てもっとキラキラになるんだろうな。


「寂しいんだけど、卒業っていうのはそういうことだよね」


 櫻花(おー)ちゃんがいてくれれば、僕はどんなにでも強くなれる。幼い頃の僕はそんな想像をしてた。


 でもね、それじゃダメなんだよ・・・ミレン。


 誰かの為に成長するのは素晴らしいこと。誰かと手を取り合って一緒に成長できれば素敵だろうな。でも、誰かの為に自分を変えちゃうのは、続けていくうちに無理が生じちゃう。「おーちゃんがいてくれれば」って妄想はそういうこと。僕が僕じゃなくなっちゃう。


 僕はどこまでいっても僕のままなのにね。


 もし僕が異世界に転生をしたとしても、臆病なままで、みんなの注目を集めるのが苦手なのが僕。僕に優しい世界で、凄い力を持ったり、人望が有ったら、それはもう僕ではない。僕は、僕を否定した別の物にはなりたくない。それが、大活躍を約束された世界だとしてもね。


「尊人?どこ行くの?」 

「・・・あ」


 おーちゃんは曲がる為に横断歩道の手前で自転車を停めたのに、僕はいつもの癖で学校側に直進する方向の横断歩道を渡りかけていた。卒業式の会場は学校ではないのね。

 慌てて自転車を回頭して、おーちゃんと同じ方向に戻って、並んで信号待ちをする。


「もうっ!危なっかしいなぁ!

 大学生になってまでボーっとしてちゃダメだよ」


 ちょっと強めに背中を叩かれる。おーちゃんにとって、僕は弟分のままみたい。


「うん」


 信号が青に変わったので、櫻花(おー)ちゃんが先に自転車をスタートさせて、1テンポ遅れた僕が後を追って自転車を走らせる。


 櫻花(おー)ちゃん、今までいっぱいありがとう。


 沢山の借りがありすぎて、ちょっと返せそうにないね。でもさ、おーちゃんは覚えてないけどさ、ミレンの闇から命懸けでおーちゃんを守った分は「少しだけ借りを返した」ってことにしておくね。僕、死にかけたんだから、それくらいは許してね。


・

・

・


 小中学の時は一人一人が名前を呼ばれてステージに上がって卒業証書をもらったけど、高校では名前を呼ばれて起立をして返事をして、卒業証書はクラスの代表1人だけがステージに上がって授与される。寺坂さんの次は長野さんの名前が呼ばれた。智人(トモ)の名前だけ無いのは寂しいけど、彼は異世界で生きることを決めたんだから、「その意思を尊重する」ように努力はする。


 村雨虎徹教頭が喋っている。卒業間際だけど、お世話になった教頭先生の名前、ちゃんと覚えました。


♪~♪~♪~

 校歌、卒業生はいっぱいいるのに、全体的に凄く声が小さかった。3年間もお世話になったのに、僕、高校の校歌を歌い出しと寂の部分しか覚えてなかったよ。千幸(せんこう)高校、ごめんなさい。


・

・

・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。