④敗走
数日後、軟禁から解放された俺は、青マントの衛兵に連れられて千月が待つ部屋に通される。同様に、後輩の男子2人と、同期の女子1人が衛兵に引っ立てられてきた。
「オマエ等も軟禁されていたのか?何をしたんだ?」
「多分、来武先輩と同じ行動です」
「来武君が行方不明になった後、横暴な千月君を諫めようとしてね」
千月は貴族のような服と豪華なマントを着て、煌びやかに飾られた椅子に座って、俺が知る千月とは別人のような顔をして、俺達を待っていた。
「放してやれ。俺の大切な仲間達だ」
俺達を拘束していた衛兵たちが手を放す。
「なんで、解放されたのが今日なのか?・・・解ってるよな?」
「・・・帰還の期限」
「その通り。偉い偉い、ちゃんと解っていたんだな」
昨日で多数決の期限が切れた。つまり俺達は、もう現実世界に帰れない。なんとなく解っていたことだが、改めて言葉による死刑宣告を受けて、ある者は項垂れ、ある者は涙ぐむ。
「オマエ等には黙っていたけどさ、実は何人も脱落してるから、
俺を除くチヅキ隊の13人が結束すれば、現実世界への帰還は可能だったんだ。
・・・まぁ、もう手遅れだけどさ」
「アンタ!・・・最低!」
同期の女子が目に涙を浮かべて千月を睨み付けた。
「既に終わったことで口論をしても意味が無いだろう。
これからどうするかを、前向きに考えようぜ」
千月は悪びれる様子も無く、不敵な笑みを浮かべる。
「お膳立ては全て終わってる。
俺さ、東都市軍のほぼ全てを掌握したんだぜ」
「何をするつもりだ?」
「東都市公爵の政敵に戦争を仕掛ける!
チヅキ隊は・・・いや、俺はモーソーワールドの歴史に名を残すんだ!」
この世界には、ゴツゴー主義とハメツ主義がある。ゴツゴー主義は、あるがままの自然体で生き、発生したことは都合が良い方向で受け止める考え方。ハメツ主義は、外地への武力遠征を強行する考え方。
現在はゴツゴー主義が主導権を握っており、ハメツ主義の東都市公爵は帝都から冷遇をされている。
「俺がこの世界の価値観を塗り替える!」
千月がやろうとしていることが理解できない。以前から承認欲求の強いタイプだったが、ここまで極端ではなかった。
「1年生達はチヅキ隊として生きることを望んだ。オマエ等はどうする?」
「1年生・・・だけ?」
この場にいる俺と千月以外の3人(3年女子1人と2年男子2人)と1年生6人以外はどうなった?まだ軟禁をされているのか?
「分からず屋3人は、俺の案に反対をしたから表舞台から退場してもらった」
「・・・退場だと?」
「ハッキリ言わなきゃ解んねーか?」
千月の冷たい笑みと黒く濁った眼を見れば解る。反対者は殺されたのだ。
「ちづきぃっっっ!!」
激怒をした後輩の男子が、横にいた衛兵から剣を奪い取った!衛兵達が飛び掛かるが瞬く間に叩き伏せ、千月に向かってて構える!
「俺は前からアンタのことが嫌いだった!」
「ああ、知ってるよ。俺もオマエが嫌いだ」
彼は2年生のエース。人望が厚く、試合では千月よりも好成績を残しており、フェンシング部の次期キャプテン候補だ。
「才能があるから飼ってやるつもりだったが・・・残念だ」
「アンタに飼われる気は無い!!」
後輩の男子が千月に飛び掛かる!千月が腰に下げた剣を抜刀して構えた!
「富醒発動!サウザンドワンス・・・はぁぁっっっ!!!」
次に瞬間、無数の切っ先が後輩男子に飛んできて、全身をハチの巣にする!彼が弾き飛ばされた床に叩きつけられた時には、既に絶命をしていた。
「やりやがったなぁぁっっ!!」
「オマエが俺を嫌いてことも知っている」
もう一人の後輩男子が剣を拾って突進をしたが結果は同じ。2つ目の遺体が転がる。
「さぁ、残ったのは3年男女子の両エース。
・・・服従か死、オマエ等はどっちを選ぶ?」
「正気か?」
「そこに転がった2つの骸を見て、まだそれを聞くか?」
同期の女子を庇うようにして立つ俺と、冷たい輝きを放つ切っ先を向ける千月。
「来武君!」
後ろにいる同期の女子に力いっぱい引っ張られた!
「戦っても勝てない!逃げようっ!」
考える余裕も無く、千月に背を向けて逃走をする!
