9-2・空の穴
学校まであと5分くらいのところ。この先、学校までは、空への視界を狭めるような大きなビルは少ない。
「なにあれ?」
陽ちゃんが「急いで学校に集合」とメッセージをくれた理由を理解した。学校の上に小っちゃい真っ黒な雲が浮かんでいる。
「雲・・・じゃないかな?」
校舎の真上。雲と呼ぶには浮かんでいる場所が低すぎる。漠然とだけど嫌な予感がしてきた。自転車に乗りながらスマホで陽ちゃんに電話をする(違反です)んだけど、通話状態にならない。
「ミコト殿!待ってくれ!!」
「ごめん、先に行くから、あとから来て!」
学校の建物を指さして目的地を伝えてから、ツィホーさんを待たずに自転車のスピードを上げる。学校前の道路まで来たら、パトカーが何台も止まっているのが見える。
「事件?何が起きてんの?」
到着をしたら、沢山の生徒が正門前で自転車を支えたまま突っ立って、校舎の上を眺めていた。お巡りさんと複数の先生が、通せんぼをして生徒達が学校に入らないようにしている。その中に比較的話しやすい先生がいたので、駆け寄って声をかける。
「龍造寺先生!あの黒いのは何なんですか?」
「解らないわ。
でもね・・・私と力石先生と蓮井先生は、急に思い出しちゃったの。
異世界に行ったことをね」
「・・・え?」
「多分、あの黒い塊の影響よ。
私達、校内にいて、黒い塊の発生に気付いたの。
その時には、異世界の記憶が戻っていたわ」
拙い。クラスメイトが学校に入って黒い塊の影響を受けたら、異世界の記憶が戻っちゃうってこと?
「・・・おーちゃん」
櫻花ちゃんには絶対に異世界のことを思い出してほしくない。どこにいる?もう来ているはずだよね?
おーちゃんは、友達の土方さんや前田さんや寺坂さんと一緒にいた。まだ学校に入ってなくて良かった。
「おーちゃん!」
「尊人、おはよっ!
あの黒いのなんだろうね?UFOかな?」
「よく解んないけど、念のために学校からもっと離れた方がいいよ」
「なんで?」
「危険かもしれないから」
「え?危険なの?尊人、あれが何か知ってるの?」
「いや・・・知らないけど・・・多分、危険だと思うから・・・」
ヤバい、どう説明しよう?正直に「異世界で経験した嫌な記憶を思い出すから」なんて言えるわけないというか、言っても信じてもらえるわけがない。
「尊人くん!」 「みこっちゃん!」
おーちゃんへの対応に悩んでいたら、真田さんと陽ちゃんが寄ってきた。おーちゃんに聞かれたくない話をしなきゃなので、「またあとで」と言っておーちゃんから離れる。
「陽ちゃん!何がどうなってんの?」
「僕にも解らないよ。みこっちゃん、異世界のマスターの夢、見た?」
「うん、見た。なんで知ってんの?」
「あたしも見たの」
「僕と武藤さんもね」
「4人が同じ夢を?」
「偶然とは思えないよね。
今朝見た夢・・・ただの深層心理じゃなくて、
異世界のマスターが何かを報せに来たのかもしれないよね」
『すまない。バグの処理に失敗をした。
現実世界に流れ出したバクを処理してもらいたい』
喋る光は、そう言っていた。
「・・・まさか」
信じたくない。深層心理が見せた夢だと思いたい。
だけど、異世界からツィホーさんが来た。異世界にしか存在しないはずのゴブリンやホブゴブリンが出現した。校舎の上に浮かんでいる黒い塊の影響で、龍造寺先生達は、失ったはずの異世界の記憶を取り戻した。そして、喋る光の言葉。
「まだ終わっていない?」
「そう思いたくはないけど・・・」
「そう考えた方が、今の状況の説明がつく」
真田さんと陽ちゃんが表情を引き攣らせながら頷く。
「きゃぁぁっ!あれはなにっ!!?」
女生徒が悲鳴を上げた。彼女が指をさしている屋上=黒い塊の真下を見たら、複数人が暴れているのが見える。
「いや・・・違う!あれはっ!!」
屋上にいるのは担任の力石先生&隣のクラスの蓮井先生と、お巡りさん数人。そしてゴブリンが数匹。異世界のことを思い出した力石先生達が、身を挺してモンスターと戦っている。
龍造寺先生が、学校から生徒を締め出している理由が理解できた。
「尊人っ!ありゃさすがにヤベーだろ!」
武藤さんが駆け寄ってきた。
「藤原くんは?まだ来てないの?」
「来てるよ!フミヤはあそこだ!」
藤原くんは正門前で怒鳴り声を上げながら押し通ろうとしている。
「通せ!力石や警官達だけでどうにもなんねーんだよっ!」
「生徒を危険な目に合わせるわけにはいかないんだ!」
パワフルな藤原くんでも、お巡りさん数人が防波堤になると押しのけるのは不可能。さすがにお巡りさんをぶん殴って突破するわけにはいかないだろうし・・・と思ったら、今にもぶん殴りそうな勢いで、お巡りさんの胸ぐらを掴んだ。
「藤原くん!他の方法を考えようよ!」
「バカふーみん!おまわりさんと戦ってどーすんの!?」
僕と真田さんで、慌ててしがみついて止める。
「チィ!しゃーねーなぁ!」
藤原くんが本気モードだったら、僕と真田さんを引き摺りながらお巡りさんを殴れちゃうんだろうけど、聞き分けてお巡りさんから手を離してくれた。
「藤原くんも喋る光の夢を?」
「ああ、見た。オマエ等もか?」
「うん」
「クソバカが俺等に面倒を押し付ける為に接触してきたってことか。
アイツ(喋る光)、どんだけ無責任で無能なんだよ」
「ここじゃ人が多くて作戦会議しにくいから、少し離れよう」
僕&真田さん&陽ちゃん&藤原くん&武藤さんは、作戦会議をする為に人混みから抜ける・・・とは言っても、空の黒い塊をどうにかする作戦?モンスターと戦う作戦?学校に潜入する作戦?喋る光を糾弾する作戦?何の作戦を会議すれば良いのかすら解らない。
〈ボクをクソバカ無能無責任扱い?聞き捨てならないね〉
何もない空中から声が聞こえた。
え~~~と、もしかして「クソバカ」「無能」「無責任」は喋る光を召喚する為の合い言葉なのかな?
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学校の正門前にいたはずなのに、真っ暗な空間に浮かんでいる。僕ら5人は「瞬く間に闇に包まれる」とかって状況ではなく、瞬く余裕も無く闇の中にいた。
〈クソバカ?無能?無責任?
まさか、ボクのことを言っているわけじゃないよね?〉
声が聞こえて目の前が発光をする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は・・・いや、多分、この場にいる5人が心の中で同時に「オメーのことだよ」とツッコミを入れたんだろうな。




