13-4・僕の選択
目を開けたら、真っ暗な中に浮かんでいていた。真っ暗なのはさっきまでと同じなんだけど、さっきまでの嫌な感じの真っ暗とは違う。「目を開けたら」と表現したけど、その表現も違うかな。開けたり閉じたりする瞼の感覚が無いというか、肉体の感覚と重みが無い。体を失って魂だけになったみたい。でも、「魂だけになる」がどんな状態なのか解らないから、この表現が正しいのかどうかもよく解らない。
「わっ!・・・眩しっ!」
光が見える。光の向こうに映画やアニメで見る“中世ヨーロッパみたいな街並み”が見える。いや、あれは“おなじみ”の異世界かな?
〈ミコ、こっちに来いよ。こっちの世界なら、君は生きられるからさ〉
智人の声が聞こえる。
「トモ!どこにいるの?」
トモにはいっぱい文句を言ってやりたい。わからず屋のまんまだったら、2~3回くらい叩いてやりたい。あ、でも無理か。僕には体が無いんだっけ?
〈君からは見えない場所だ〉
「なんかよく解らないけど凄いね。
『生きられる』ってどういうこと?」
僕、死んだの?生きてるの?どっちなんだろう?
〈神のミスで死ぬとさ、モーソーワールドで特別待遇を受けられるんだぜ〉
「そうなの?」
やっぱり、死んじゃったみたい。
〈そーゆー話、聞いたことあるだろ?〉
聞いたことある。トモが「面白いから見ろ」って言ったアニメ、そんなストーリーだった。ちょっとだけ見て、全然面白くなくて、すぐに脱落しちゃったけどさ。確か、死ぬ運命じゃなかったのに、神様のミスで事故にあって死んで、お詫びで凄い特殊能力を得て異世界に転生するんだっけ?
〈モーソーマスターの尻拭いをして死んだ君は、その資格があるってことだ〉
「へぇ・・・そうなんだ?」
〈だからさ、こっちに来い。
君のこと、俺の恋人達に紹介するよ〉
「恋人?・・・シリーガルさんとバクニーさん?」
〈それは過去の恋人だよ。
今の恋人がはサンディとムーンとカヨーとミェルコ・・・〉
「あ~~~・・・いっぱいいそうだね。
名前はいいや。ちょっと覚えられそうにない」
トモは相変わらずトモのままだね。ちょっと呆れちゃう反面、トモのままなのが嬉しい。トモと一緒に異世界で第二の人生か・・・それも悪くないのかな?
「・・・でも」
〈どうした、ミコ?〉
「・・・うん、ちょっとね」
もう一人の僕を消し去るって決めた時点で、共倒れになって死ぬのは覚悟していた。今更、生にしがみつく理由なんて無い。それよりも・・・
「真田さん・・・おーちゃん・・・陽ちゃん・・・藤原くん・・・みんな・・・」
死は怖くない。怖くないつもりだった。だけど、死んで、皆に会えなくなって、大切な仲間達から“過去の人”として忘れられるのが怖い。
異世界に転生して、会いたいのに二度と会えない仲間達を思い出すのは寂しい。
「トモ一人に会えなくなっただけでも寂しくて仕方が無かったのに、
みんなに会えなくなったら、僕はどうなっちゃうの?」
耐えられそうにない。会いたくて、会いたくて、会いたくて、会いたくて、毎日泣いて過ごしそう。僕は、トモみたく知ってる人がいない世界で生きていくことを選ぶほど強い人間にはなれないみたいだ。
「ゴメンね、トモ」
〈・・・ミコ?〉
「僕、そっちには行けない。このままでいい。
寂しいのイヤだから喪失でいい。
そうすれば、今は寂しいけど、そのあとは寂しい思いをせずに済むからさ」
〈ホントにそれでいいのか?〉
「うん、いいの」
〈そっか・・・相変わらず、変なところで頑固だな〉
「うん、そうかも」
〈残念だけど、君が拒否をするなら仕方が無い〉
「うん、ゴメンね。
そんなことよりもさ、トモが今までどうしていたのか教えてよ」
〈自分が終わってしまうのに『そんなこと』扱いかよ?