「そいつらを取り押さえろ!」
千月が衛兵たちに指示を出した!俺は転がっている剣(後輩が使った剣)を拾って振り回し、衛兵達を退けて同期の女子と共に部屋から脱出!2階の窓を蹴破って飛び降り、町の雑踏に向かって逃げる!
「うわっ!」
急ぎすぎて周りが見えていなかった。広い道を横切ろうとしたところで、疾走する馬車の真正面に飛び出してしまう。馭者が慌てて手綱を引き、寸前で馬車は止まった。
「死にたいのか!気を付けろ!」
こちらの状況も知らずに横柄な態度を取る馭者に腹が立つ。どこの金持ちかは知らないが、間の悪い馬車を睨みつつ、小さく頭を下げて馬車の前を通過した。
「おい、君!確か、ラクヤマライブと言ったな?」
豪華な馬車の扉から顔を出したのは、知っている人だった。
「北都市のゴヨクさん?」
「事情は解らんがただ事ではなさそうだな。乗りたまえ!」
「しかしっ」
「連れの少女、その状況で連れ回すつもりか?」
ゴヨクさんの指摘で気付いた。同期の女子は顔面蒼白で、胸に傷を負い、血を滴らせていた。
「ごめん、逃げる時にしくじっちゃった」
衛兵を振り切る際に切られていたのだ。
「何故、言わなかった?」
「言ったら来武君は足を止めちゃうでしょ。だから・・・」
ゴヨクさんの厚意に甘える以外の選択肢は無さそうだ。俺達は礼を言って、馬車に乗せてもらう。
「先ずは医者だな。君等の事情を聞くのは、そのあとだ」
「ありがとうございます」
馬車は進路を変えて、病院へと向かう。
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簡素な待合室で同期女子の治療を待つ間、俺はゴヨクさんに事情を説明した。
「そういうことか。合点がいった」
東都市とゴヨクさんが統治する北都市は、どちらもハメツ主義。思想が似ており、友好関係を保っている。一方で、西都市と南都市はゴツゴー主義。こちらも手を握っている。
古の時代には、四都市は幾度となく武力衝突をしたが、帝都による平定が成されて以降、アーズマ・ノス連合、セイ・サウザン連合の対立は、政争へと変わった。
「アーズマのクレジー公爵から、信じがたい依頼が来たのだ。
『同時決起をして、ノスはセイを攻めて欲しい』とな」
驚いたゴヨクさんは、真意を確かめる為に急いで東都市に来た。そして、今に至る。
「以前からアーズマで焦臭い何かが蠢いているという噂はあった。
その中核がチヅキ隊ということか」
「アーズマの公爵の依頼を受けるんですか?」
俺は直球の質問をするのが怖くて、凄まじく遠回しな質問をした。ゴヨクさんがアーズマに呼応するなら、チヅキ隊から命を狙われた俺は、ゴヨクさんとは敵対関係になってしまう。
「安心しろ。無駄な争いで兵に血を流させるつもりは無い。
アーズマが本気で挙兵をするつもりなら、私はやめるように説得をする。
もちろん、君を青騎士団やチヅキ隊に突き出すつもりも無い」
ゴヨクさんの回答を聞いて、ようやく脱力ができた。この人は信頼して良い人だ。
「お連れの方、宜しいでしょうか」
治療室の扉が開き、同期女子の担当していた医師が顔を覗かせる。
「彼女に最後の言葉をかけてやってください」
現実世界の医学なら助かっただろう。俺は、この世界と現実世界を混在して、当たり前のように「彼女は助かる」と思っていた。
「来武君、私の仇・・・みんなの仇・・・お願い・・・ね」
よほど悔しかったのだろう。それが彼女の遺言になった。
「ああ・・・任せろ」
俺の答えを聞いた彼女は、少しだけ笑顔になり、ゆっくりと目を閉じて二度と開けることはなかった。
彼女の体が白い靄に包まれて、キラキラと輝きながら消滅していく。彼女に触れている質感が失われていく。
「ううう・・・・うわぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!」
その場で両膝を落として号泣をする。
喪失が実感となって心に突き刺さる。多くの仲間を失った。何でこんなことになった?どこでなにを間違えた?どんな選択をすれば、皆を失わずに済んだ?
何一つ答えは出ない。暗中で唯一見付けたのは「仇を討つ」という道標だけだった。
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サウザンドワンス
使用者:千月一
一突きで千の刺突を発生させる。正面で応じたら、回避は不可能。刀身を弾けば、千の刺突全てが逸れる。




