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13-5・仲間達の選択

〈キミの友人に勧誘をさせて、特別待遇で迎え入れる。

 まさか拒否をするとは思わなかったな〉 


 目の前に光が灯って声が聞こえた。喋る光だ。まぁ、今の僕に目は無いから「目の前」って表現は違うのかもしれないけどさ。


「貴方が智人(トモ)にお願いしたんですか?」

〈友人の言葉なら受け入れると思って、

 わざわざカレにキミの勧誘を依頼したのだがな、無駄だったよ〉

「聞き分けが悪くて、なんかスミマセン」

〈尤も、カレは『君は融通が利かないから受け入れない』と言っていたがね〉

「うわぁ~・・・思いっきり見抜かれてた」


 だから智人(トモ)は、ごり押ししないで直ぐに僕の意思を優先させたんだね。前の智人(トモ)だったら、「俺の言うのが正しい」って感じでもっと強引だったけど、1年を経て少し優しくなったのかも。


〈思念が取り憑いていたバグが解放され、全ての不具合が解消された〉


 喋る光が教えてくれる。ミレン以外のバグがどうなったのか、僕は知らなかった。


〈大半の念は、キミの威嚇《ルーラー》の影響でバグから離れた。

 幾つかの念は残って様子を見ていたが、

 軸となる念が倒れた今となっては何もできまい〉


 現実世界の危機は回避されたんだね。安心した。僕は、真田さんと櫻花《おー》ちゃんから過去の僕(ミレン)を遠ざけたかっただけなんだけど、少しは役に立てたみたい。


〈キミの働きのおかげだ。礼を言っておこう〉


 ちょっと驚いた。この人(人じゃないけど)って、凄いミスをしてるのに「大変なことになったけど自分は悪くない」「オマエ等が何とかしろ」ってタイプだと思ってたから、お礼を言うような殊勝な一面があるとは思わなかった。


〈ボクのプロジェクトは、一時的に立ち止まらなければならないようだ〉

「結局、貴方は何者なんですか?

 モーソーワールドって何のプロジェクトなんですか?」

〈それは言えない。

 まぁ、少なくともキミが生きている間に完成することはないだろう〉


 あの・・・僕、死んでるので、「僕が生きている間に完成しない」のは当たり前です。


〈キミと仲間達、計5つの願いに労力を割かねばならないから、

 どのみち、リアルワールドの人間のモーソーワールドへの転移は、

 しばらくは停滞する。

 立ち止まってプロジェクトを見つめ直す良い機会なんだろうな〉


 そう言えば“お願い”の成り行きを見届けてなかった。


「僕のお願い、異世界流出の記憶消去・・・叶えてもらえるんですよね?」

〈約束をした報酬だ。もちろん叶える〉


 安心をした反面、少し不安がある。


「真田さん達・・・1年前の記憶が残ってる人達は?」

〈キミ以外の全員から消したはずの記憶が残った者達、

 共通点は察しているのだろう?〉

「なんとなく・・・ですけどね」


 真田さん、藤原くん、陽ちゃん、武藤さん、記憶が消えなかった4人の共通点は、僕のリターンで現実世界の確認をした経験がある人達。

 喋る光が僕に意地悪をして真田さん達の記憶を消さなかったんじゃなくて、リターンでの帰還が何らかの影響を与えているように思える。 


〈カレ等はリアルワールドを見ることで、

 モーソーワールドの経験がリアルワールドでも定着された。

 そして、基点となったキミが願いを叶える代表者になったことで、

 キミの『キミ以外の全員の記憶を消す』という願いに反して、

 カレ等に定着した記憶が、キミの影響下に入って固定をされたのだ〉

「・・・ああ、そうなんですね」


 予想は当たってたけど、理屈は半分以上が理解できなかった。


「なら・・・僕が死んで、僕の影響力が消えたら?」


 聞きたくない答えだけど、解らないままってのも嫌なので恐る恐る確認する。


〈無論、消える。

 1年前の記憶、今回の記憶、全てが君の願った通りになる〉


 つまり、真田さん達は“異世界の影響下で僕と過ごした全て”を忘れる。異世界で築いた信頼関係の全てが無くなる。

 きっと陽ちゃんは高校生活を振り返って、「なんで僕みたいな根暗な奴と友達なんてしてたんだろう?」と思うんだろうな。藤原くんや武藤さんに関しては「僕の存在なんて眼中に無い」で終わりだね。

 真田さんは・・・僕への好意なんて無かったことになる。


「どうせコクれなかったんだし・・・忘れてもらった方が気が楽かもね」


 なんでだろう?全てが望んだ通りになるのに、凄く寂しい。忘れてほしくない。


  『尊人くんのバカっ!悲劇のヒーローぶるなっ!

   あたしは、守ってもらうつもりで付いてきたんじゃないっ!』


 真田さんに怒鳴られたことを思い出す。ゴメン、僕、真田さんを守って悲劇のヒーローになってしまったみたい。


  『尊人の場合は、自己評価が低すぎるんだ』


 藤原くんにキツく指摘されたことを思い出す。せっかくアドバイスしてくれたのに改善できなかったから、こんな終わり方になっちゃったんだろうな。 


  『君は、自分のために力を発揮するタイプではない。

   自分のためになった途端に欲が無くなるタイプだと思ってる」


 大切な人のために自分を捨てるなんてさ、陽ちゃんが予想した通りになっちゃったよ。


  『尊人!檄を飛ばせ!

