③友の野心
「こんな豪華なもん食って大丈夫なのか?」
「気にすんな。俺のおごりだ!」
東都市の中心部に近い食堂(酒場)で、俺達は現実世界でも食す機会が無さそうな御馳走を「再会の祝い」として振る舞ってもらった。
「これ、超美味いんだけど何の肉だ?牛肉っぽいけど違うよな?」
「はははっ!知らない方がいい」
些か気になるので、あとでウエイターに聞いてみよう。
「ところで、宇和木はどうしたんだろう?
千月のことだから、真っ先に合流した思っていた」
「ああ・・・心(宇和木の名)な。まだ会っていない」
「探さなくてよいのか?心配だろ?」
「ああ・・・まぁな」
恋人の名を出した途端に、それまで満面の笑みだった千月の顔が僅かに曇ったように見えた。
「そんなことより、来武たちのことを教えろよ。
今まで、どこで何をしていたんだ?」
「『そんなこと』・・・か?」
若干の違和感はあったが、俺はここに至るまでの、約50日間の経緯を説明する。
「そっか。来武は北都市にスカウトされたのか。
俺も似たようなもんだ」
千月は特殊能力を買われて、東都市の青騎士団にスカウトされたらしい。
「知っているか?ハメツ主義とゴツゴー主義ってのがあってな・・・」
この世界には、ゴツゴー主義とハメツ主義がある。ゴツゴー主義は、あるがままの自然体で生き、発生したことは都合が良い方向で受け止める考え方。ハメツ主義は、外地への武力遠征を強行する考え方。
「要は“ことなかれ主義”と“実力主義”だ。来武はどっち派だ?」
「思想が極端すぎてワケが解らん。急に2択を迫られても答えようがない」
会話の内容は千月の武勇伝に変わるのだが、いつものことなので仲間達と目を合わせて「相変わらずだな」と苦笑いをする程度で、特に気にせずに聞く。
「その後、モンスター討伐の為の遠征先で他の連中と合流してな。
今じゃ、サファイ騎士団所属の特殊部隊・チヅキ隊だ」
「へぇ・・・大したもんだな」
「この世界、来た直後は焦ったけど、俺には合っているみたいだな」
想定外の言葉だった。
「おいおい、まさか永住する気か?」
肯定はありえないと信じて、確認をする。
「はははっ!さすがにそれは無い。
もちろん、『現実世界に帰りたい』だ」
「それを聞いて安心したぞ」
「だけどさ、この世界も悪くないから、もうしばらくは楽しみたいんだ。
与えられた特殊能力を有効活用すれば、偉人扱いだぞ。
こんな経験、現実世界じゃできないからな」
一理ある。確かに、俺達は現実世界ではできない貴重な経験をしている。
「だからさ、もうしばらくは楽しまないか?
転移して50日くらいは経過しているから、あと100日くらいな」
「承知した。
ただし、いつでも帰還できるように、過半数は集めておこう」
「ああ、もちろんだ。情報収取をしておく」
「宇和木の所在地が解ったら、真っ先に迎えに行ってやれよ」
「・・・ああ、そうだな」
千月の反応が悪い。そう言えば、転移直前に喧嘩をしていたんだっけ?それで遠ざけている?
「宇和木のこと、ちゃんと心配してやれよな。
きっとオマエに会いたがってるぞ」
これまでの俺は比較的仲間に恵まれ、トロール戦以外では大きな危機を感じていなかった。だから、この世界が俺の思う以上に過酷で、既に何人かが脱落者をしてしまったことなど、想像をしていなかった。そして、その脱落者の中に、千月の恋人・宇和木心が含まれていることも。
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チヅキ隊(畔木西高フェンシング部)は近隣のモンスターや野党討伐に留まらず、外地遠征でも期待以上の成果を上げた。仲間内だけで始まったチームだが、一般兵や青騎士からチヅキ隊への転属を希望する者が増え、200人を超える大所帯となる。
やがて、噂を聞いた後輩の女子と後輩マネージャーが合流をしてきた。
「楽山先輩、ちょっといいですか?」
「ん?どうした?」
「千月先輩、ちょっとヤバいかも。
楽山先輩がいなかったら合流しなかったかもしれません」
後輩マネージャーは人の感情を色で確認する特殊能力を持っていた。彼女曰く、俺を含めた皆が「白」または「若干黒が混ざった白」なのだが、千月は「どす黒い」らしい。
「お気楽な俺達とは違って、アイツは千月隊のトップだからな」
千月は野心家の一面がある。リーダーとしての気苦労も多いだろう。「どす黒い」が何を示すのかハッキリとは解らないが、俺達と同レベルではいられないのだ。
「色々と苦労してるんだろう」
千月の立場は理解をしているつもりだ。しかし、いつまで経っても宇和木の所在が解らないのに、少しも焦りを見せないことには違和感があった。
「俺達、現実世界に帰れるんですよね?
このまま、この世界でチヅキ隊として生きるってオチはないですよね?」
「それは無いだろう」
後輩男子の不安を一蹴したものの、少し不安になる。そろそろ、現実世界への帰還を考える時期なのに、千月は中隊長扱いをされて、「この世界こそが自分の居場所」と言わんばかりに活き活きとしている。
「まさか・・・な」
優先事項を忘れるってことは無いだろうが、念の為に釘を刺しておくべきか。俺は千月を呼び出した。
「忙しそうだな」
「ああ、あれこれと押し付けられて忙しい。何の用だ?」
「すまんな。手短に話す」
チヅキ隊に所属する転移者は14人。あと一人合流すれば、いつでも“過半数獲得”で現実世界に戻れるようになる。早急にあと一人を集めて、安全圏を整えておくべきだろう。
「その後、部員達の情報は無いのか?」
「モーソーワールドは広いからな。なかなか有益な情報が集まらない」
「なら、俺も調査をする」
「なんで来武がそんなことを?」
「俺は顔を知っているからな。
調査隊には気付けなくても、俺なら気付けることもあるだろう」
「おいおい、俺の調査を信用していないのか?」
気のせいだろうか?俺を見る千月の眼が黒く濁ったように感じた。
「もちろん信用している・・・が」
「『しているが』なんだよ?」
今の俺達・・・特に千月は、東都市の民から崇拝をされている。悪い気はしないが、それは異世界にいる間だけ。現実世界に帰還をすれば“ただの高校生”にに戻るのだから、「特別な自分」という状況に慣れるべきではない。
「千月らしくないぞ!宇和木を探そう!それで過半数になる!」
「宇和木・・・宇和木・・・宇和木うわきウワキ!
オマエ、なんかあればそれだな!」
「仲間を心配するのは当然だろう!」
「だったら教えてやるよ。心は死んだ」
「・・・なに?」
「オマエ等を動揺させたくないから黙っていたんだがな、
心は転移直後に脱落をした」
驚愕で言葉が出なかった。この世界は「死」が真横にある世界。何故、千月は「恋人の死」を平然と受け入れている?
「おい、衛兵!
来武に反逆の疑いがある!捕らえて、軟禁しろ!」
「おい、千月!」
「他の連中を動揺させたくないからな。しばらくは拘束させてもらう」
「待ってくれ、千月!」
青マントの衛兵達がなだれ込んできて、俺は瞬く間に拘束されてしまった。
「悪く思うな、来武。
いや、不用意に踏み込んできたオマエが悪い・・・と言うべきかな」
出歩けない以外の不自由はなかったが、俺は一室に軟禁をされた。千月以外の仲間達からは、「急に俺が行方不明になった」と思われるのだろうな。
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