12-5・もう一人の僕
「ソウナンダ?ソレガ 今ノ僕ノ考エナンダ?」
攻撃的な眼になったミレン(僕よりも少し背が低い黒い人型)が、ノートを広げた。
「続キ、読ミタカッタノニ 残念ダナァ。
仕方ガナイ。続キハ僕ガ作ルヨ」
広げられたノートから白いモヤモヤが発生する。
「・・・そのモヤモヤって」
「解ルヨネ。前ニ君カラ引ッ張リ出シタ 君ガ背ヲ向ケタモノ」
白いモヤモヤと一体化をしたノートが、ミレンの手から離れて浮かんでいく。
「俗世デ汚レタ僕ハ要ラナイ。僕ヲ リセットスル。
ミンナ、チカラヲ 貸シテ」
あちこちに浮かんでいた眼が黒い霧に変化して、白いモヤモヤに飛び込んで、ノートがバラバラになった。一枚一枚の紙に目が点り、意思を持ったようにして動いて、仁王立ちになって両腕を掲げたミレンに融合していく。黒い人型が徐々に立体的に変化をする。
「何をするつもり?」
「汚レタ僕・・・ツマリ、君ノ排除。
僕ハ数少ナイ例外ノ ヒトツ。特別ナ存在。
リアルワールドニ 辿リ着ケル者」
「僕の肉体を乗っ取るつもり?」
「違ウヨ。人聞キガ悪イナ。君ヲ 純粋ダッタ頃ノ僕ニ戻スンダ」
黒い人型の胸に鳥をモチーフにした炎色のプロテクターが出現する。続けて、炎色の腰当、籠手、脛当、最後に鳥モチーフで炎色のヘッドギアが出現する。
「え!?その鎧ってっ!?」
画力が低い僕が4~5年前に描いた絵だから「絶対」とは言えないけど、統和の英雄(僕が主人公の物語)で「フェニックスの鎧を装備した僕」に見える。
鎧の装着を終えたミレンが、両手に刃渡り50cmくらいの剣を握る。
「オーラパワー!」
ミレンが技名を叫んだ途端に、左右の剣が発光をする。
「その技っ!ちょっと待って!!」
飛び掛かってきたミレンの振るう剣を鉄の盾で受け止め、衝撃を利用して数歩後退。ミレンが踏み込んできて二刀流の連打を放ったので、今度は足を踏ん張らせて、左右から交互に繰り出される3発を盾で受け止める!
「早っ!・・・だけどっ!」
右剣の攻撃に比べて、左剣の攻撃は軽い。
鉄の盾を斜めにして4発目(左拳)を受け流し、ブラークさんの剣を振るう!ミレンはバックステップで切っ先を回避して、更に数歩後退をして右剣を引く姿勢で構えた!
「来るっ!」
「ハァァァァァッッッッッッッ!オーラシュート!!」
最初は右、続けて左、ミレンが振るった左右の剣から発せられた2発の光弾が飛んできた!
「くっ!」
格好良く衝撃波を飛ばして相殺したいんだけど、僕にそんな技量は無い。両手で鉄の盾を支えて力を込めて2連続の光弾を受け止めた!
「わわっ!」
威力に押されて体勢が崩れ、数歩後退をさせられたけど問題は無し。何故なら、オーラシュートを放つと剣に纏っていたオーラパワーは無くなり、再び気合を入れなおす必要があるから。
案の定、ミレンの剣から光は消えている。
「・・・君は」
今の技はハッキリと解った。二刀流のオーラパワーは、統和の英雄(僕が主人公の物語)で僕が僕用に設定したストーリー序盤の技だ。
「でも、なんで?」
「言ッタヨネ。君ハ コッチノ人。
リアルワールドデハ辿リ着ケナイ妄想ヲ楽シム人。
モーソーワールドニ適合デキル人」
「違う!僕は妄想の殻になんて・・・」
ミレンは自分のことを「僕が背を向けている者」と言った。つまり、都合の良い妄想を楽しんでいた頃の僕。ミレンに引っ張り出された白いモヤモヤは、今の僕が背を向けた過去の僕。
「本来ノ君ヲ思イ出シテクレタミタイダネ。
僕ハ 君ガ背ヲ向ケタ君。ソシテ・・・君ガ妄想ヲシタ最強ノ君ダヨ」
異世界が、妄想を拠所とする転移者(トモみたいな応募者)達の理想を叶えるのと同じように、僕の念が僕の妄想と結びついて形を得た。
「だから・・・おーちゃんを」
当時の僕は、櫻花ちゃんしか見ていなかった。そして、1年前に異世界転移をした時も、最初はおーちゃんの心配ばかりしていた。
「僕のその感情が一人歩きをしたのがミレン?」
「ソウ。君ガ置キ去リニシタ未練だからミレン。イイ名前デショ」
だからミレンは「僕とおーちゃんが手を取り合う」と「部外者の排除」を作ろうとしていた。
校庭から屋上に向かう過程で、由井さんの特殊能力を利用した時は、ミレンに妨害をされた。その理由は、僕以外が部外者だったから。
生徒玄関で蓮井先生を倒した時は文句を言われた。その理由は、あの場には僕と藤原君しかいなかったから。
2回目の突撃では、ミレンは露骨な干渉をしなかった。その理由は櫻花ちゃんもいたから。ミレンは、おーちゃんを待っていたのだ。
第二と第三の関門は、僕とおーちゃん以外を脱落させるために配置をされたんだね。
「コレデ解ッタヨネ。君ハ モーソーワールドニ適合デキル人。
理想実現ノタメニ 協力シヨウヨ」
「いやだ。確かに僕の根っこは“そっち系”なのかもしれない。
でも、そんな妄想は要らないよ」
もし、中学時代の僕が異世界に転移をしていたら、「僕が活躍できるに都合の良い世界」として受け入れていたかもしれない。おーちゃんと一緒だったら、喜んだかもしれない。当時は本気で「おーちゃんが傍にいてくれれば、僕は頑張れる」って思っていた。振り向いてもらえる努力なんて何もしなかったのに、そんな都合の良い想像ばかりしていた。
「何もしなかった僕が、都合の良い妄想を具現化した姿・・・それが君」
「違ウヨ。無垢ダッタ君ガ、理想二到達シタ姿・・・ソレガ僕」
1年前、真田さんが隣を歩き続けてくれなければ、藤原くんが導いてくれなければ、陽ちゃんや武藤さんが手を携えてくれなければ、沢山の仲間達が信頼をしてくれなければ・・・僕はどうなっていたんだろう?
その答えが目の前の僕なのかもしれない。