   真リーダーはオマエなんだから当然だろ』


 武藤さんからリーダー扱いされた時は焦った。でもね、それまでの高校生活では満足に話したことが無かった武藤さんが、僕の存在を認めてくれたのは嬉しかった。


「いやだ・・・いやだ・・・いやだ・・・いやだ・・・」


 死を覚悟していたのに・・・腹を括っているはずなのに・・・凄く後悔をしている。


「会いたいよぉ・・・」


 肉体が無いから涙は出ない。でも切なくてやりきれない。心に何本も何十本も氷柱が突き刺さっているみたいな気分になる。


「お別れしたくないよぉ・・・」


 現世で生きる上で、正真正銘の孤独な人なんていない。孤独ぶっている人は「自分の価値は凡人には理解できない」と大物ぶった勘違いしているか、周りにいる人を「価値の無い下らない連中」と過小評価している人だけ。


「みんなと一緒がいいよぉ・・・」


 異世界に転生する物語の主人公は、どうやって“この痛さ”を克服しているんだろう?ちゃんと異世界物を見ておけば、前向きになる手段を学べたのだろうか?

 でも、もう遅い。僕は、異世界に転生する物語の主人公みたく強い心は持てそうにない。


〈随分とお粗末だな。キミの覚悟はその程度だったのか?〉


 辛い。こうなるのが解ってたから、異世界への転生は望まなかった。早く解放してほしい。さっさと途絶えてしまいたい。そうすれば悲しいことなんて考えずに済む。


〈愚かな友人たちに感謝をするんだな。

 揃も揃って他者を優先させる願い・・・ボクには理解できない。

 ボクは他者の為の願いではなく、

 願いを得た者が権力や承認欲求に溺れる様子を観察したかったのだがね〉


 なんのこと?「愚かな友人」って誰?僕の大切な仲間達をバカにしたの?

 喋る光を睨み付けようとして、四つの小さな光が僕を囲んでいることに気付いた。


〈みこっちゃん!死んじゃダメだよ!!

 死なせてたまるか!これが僕の願いです!〉


 陽ちゃんの声だ。


〈尊人っ!還ってこい!!

 俺の願いでコイツをあの世から引き摺り戻す!〉


 藤原くんが怒鳴っている。


〈尊人を返せ!!

 イケメン彼氏や世界征服なんてどうでも良い!そんなもん自力で掴んでやる!〉


 どうしたの、武藤さん?お金持ちの彼氏をお願いするんじゃなかったの?


〈お願いだよ!目を開けてよ!!

 あたしには他に欲しいお願いなんて無いからっ!

 目を開けてくれれば、それで良いから!尊人くんっ!!〉


 真田さん、泣いてるの?


「みんなの声?」

〈声ではなく、カレ等4人の願いだ。実に面倒臭い。

 5つも同時に願いを叶えるだけでも例外なのに、

 誰一人、自分の為に願いを使わず、

 たった一人の生を重複して願うなど、異例中の異例だ〉


 僕を囲んでいる4つの光が輝きを増していく。


〈キミが異世界転生を望めば、カレ等の願いは届かなかった。

 だが放棄をしたため、キミの魂はフリーになった。

 本来ならば“決まった死”の撤回などありえぬのだがな、

 モーソーワールドを救った4人の願いなら叶えるしかあるまい〉

「・・・それって、もしかして?」


 無かったはずの“肉体がある”感覚が蘇ってくる。


〈あえてもう一度言おう。カレ等に感謝をしたまえ〉


 大きく広がった4つの光に包まれ、僕の視界はホワイトアウトをする。


・

・

・


 青空と泣いている真田さんの顔が見える。


「さなだ・・・さん?」


 真田さんのすぐ後ろには、櫻花(おー)ちゃんの顔も見える。


「・・・おーちゃん」


 周りには陽ちゃん、藤原くん、武藤さん、俊くん、沼田さん、力石先生・・・みんなの顔が見える。多数が心配そうな顔をしていて、何人かは泣いている。


「ぼくは・・・」


 僕は中庭で仰向けに寝ていて、仲間達に囲まれていた。


「わぁぁぁんっ!みことくんっっ!!」


 真田さんが泣きながら抱きついてくれる。


「もうっ!ビックリさせないでよね、尊人!」


 おーちゃんは、長野さんに寄り添われながら涙をぬぐっている。


「みことくんっ!みことくんっ!みことくんっ!」


 抱きしめてくれる真田さんの全身から温もりが伝わって、「生きている」を実感できる。 


「みことくんっ、大丈夫なんだよねっ!うわぁぁぁんっ!」


 ダメだよ真田さん。もらい泣きしちゃうから泣かないでよ。さっきまでは肉体が無かったから泣かずに済んだのにさ・・・もう無理だよ。


 でも、泣いてもいいか。

 僕と真田さんだけじゃなくて、櫻花(おー)ちゃんや陽ちゃんや武藤さんや沼田さんや由井さんも泣いてるからね。藤原くんは、僕が目を覚ました途端にそっぽを向いちゃったから、泣いてんのか怒ってんのか解んない。


 みんなと再会できたのが嬉しい。奇跡をくれた仲間達には、ちゃんとお礼を言わなきゃだね。

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