10-1・屋上を目指せ
「富醒!アデプト!!」
由井さんの腕や肩に触れて存在感を消し、小走りで生徒玄関に向かう。
〈困ルナァ。部外者バカリ ソンナニタクサン〉
「え?この声は?」
上空から声が発せられた直後、突風が吹いて、由井さんを中心に据えた塊を煽られる!
「わわっ!」
堪えきれなくなって由井さんを掴んでいた手が離れ、尻もちを付いてしまった。
「今の声・・・ミレン?
由井さんの特殊能力が通じない?」
僕だけではない。真田さん&藤原くん&近藤くん&楠木くん&ツィホーさんも由井さんから引き離されて、存在が丸出しになっている。
「おい、なんで中に入ってるヤツがいるんだ!?」
「君達、戻りなさい!」
正門の外側で足止めをされている生徒達が僕等を指さして騒ぎ出した。生徒達を足止めしている先生やお巡りさんは驚いている。彼等から見れば、立ち入り禁止のはずの敷地内に、いきなり僕等が現れたんだから当然だろう。
「早璃っ!!」 「早璃ちゃん!」
長野さん&沼田さん&上杉さんが、真田さんを心配している。
「尊人っ!何バカなのことやってんのっ!!」
櫻花ちゃんの怒鳴り声が聞こえる。心配させてごめんね。でも、「バカなこと」なんかじゃない。おーちゃんを守りたいの。1年前みたいな、辛さと怒りが混ざったおーちゃんの顔は、もう見たくないの。
「みんな!生徒玄関に突っ走れ!!」
藤原くんからの指示が飛ぶ!
「尊人!早璃!外野の声は気にすんな!見られた程度で動揺するな!!
オマエの願いで、記憶を消すんだろ?
イキったオマエ、無様なオマエ、それで全部チャラにしろ!」
藤原くんの言う通りだ。どんな醜態を見せたとしても、ミッションをクリアして皆の記憶を消せば済む。
「今は余計なことは考えずに、戦いに集中・・・だね」
「そういうこった!」
気にならないって言えば嘘になるけど、「気にしない」で腹を括る!
「由井さんは正門の外に避難してっ!」
「ぅん!ごめんっ!」
唯一存在が消えている由井さんに指示をしてから、生徒玄関に向かって突っ走る!進行方向からゴブリン10人が押し寄せてきた!
「わぁぁぁっっっ!!」
気勢で外野の声を振り払って飛び掛かる!僕がゴブリン1人を切り倒す間に、残り9人を藤原くん&近藤くん&楠木くん、そして真田さんに良いところを見せたいツィホーさんが倒す!
「もうっ!ツィホーさんが邪魔で、あたしが活躍できないっ!」
真田さんを戦わせたくないのは僕も同じ。ツィホーさんに任せるんじゃなくて、僕が頑張って真田さんの負担をゼロにしたい。
「やっぱり、斧じゃ戦いにくい」
可能ならショートソードを獲得したいんだけど、倒されたゴブリン達の武器は小さい斧や大きいナイフばかり。
「屋上の先生たちはどうなった?」
見上げるんだけど、校舎に接近しすぎて、ここからでは屋上の手摺しか見えない。
「尊人くん!次が来たっ!!」
生徒玄関に黒い壁が立ち、中からホブゴブリン3人とゴブリンたくさんが出現して押し寄せてくる!
「今の・・・なに?」
ちょっと数が多すぎる!でも、ホブゴブリンが持っているのは剣だ!アイツの武器を強奪したい!
「面倒だ!ここは俺に任せて下がってろ!!」
「えっ!?」
楠木くんが仁王立ちから更に足を大きく開き、手を腿の上に置き、膝が90°になるくらいまで腰を下げた。
「まさかっ!みんな、楠木くんから離れて!!」
僕と真田さんは「楠木くんがなにをするつもりか?」を理解して離れようとしたけど、今回が初見の藤原くんと近藤くんとツィホーさんは理解をできずに突っ立っている。このままでは、楠木くんの攻撃に巻き込まれてしまう。
「みんなっ!楠木くんにしがみついて!!」
「なにっ!?」
「いいから早くっ!」
楠木くんが、深呼吸をしてから、体重を左足に移動させ、右足を横向けて高く上げて伸ばす。
「富醒発動!アースクエイクスタンプ!!」
みんなで楠木くんにしがみついた直後、楠木くんが“気合いを込めた四股”を踏んだ!楠木くん(僕等を含む)の周りに地震が発生して、液状化をした地面にホブゴブリン&ゴブリンの群れが、僕が欲しかった剣諸共に沈んでいく!
「おいおい・・・睦姫から聞いていたが、なんちゅーヤベー攻撃だ」
百戦錬磨の藤原くんでも度肝を抜かれたっぽい。・・・てか「大きい楠木くんにしがみつく小さい真田さん」は画的に可愛いんだけど、「大きい楠木くんにしがみつく大きい藤原くん&近藤くん&ツィホーさん」は、ある意味もっと可愛い。
「アホっ!俺等ごと地面に沈めるつもりかっ!?」
「オマエ等なら、上手く回避すると信じていたぜ!」
地面が通常に戻ったので、藤原くんが楠木くんの頭を小突いてから離れる。
「ちと厄介な状況みてーだな」
「うん。黒い壁だね」
藤原くん達もモンスター出現の違和感に気付いたみたい。ゴブリン達は「校内から出てきた」のではなく、「一瞬発生した黒い壁」から出現した。
「奥にいるアイツが出現させてんのかな?」
真田さんが指さす方向、生徒玄関の奥に漆黒のローブを着てフードで顔を隠した人が立っている。
「我が名はダークファントム」
「女か?」
「・・・てか、ダークファントムって!」
ダークファントムは異世界で戦った相手。でも、その時のダークファントムは長身の男の人=トレイトさんだった。
「どうなってるの?ダークファントムってたくさんいるの?」
真田さんに質問をされるんだけど、僕も全く同じ疑問にぶつかっているので答えられない。
「アイツ(ダークファントム)の事情を悩んでも意味が無い!
倒せば先に進めるってことでいいんじゃねーか?」
藤原くんの解りやすい提案に納得をした近藤くんと楠木くんが剣を構えた。
「部外者は不要」
ダークファントムが手を翳したら、生徒玄関に黒い壁が出現して、中から複数のゴブリン&ホブゴブリン&リザードマン&オーガが飛び出してきた!
「ちとヤベーな!」
「ああ、厄介だ!」
戦の勘が働く藤原くんや近藤くんが警戒をするレベルだ。
「先にダークファントムを倒さなきゃならないってことだね」
「そういうこったな!
良かったな、早璃。出番がありそうだぞ!」
「任せて!」
「尊人、わかってるな!?」
「うん」
明確な言葉が無くても解る。藤原くんは、僕に「真田さんを守りながら戦え」と言っている。
「オメー等はモンスターを頼む!ヤツ(ダークファントム)は俺が叩く!」
「うん!」 「了解!」 「活路をこじ開ける!」 「任せろ!」 「おう!」
藤原くんの指示で一斉に動いた!
「真田さん、もっとちゃんとした武器が欲しい!
アイツから強奪するから手伝って!」
「はいっ!」
僕は真田さんと並んで、長剣を持ったリザードマンに突進をする!