まぁ、いいや。知りたいなら教えてやるよ。俺の活躍をさ〉
「あははっ、武勇伝はほどほどにね」
1年前、僕達が異世界から去ったあと、智人は「ほとぼりが冷めるまで」と言って、ブラークさんの家に居候をした。でも、頻繁に女の子を連れ込んで、ブラークさんに「節度を持て」と言われても改善しなくて、窮屈だったから居候をやめたんだってさ。・・・まぁ、多分、自分から出て行ったんじゃなくて、ブラークさんに追い出されたんだろうけど。
〈アイツ、クソ真面目すぎるよな〉
僕は、その「クソ真面目」なブラークさんとバッチリと波長が合うのです。
「僕はトモの素行に問題があるんだと思うよ」
その後は、「誰もやらないことに挑戦する」を目標にして、仲間を集めて外地遠征に出た。
「トモの仲間から聞いたよ。
トモローって名前にしてたんでしょ?
なんで、チートって名乗るのやめちゃったの?」
〈チートは有名すぎるからな〉
「ああ・・・そりゃそうだよね」
帝都を転覆させようとした大謀反人だもんね。名乗れるわけが無いというか、名前変えただけでOKって緩さが、異世界の凄いところだね。
〈俺、伝説の大冒険者になって、モーソーワールドの歴史に名を刻むよ〉
「頑張ってね、トモ」
久しぶりに智人とのんびり話ができて嬉しかった。トモとの通話は、喋る光が特別回線で繋げてくれてるらしくて、そろそろ制限時間なんだってさ。
「ブラークから聞いたよ。
君がモーソーワールドの外側に填まった俺を助けてくれたんだってな」
「へへへっ、トモが無事で良かったよ」
「サンキューな」
「うん」
〈俺は君に助けられたのに、君を救うことはできないんだな〉
「それはいいの。僕が決めたんだからさ。
でもさ、もし感謝してくれてるなら、一つだけお願いを聞いてくれる?」
〈・・・ん?〉
「ツィホーさんって人が間違って現実世界に来ちゃって仲良くなったんだよね。
自分の居場所を探してるみたいだからさ、
異世界に戻ったら仲間に入れてあげて欲しいの」
〈おいおい、自分が死にかけてるのに他人の心配かよ?〉
「お願いしてもいいかな?
トモとは気が合うと思うんだよね」
〈解った、ツィホーな〉
「東都市の冒険者ギルド周辺をウロチョロしてると思うよ」
〈解った。とりあえず行ってみるよ〉
「お願いね」
制限時間が来たらしい。テレパシーの制限時間じゃなくて、僕の制限時間ね。異世界での「生」を拒否しちゃったからね。いつまでも、中途半端な精神体のままで維持しておくのは難しいみたい。
〈なぁ、ミコ〉
「ん?」
〈俺、君のこと忘れないからな〉
光の向こう側で穏やかに微笑んで手を振る智人が見えたような気がした。
「うん・・・ありがとう。バイバイ、トモ」
1年前は突然すぎて受け入れられなかったけど、今度はちゃんと納得できる形でトモにお別れをできた。おかげで少し満足できた。
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智人はキャパが狭く、想定外に対しては動揺で感情を爆発させる。且つ、納得をできない結果に対しては自己弁護と責任転嫁をする。1年前の戦いでは何度か尊人を殺しかけたけど、本心からの「殺したい」ではなく、感情的になった状態。結果的には殺さずに済んだので、時間が経過して冷静になってから安堵をしている。
むしろ異世界生活の時点では、尊人の方が多くの仲間を奪った智人を継続的に恨んでいた。だけど、全員が生還をできたので、結果オーライで智人への恨みはチャラにしている。ただし、帰還をしなかった智人には、1年間ずっと腹を立てていた。つまり、尊人の方がねちっこい。
2人は、少し成長した1年後の今回で、ようやく「互いの考え方や生き方を尊重」「2度と交わることは無い」と言う形で和解と決別をする。
尊人は融通が利かない面があるため、他者の意見では異世界肯定派を理解できない。過去の自分と向き合うことで、やっと異世界肯定派を理解できた。ただし、理解はしたけど「自分が生きる世界ではない」とキッパリ否定をしている。




