12-4・僕の未練
「安心シテ。君ハ死ンダワケデハナイ」
真っ暗な中で、たくさんの眼が浮かんでいて、そのうちの一つが近付いてきた。それは、徐々に黒い人型を形作る。僕よりも少し背か低い人影。この状況は、以前にも経験をしている。
「ミレン・・・だね。僕はどうなったの?」
「君ハ おーチャンヲ庇ッテ 代ワリニ バグニ飲ミ込マレタンダ」
真っ暗な中に、櫻花ちゃんが持っていた弓と矢が浮かんでいる。おーちゃんは脱出できたけど、弓矢だけは飲み込まれてしまったんだね。
「おーちゃん・・・なんで、おーちゃんを!?」
腹が立つ。ミレンはおーちゃんを連れ去ろうとした。
「ソレガ 君ノ望ミダカラ」
僕がおーちゃんを?そんなわけないじゃん。
「君ト おーチャンガ 寄リ添ウ世界」
「意味が解らない!」
コイツ、何なの?前に会った時は、「僕の近くにいるけど僕が目を背けている」「本来の僕を思い出せ」「僕はずっとおーちゃんが好きなのに諦めて真田さんに乗り換えた」「僕のことは何でも知っている」と言っていた。会話をしてるとピンポイントで神経を逆撫でられる。
「君は一体?」
「マスターカラ聞イテ知ッテイルヨネ?」
「聞いたよ。異世界に浮遊する転移者達の心の集合体・・・でしょ」
恐怖に支配されて脱落をした念、志半ばで倒れた後悔の念、異世界人として生きることしかできなくなった失意の念、現実世界に帰還ができない様々な思念。
バグが発生して、一時的に現実世界と異世界が繋がったことで、転移者達の思念がその繋がりに集中をした。思念の集合体はバグを取り込んで利用し、現実世界と異世界を繋ぐゲートを作った。だけど、実体ではなく、あくまでも“異世界の残った念”なので現実世界には辿り着けない。
「僕等の世界を眺めることしかできないのに、何がしたいの?
モンスターを嗾けて滅ぼすつもり?」
「沢山ノ心ノ集合体ダカラネ ソンナ悪イ感情モ混ザッテル。
デモ僕ハ違ウヨ」
「なにが違うの!?」
「チャント説明スルカラ 慌テナイデ」
現実世界には辿り着けない理由。それは、既に現実世界には肉体が無いから。
「異世界で脱落して、帰還期限も過ぎちゃったから、死んじゃったってこと?
おーちゃんや藤原くんは、そうなる可能性があったってことだよね」
肉体があっても、魂のベースが異世界に有るので還ることができない。
「ブラークさんや上府さん?」
対照的に、肉体はあるが、現実世界に何の未練も無い者も存在する。
「トモが該当すんのかな?」
大半の思念が現実世界には辿り着けない。ただし例外が存在する。それが、現実世界に帰還した者が異世界に残した未練。大半が帰還をした時点で異世界を過去の経験として捨てるが、それができない者もいる。異世界に残りたかったのに、多数決制で現実世界に強制帰還をさせられた者。
「ソシテ・・・モーソーワールドニハ未練ガ無イケド、忘レ物ヲシタ人ノ未練。
心当タリ、アルヨネ?」
指摘をされて、心臓が止まりそうになるほど驚いた。心当たりはありすぎる。
「智人を連れ帰れなかった僕の未練?」
「ソノ通リ。君ハ リアルワールドニ帰還ヲシタ後モ、未練ヲ送リ続ケタ。
リアルワールドニ存在スル抜殻ニ、頻繁ニ語リカケルコトデ」
たびたび、智人の家に行って、眠っているトモに面会をさせてもらって話しかけた。ずっと、トモを異世界に残してしまったことを悔やんでいた。その感情が、異世界と繋がったままのトモを経由して、異世界に流れていた?
「君は・・・?」
「ココマデ説明スレバ モウ解ッテイルンデショ?」
「君は・・・僕。でも目的はっ?
なんで、現実世界にモンスターなんてっ!
僕はモンスターを嗾けて、皆を困らせようなんて思ったことないよ!」
「サッキモ言ッタデショ。
沢山ノ心ノ集合体ダカラネ、
モンスターを嗾ケテ世界ヲ困ラセタイ悪イ感情モ混ザッテルノ。
ソーユー強引ナ感情ニ流サレチャウノ 僕ラシイト思ワナイ?」
悔しいけど反論ができない。
「僕ノヤリタイコトハ 違ウヨ」
「君の・・・いや、僕のやりたいことが、おーちゃんの拉致?
なんでっ!?ありえないっ!」
「おーチャンサエ居テクレレバ・・・
おーチャンガ寄リ添ッテクレレバ・・・
おーチャンカラノ信頼ダケアレバ・・・
僕ハ何ニデモ成レル。ドンナ苦労モ怖クナイ」
中学になって櫻花ちゃんへの恋心に気付いてから1年前までは、ずっとそんな感情を持っていた。
「おーチャンガ欲シイ。僕ガ望ムノハ ソレダケ」
一途で淡い恋心のつもりだったけど、言葉にされると凄く耳障りだ。
「でも、今の僕はっ!」
1年前に僕の初恋は終わった。僕の望みは、そこには無い。なんで今更、昔のことを蒸し返す?
「イイ加減ニ 本来ノ君ヲ思イ出シテヨ」
「君こそいい加減にしてよ。・・・僕は」
以前に指摘された時からずっと考えていた。
おーちゃんに向けていた「好き」は、真田さんに向けている「好き」よりも弱かった?いや、おーちゃんを大好きな僕は間違いなく存在した。なら、おーちゃんを嫌いになったわけじゃないのに、なんで真田さんのことが好きなの?
僕自身を納得させられるような答えなんて見付けられなかった。でも、解ったこともある。
「おーチャン、諦メルノ?妥協スンノ?」
「おーちゃんを諦めたって言われれば否定できないけど・・・
なんでって聞かれても答えられないけど・・・
でも妥協はしていないって自信はあるよ」
「諦メテ 違ウ子ニスルノ?」
「うん!いっぱい悩んだけど、この感情だけは否定ができない!」
「ナラ“統和の英雄”ノ続キハ?」
ミレンはいつの間にか、表紙に丸シールを6個並べて貼ったノートを持っている。異世界で智人を救出して現実世界に戻ってから、捨てるつもりで紐で縛った束を確認したら、そのノートはちゃんと有った。だからミレンの持っているのは、多分、記憶が具現化されたノート。
「書く気、無いよ。続きなんて存在しない。
だって僕は・・・真田早璃が好きだから!」
いっぱい悩んだけど、この感情だけは覆らなかった。
妄想の中の物語じゃなくて、現実の中でちゃんと触れられる真田さんに傍にいてほしい。だから、統和の英雄の続きは無い。
「ヘェ~・・・」
言い切った直後、ミレンの眼が攻撃的に変化をした。
尊人の視点では描けないんだけど、櫻花が闇に捕まったのは、尊人の声に呼び寄せられたから。尊人の声に反応して中庭側の手摺に近付いて、隠れていた闇に遭遇をした。




