9-4・秘密の抜け道
「ところでさ・・・どうやって学校に入ろう?」
正門は先生達とお巡りさんに封鎖されている。この状況で、正門以外はザル状態ってことはないだろう。
「なんだ、オマエ?潜入手段すら無いのにイキってんのか?」
早速、藤原くんのツッコミが入った。
「『イキって』はいないと思うけど・・・多分、入れる場所は無いよね?」
裏門やグラウンド周りのネットを潜って中に入れるとは思えない。全部、封鎖されているんだろうな。
「任せろ!」
「フミヤ、あの抜け道か?」
「部外者の助けが必要になっちまうが、
尊人の願いで記憶を消去できるなら問題は無い」
抜け道?そんな便利なのがあるの?武藤さんも知ってるっぽい。
「おい、浩二!それから、楠木!」
藤原くんが、人混みの中にいた近藤浩二くんと楠木邦彦くんを大声で呼んだ。2人とも大きいから、どこにいても直ぐに見付けられる。
「スィーツロードを使う!2人とも手を貸してくれ!」
「すぃーつろーど?」
「なにそのふーみんには似合わない可愛いネーミング?」
「説明はあとだ!いくぞ!」
藤原くんを先頭にして、近藤くん、武藤さん、楠木くん、真田さん、僕、陽ちゃんが続く。正門と接する正面通りから、十字路を曲がって側面へ。藤原くん達が立ち止まったところには、あちこちにヒビが入った4mくらいの高いブロック塀が立っている。
僕等が入学をする十数年前までは千幸高校には水泳の授業があって、散歩中の人から見られていたらしい。・・・てか、散歩のフリをした変な人が、水泳中の女子を頻繁に覗いていたらしい。その対策でプールの脇に高いブロック塀が立ったんだけど、時代の流れで水泳の授業が無くなり、プールは取り壊されてプレハブが建ち、無駄に高いブロック塀だけが残った。
「え?ここを飛び越えるの?」
僕、4mもジャンプできないよ。ハシゴある?ハシゴがあって登ったとしても、どうやって降りるの?
「こうするんだ!」
藤原くんの合図で、近藤くんと楠木くんが、ブロックの割れ目に手を突っ込んで、ブロックを丁寧に外す。あっという間に人が這って潜れるトンネルができた。
「ありゃ?なんかあるよ」
覗き込んだら、構造物があって通れそうにない。
「石像の土台だ。
校舎側から塀の穴が丸見えじゃ拙いから、土台の裏に開けたんだ」
僕等が入学をする数年前までは石像が立ってたらしいんだけど、撤去をされて、今は土台だけが残っている。
「本と読みながら歩いてるヤツの石像だ。
ニノミヤカズナリっつったっけ?」
「カズナリ?キンジロウじゃね?」
近藤くんが頓狂な説明をしてくれたので、真田さんが即座に否定をする。
「金次郎だよ。二宮尊徳のこと。
18世紀後半から19世紀に生きた思想家で、相模国で生まれて・・・」
「陽ちゃん、今はキンジロウのウンチクは要らないよ」
陽ちゃんが的確な説明をしてくれるんだけど、僕が即座に否定をする。
「コウジ!楠木!頼む!」
「おう!」×2
武藤さんに指示をされた近藤くんと楠木くんが、並んで四つん這いになって穴の向こう側に上半身を入れ、石造の土台を押す。土台はズズッズズッと50センチくらい動いて、人が通過できるスペースができた。スィーツロード、名前は可愛いけど、メッチャ脳筋仕様だ。
「すごい!でもなんで、こんなところに抜け穴を?
まさか『こんなこともあるかと思って』なんて言わないよね?」
「『こんなこともある』なんて思うわけねーだろ。
目的はアレだ」
藤原くんが指さす方向、道路の対面側にクレープの自販機がある。
「睦姫が『昼食の時にクレープを食いたい』と言ってな、
正門から抜けてここまで買いに来たんじゃ、
学校から抜けたのがセンコーに見つかっちまうだろう」
「まぁ・・・そうだね。見つかって怒られちゃうね」
「俺は『クレープくらい放課後まで我慢しろ』と言ったんだがな」
なんか、その続きの言葉に対して、嫌な・・・てかバカバカしい予感しかしない。
「次の日になったら、自販機まで最短、且つ、校舎側から見えない場所に
スィーツロードが完成していたんだ。
さすがに驚いたぞ」
藤原くんが苦笑いをしながら、近藤くんと楠木くんに視線を向ける。
「高さ4mの塀のおかげで、校舎側からは自販機が見えない!」
「盲点を突いたってわけだ!完璧だろ!」
2人が「いい仕事してるだろ」って表情でサムズアップをした。「武藤さんにクレープを食べてもらうため」よりは「こんなこともあるかと思って」って理由の方が、まだマシな気がする。楠木くんが武藤さんLOVEなのは、前に真田さんから聞いて知ってたけど、近藤くんも武藤さんが好きなのかな?武藤さん、喋る光に「お金持ちで格好いい彼氏が欲しい」をお願いするらしいけど、こんなに一途な男子が目の前にいるんだから、どっちかと付き合ってあげてもいいんじゃない?
「・・・で、どうだ?
何かさっきまでと変わったことはあるか?」
藤原くんの問いに対して、近藤くんと楠木くんは腹を括った表情で頷いた。
「ああ、思い出した」
「1年前の異世界の経験を忘れていたことをな」
先に敷地内に入った近藤くんと楠木くんの周りに光の粒子が集まってきて装備品が形作られる。近藤くんは革の胸当てと長剣、楠木くんは紅い大鎧&紅マントと幅広のロングソードを装備した。
「巻き込んですまんな。
無理強いをする気は無い」
「なに言ってやがる、フミヤ。水くせーぞ」
「はははっ!
高校生活で最後の思い出が、学校での乱闘になるとは思わなかったがな」
近藤くんと楠木くん、藤原くんを信頼して、特に何も聞かずに状況を受け入れた。楠木くんの場合は、武藤さんを信頼して・・・かな?
「尊人、早璃、俺等も行くぞ!」
「うん!」 「言われなくてもわかってるよ」
スィーツロードを通過して学校の敷地内へ。光の粒子が集まってきて鎧と武器が装着される。
「ありゃ?僕の武器、小さい斧しかない」
「尊人くんが使ってた先生の剣は、力石先生が装備してるんだろうからね」
「ああ、そっか」
「とりあえず斧で戦って、
新しい武器を現地調達(モンスターから強盗)するしかあるまい」
「うん、そうだね」
「みんな、死なない程度に頑張れよ」
「状況がヤバそうなら、僕等も参戦するからね」
「そうならないように頑張るよ」
武藤さんと陽ちゃんに見送られ、僕等は校舎に向かって駆け出す。
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尊人のクラスで男子人気が高い女子は織田櫻花と沼田縫愛と武藤睦姫と前田真央。櫻花は断トツ人気で学校のアイドル的な存在。沼田は穏やかで誰にでも優しいので、嫌う人が存在しない。優しくされて「もしかして俺が好き」と勘違いする男子が多数存在する。前田は小悪魔的に男子の恋心をくすぐる。武藤はヤンチャで姉御肌でサッパリした性格。苦手視する男子も多いが、熱狂的な推しが多い。
ちなみに男子では、藤原史弥、柴田俊一あたりがモテる。中身が無い者が虚勢を張ったり、暴力主義の者が威張っても見透かされて女子人気は低いだろうけど、藤原は中身がある人間(特にモーソーワールド経験後)なので、男女問わず人望はある。




