⑤激突
ゴヨクさんの馬車に隠れて北都市への逃亡をした。東都市兵達は、指名手配中の俺を、盟友のゴヨクさんが匿っているとは思わなかったようだ。
ゴヨクさんは、帰還直後に臨時の軍事会議を開く為に、騎士長&兵長クラスに緊急招集をかける。
ゴヨクさんに気に入られた俺は、一兵卒以下にもかかわらず、東都市の内情を知る者として軍事会議に呼ばれ、隊長格と肩を並べて存在感のある発言を・・・等ということは無く、一室を宛がわれて休んでいた。
ただ休むだけでは、失った仲間達のことばかり考えてしまい、気が触れてしまいそうだ。だから、魔法の本を借りて、勉強で脳を酷使することで、余計なことを考えないようにした。
「方針が決まった。この度の決起には与しない」
会議を終えたゴヨクさんが部屋に来て、決定事項を教えてくれた。
「北都市が東都市の暴走を止める」
ゴヨクさんは西都市と南都市の思想に不満を持っている。だが、政敵を追い落とす手段に戦争は使わない。東都市の武力行使は、西都市と南都市だけでなく帝都すら敵に回す危険がある。北都市は愚か者の片棒を担ぐつもりは無い。むしろ、東都市の愚行を止めることで、存在感と発言力を高める。
「君はどうする?
『方針をチヅキ隊に伝えたい』と言われても許可はできんがな」
何故、ゴヨクさんが重要な軍事方針を俺に教えてくれるのか?「重要なポストにつけるから、戦争で名を上げろ」と言いたいわけではない。
「傍観か覚悟・・・ですよね」
敗者として終わるのか、仲間達の仇を討つのか、ゴヨクさんはそれを問うている。
「参加させてください。拒否をされても付いていきます」
「ならば、これを使え」
ゴヨクさんが、鉄ごしらえの鞘に入った剣を差し出す。
「これは?」
鞘は質素だが、柄には透明な石が嵌め込まれている。恐る恐る抜刀をしてみたら、刀身には5色の石が埋め込んであった。武器というよりは美術品だ。
「君の得意とする剣と魔法の併用を手助けしてくれるだろう」
魔石の剣。刀身の5色の魔石が魔法を増幅し、且つ、柄の魔石が魔法ダメージを軽減してくれるらしい。
「いいんですか?」
軽く振ってみたら、手がこの剣を求めているかのようにシッカリと馴染んでいる。
「今は君が目的を果たすために貸すだけだ。
君が仇を討ち漏らした場合は返してもらう。
だが、達成をできたならば、その剣を自らの物とするがよい」
納刀をしてから深々と頭を下げる。
覚悟は決まった。仲間達の無念は俺が晴らす。
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東都市が隣国の南都市を攻め、同時に北都市が隣国の西都市に軍事侵攻をする。それが、アーズマからノスへの依頼だった。だが、北都市は東都市の思い通りに兵を進めるつもりはない。
チヅキ隊を含むアーズマ軍が南都市に侵攻を開始したタイミングで、北都市は東都市に派兵をして、手薄になったアーズマを瞬く間に制圧した。黒騎士団に囲まれ、ゴヨクさんに詰め寄られたクレジー公爵は、「チヅキにそそのかされた」とトカゲの尻尾切をして、アッサリと降伏をする。クレジー公爵が退位をして、息子に爵位を譲ることで、東都市内部は鎮圧をされた。
些か簡単すぎる気がするが、軍事を知らず、満足な覚悟も無い愚行の結末など、この程度らしい。
「だが、正念場はここからだ!」
東都市が手薄=大半のアーズマ兵が東都市の外にいる。つまり、千月に掌握されている。
彼らが予定通りに南都市を攻めれば、止めなかった東都市は責任を問われる。彼らが回頭をして東都市に押し寄せれば、強引な降伏を不満に思っている内部の者が呼応をしてしまう。
「チヅキ隊を含むアーズマ軍が締め出されて孤立をした状況で
瓦解をさせなければならない」
北都市軍は、ゴヨクさんと一定数の兵を東都市に残して、アーズマ軍を追った。
俺は、クロローチ旅団・ブリゴキ小隊の末席に配属された新兵として行軍をする。
「あれが・・・アーズマ軍」
彼らは回頭をしていた。東都市と南都市の中間にある南東村の手前で待ち構えていた。
「南東村を補給地にして徹底抗戦をするつもりか?」
敵軍に「降伏をすれば咎めない」と呼びかけ、敵軍からは「間隙を突いて騙し討ちにした卑怯者」と罵声を浴びせられる。
ブリゴキ小隊長が教えてくれた。士気が高い敵軍は一部だけで、大半が降伏勧告を聞いて戦意を鈍らせているらしい。
これが本物の戦争。震える手で、納刀されている魔石剣の柄を握る。「正々堂々と剣を交えましょう」のフェンシングとは世界が違う。
アーズマ軍の中央先陣が押し寄せてきた!クロローチ旅団長の号令でノス軍が動き出し、アーズマ軍と衝突する!俺が所属するブリゴキ小隊の役割は、チヅキ隊の強襲。戦況が動いて敵陣が乱れるタイミングを待つ。
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「千月っっ!!」
俺が切っ先から放った火炎が、30m程度先にいる千月を掠める。
「来武かっ!」
俺の存在に気付いた千月が剣を構えて向かって来た!俺よりも前に居たブリゴキ小隊長が千月に襲い掛かる!
「富醒発動!サウザンドワンス!!」
「ぐわぁぁっっ!」
無数の刺突でハチの巣にされたブリゴキ小隊長が弾き飛ばされた!その脇を通過して、千月に突進をする!
千月の特殊能力は、一突きで千の刺突を発生させる。正面で応じたら、回避は不可能。超攻撃型の千月らしい技だ。
「だが俺はっ!」
フェンシングの練習試合、及び、公式戦で、一度も千月に負けたことはない。
「オマエのクセを知っている!」
千月は、攻撃態勢になる直前で軸足に体重を乗せすぎる為、こちらの攻めに対する後退がワンテンポ遅い。
「富醒!マジックソード・炎!」
案の定、炎を纏った刺突に対して反応が遅れ、慌てて引いている足に体重を乗せた為、今度は剣を握っていた腕から力が逃げて切っ先がぶれる!
「くっ!富醒発動!サウザンドワンス!!ハチの巣になれっっ!!」
千月は体勢を崩しながら“一突きで千の刺突”を放つ!
「はぁぁっ!」
突きの姿勢で剣を精一杯伸ばし、切っ先で千月の剣を弾いた!基点となる一突きを見極めて弾けば、千の刺突全てが正面から逸れる!
「そこがオマエの弱点だ!」
そして、体重移動で体幹を崩した千月は、左胸がガラ空きになる。
「ぐぅぅっっ!」
魔石剣の切っ先が、千月の胸を貫いた。




