1-5・変わらない友達と変わる環境
カラオケを終えて皆と別れた後、僕は一か月ぶりに智人の家にお見舞いに訪れた。お母さんからトモの部屋に案内してもらう。ベッドで眠っているトモは、一年前と変わらず、穏やかな表情のままだ。
「ねぇ、智人・・・そっちの世界は楽しいの?」
異世界から戻った直後は、週に一回は様子を見に来ていた。だけど、バスケ部の最後の夏に集中したり(補欠だけど)、受験勉強で気持ちに余裕が無かったりして、来る頻度はドンドンと減ってしまった。
「早く起きてよ。来週には卒業式があるんだよ」
大学生になったら、今以上に来る機会が減ってしまうような気がする。トモのことがどうでも良くなったわけじゃないのにさ。
『現実から逃げるなっ!責任から逃げるな!
この卑怯者がぁぁっっっっっ!!』
僕が放った暴言。それが最後の言葉になってしまった。本気で思ったんだから訂正をするつもりはない。今でも「トモは卑怯」って思ってる。だからって智人のことが嫌いになったわけではない。櫻花ちゃんに酷いことをしたり、藤原くん達を脱落させたトモは許せないんだけど、彼女たちの傷は、現実世界への帰還時にリセットできた。
ただ、別れがあまりにも急で、未練が残りすぎてしまい、智人に対する僕自身の感情が何なのかが解らない。
「君以下しかいなくて、君の活躍が約束された世界。
そんなのぬるま湯みたいな世界にいて飽きないの?」
僕は目立つことがあまり好きではない。知らない人に評価されても嬉しくない。多分、承認欲求は弱い。でも、仲の良い人からは認めて欲しいし、友達に褒められるともっと頑張りたくなる。
「君のいる世界って、頑張らなくても済む世界なんでしょ?
それとも、僕の『頑張る』と君の『頑張る』は種類が違うのかな?」
僕はバスケが好きで、中1から高3の夏までバスケに打ち込んだ。でも、上手になれなくて、ずっと補欠だった。
こんな僕でも、小学生に混ざってプレイをすれば、きっと大活躍できるだろう。小学生達は、高校生なら誰でもできる僕のプレイを見て「凄い」って言ってくれるんだろうな。
「君のいる世界での君の立場って、そんな感じだよね」
高校生なら誰でもできるプレイをして小学生を驚かせて、「何を驚いてんの?こんなの簡単にできるよ」なんて言い出すのが“無自覚無双”ってパターンなんだろうな。僕には、ただの“可哀想な人”にしか思えない。
「ごめん・・・文句みたいになっちゃったね」
愚痴っぽくなってしまった理由は、智人を許してなくて、トモの選択を認めたくないからなんだろうな。僕の器、凄く狭いように感じてしまう。
「ん?・・・智人?」
常に穏やかだったはずの智人の寝顔が、僅かに歪んだように見えた。僕の文句が聞こえて怒っちゃったか?
「あれ?気のせい?」
今は、いつもの穏やかな寝顔に戻っている。僕自身の智人への罪悪感が錯覚をさせたのかな?
「また来るね」
智人のお母さんにお礼を言って、トモの家を発って自転車に跨る。大学生になったら、どのくらいの頻度で来られるか解らない。だから、比較的時間を作りやすい今は、可能な限り智人の顔を見に来たい。
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自転車に跨ったまま、横断歩道の信号待ちをする。時々、勢いよく信号無視をするけど、今は対面側に人がいるので悪いことはしない。
信号が青に変わったので、左右の足で交互に地面を蹴って自転車を加速させ・・・
「わっ!わっ!」
後から荷台を引っ張られてスタートを妨害された。
「え?なになに?」
振り返ると、荷台を押さえ付けていたのは櫻花ちゃんだった。僕を見つめて、いつもと変わらない笑顔で微笑む。質素な恰好なんだけど、いつも通り可愛い。
「おーちゃん?・・・急にどうしたの?」
「急じゃないよ。
尊人がボケっとしすぎなの。
話しかけたのに全然気付かないんだもん」
「え?そうなの?」
「なんか考えごとしてた?」
「うん・・・まぁ・・・」
僕は自転車を引いて、徒歩のおーちゃんと並んで歩く。こんな時、真田さんなら荷台に乗っかって2人乗りを要求する。2人乗りは違反で、お巡りさんに見つかったら怒られんだろうけど、真田さんからは「見つからないから大丈夫」「中学の時は縫愛(沼田さん)と普通に2人乗りしてた」と反論される。まぁ、「中学の時」も2人乗りは違反だけどね。
「彼女のこと?」
え~と・・・彼女にしたい子はいるけど、彼女はいません。
「入試のこと」
考えていたのは智人のこと。でも、櫻花ちゃんに言うつもりはない。
「慈模都大学を選ぶなんて尊人らしいよね」
「僕らしい・・・の?」
それってどういう意味だろ?県外に飛び出さない僕は保守的ってことかな?
「合格できそう?」
「うん・・・まぁ、それなりに・・・絶対に大丈夫・・・とは言えないけど」
以前ほどじゃないけど、おーちゃんといると昔の僕に戻っちゃう。
「おーちゃんはどうなの?」
「私も、絶対とは言えないけど、それなりに解答できたと思う」
合格をしてれば、櫻花ちゃんは玄滋津市を離れて都会人になる。小学校の時は2人で1セットみたいな感じだったけど、中学になって少し離れて、高校になってもっと距離が開いて、大学では僕の知らないところに行っちゃう。
「おーちゃんなら、きっと大丈夫だよ」
「尊人もね。勉強、だいぶ頑張ってたよね」
勉強は以前からやってたけど、高校3年生になって「真田さんに追い付きたい」って目標を立ててからは、それまで以上に集中できたと思っている。
「おーちゃんは小学校の先生になるんだっけ?」
「まだ決めたわけじゃないし、成れるかどうか解らないけどね」
おーちゃんはやっぱり凄い。ちゃんと将来のことを考えて大学を選んでる。
「先生になれそうなら、教育実習は私たちの母校にしたいな」
僕達は6年前まで通っていた小学校の前を通過する。小学校の頃は、ややこしいことなんて考える必要が無くて、当時の関係性が変化することなんて想像もしてなくて、大したことはしていないのに「僕は凄い人になれる」なんて希望を持っていて、些細なことで悩みまくるような余裕があって、何もかもが楽だったよね。
書いた時期は、モーソー転移Ⅲの終了から5ヶ月後。
以前はとにかく必死だった尊人が、少し冷静になって自分を見つめなおすって展開を軸にして書くことにした。
当初は、大学生になって夏休みに事件に巻き込まれる展開にしようかと思ったけど、卒業間際に変更してスタートをする。大学の夏休みの設定なら、尊人と早璃の親密度はもう少し高くなっていたと思う。




