⑥ブラーク・ライサン
「以前から『そのクセを直せ』と言っていたのに・・・最後まで直らなかったな」
「う・・・うるせーよ」
致命傷を受けた千月が、震えながら胸に刺さった剣を抜き、仰向けに倒れる。
「何故、こんな愚行を?」
「な・・・なんでだろうな?
最初は、来武に勝ちたいって気持ちだけだったのにな・・・
いつの間にか、止まれなくなっていた」
「俺に勝ちたい?・・・たったそれだけの理由?」
「多分・・・心(宇和木の名)を手にかけちまってから・・・」
大会遠征の数日前、千月は宇和木から別れ話をされ、拒否をしたら「強い人が好き」「大会で来武君に勝て」「それが交際を続けてあげる条件」と言われた。
「ヒドイよな。俺、一回もオマエに勝ててないのにさ」
転移をした直後、千月は最優先で宇和木を探した。千月の転移場所からほど近い南東村に宇和木は居た。
「死に物狂いで見つけたのにさ・・・
アイツ、男をはべらして逆ハーレムを楽しんでいたんだ」
宇和木は千月に言った。「この世界は最高。私はこの世界を楽しむから、過半数が集まったら呼びに来い」と。
「俺なりに尽くしたのにさ・・・全然解ってもらえない。
なんで、あんな女を好きになっちゃったんだろ?」
蔑ろにされた千月は、気が付いた時には、命乞いをする宇和木に向けて剣を振り上げていた。そして、振り下ろす狂剣を止めようともしなかった。
「そっからはもう・・・自分が落ちていくのが止められなかった」
練習をサボり癖のある同期は、特殊能力を見せびらかして英雄気取りをしていた。
「何もしない底辺のクセして力を得た途端にイキってんだ。ムカつくだろ」
普段から生意気だった2年生の男子は、居丈高な態度で「義理でキャプテンになれた千月先輩には従わない」と言った。
「カスほど、本来の自分を忘れて、この世界に溺れ、
特別なデビューをしたつもりになる」
攻撃性を止められなくなっていた千月は、どちらも脱落させた。その過程で、自分の特殊能力の圧倒的な強さを理解した。
「いつの間にか、俺自身がこの世界に溺れるカスになって・・・
本来の俺らしさは『来武に勝ちたい』だけになっていた」
千月の体が白い靄に包まれる。終わりの時が来たようだ。
「同情はする。だが、俺にはオマエの行動は理解できない」
「理解してもらえるとは思ってねーよ」
千月の体はキラキラと輝きながら消滅していった。
「慢心をすれば、この世界に溺れ、自分を見失う・・・か」
生温い世界ゆえに、自分自身で律しなければ止まる手段が無い。
空を見詰め、失われた友人たちに「俺は暴走をしない」と誓う。
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チヅキ隊壊滅の情報が戦場全体に伝達され、アーズマ軍は急激に戦意を喪失させ、降伏が連鎖をした。
この度の軍事行動は「チヅキ隊の乱」とされ、同調をしたクルテ・クレジー公爵には退位以上の追及が無く、チヅキ隊だけが悪と位置付けられた。
「罪を減じてやれなくてすまんな」
「いえ、戦死や処刑されずに済むだけでもありがたいです」
「達者でな」
「先輩もお元気で」
千月に与した1年生達は、東都市にいたら混乱の首謀者一党にされてしまう為、アーズマの支配外へと逃がした。
もっと力があれば、彼らを「お咎め無し」にしてやれたのだろうが、小隊末席の新兵扱いの俺では、戦後処理の混乱に乗じて逃がすのが精いっぱいだった。
「君なりの戦後処理は終わったか?」
「はい。終わりました」
後輩達を見送った直後に、ゴヨクさんから声をかけられる。ゴヨクさんが目をつぶってくれなければ、彼等を逃がすことはできなかっただろう。
「・・・で、これからどうする?」
やがて、俺達と同じような転移者が、この世界を訪れるのだろうか。その時に俺はどうする?無関係を決め込んで見ぬふりをする?・・・いや、ゴヨクさんが俺を救ってくれたように、今度は俺が導きたい。
「この戦で、優秀なブリゴキ小隊長を失ってしまった。
優秀な人材を補充したい。
乱鎮圧の決定打となった勇者が加わってくれると嬉しいのだがな」
俺の答えは既に決まっている。自由に動き回れる冒険者も悪くはないが、情報を得やすい立場の方が良い。一定の権力も必要だ。恩を返しながら、後続の転移者達の保護と後見をする。
「転移者の楽山来武は“チヅキ隊の乱”の後に消息を絶ちました」
「・・・ん?」
ゴヨク公爵の前で、片膝をつき、魔石剣を地面に置いて、頭を下げる。
「俺はモーソー人のブラーク・ライサン。
北都市軍の末席で禄を食む者です。以後、お見知りおきを」
希望通りの昇進をできるか、末席のままで終わるかは解らない。だが俺は、ゴヨク・ゴククア公爵の元で、自分の可能性を確かめたい。
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あれから、現実世界では何年が経過をしたのだろう?当初は「下手なりに保護をする」だったが、それなりの経験を重ねて「一定の後見」をする自信はついていた。
「転移者か?助けてやれなくてすまない」
外地探索の帰路で、原形を失った少女を発見する。
「声がする?生き残りか?」
泣き声が聞こえなくなった。息絶えたのか?乗っている馬に「急げ」と催促をして、声の聞こえた方へ向かう。
半壊した小屋の脇で、少年が仰向けに倒れていた。
「生きているのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「その見慣れぬ服装・・・秘境者か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「怪我をして動けないのか?」
起き上がった少年が振り返る。まだ汚れを知らない澄んだ目をしている。
俺のように笑顔を失ってほしくない。旧友のように濁った眼に変貌してほしくない。その為に俺は、彼を保護する。
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「ブラークさん・・・トモのこと、お願いします」
「ああ、任せろ」
源尊人。何人かの転移者を後見したが、彼ほど俺に関わった転移者はいなかった・・・いや、縁が重なり、放置をできず、俺が関わり続けたというべきか?
「おい、ブラークっ!!
何があったのかは知らねーけど、
私達より大人のクセして、終わったことでウジウジしてんなっ!
いつまでも無愛想なんてしてんなっ!
ちゃんと背負って、・・・それから、前を見て笑え!」
そして、武藤睦姫。俺に踏み込んできた物好きな少女としか表現のしようがない。
彼女からダメ出しをされるほど無愛想なのだろうか?腹の底から笑うことはなくなったが、面白い出来事に対して、笑顔くらいは見せているつもりだ。
「・・・前を見ろ・・・か。
勝手なことを言ってくれる」
彼等を見送ったのち、魔石剣を1/3ほど鞘から抜いて、刀身に移った自分を見つめる。
「なんだオマエ、ニヤニヤして気持ち悪いな。
いつもはすまし顔を崩さないくせして、
一人でいる時は、鏡の中の自分に見惚れるナルシストだったのか?」
最悪のタイミングでチートが起き上がりやがった。一瞬、口封じをしたくなったが、尊人から「お願いします」と託されているので、我慢をする。
モーソー転移はⅢで完結。ブラークは尊人が憧れ、尊人を戦士へと導く存在であり、作中でブラークの過去を描く気は無かった。だけど、続編を書くことを決め、ブラークにはⅢまでとは別角度でスポットを当てたくなる。
武藤がブラークの過去に踏み込もうとしたのは、ブラークに過去を思い出させて回想話を作るため。転移者5人の中で活躍度が低い武藤に存在感を作る為に、何となく好意と興味を持つ展開にした。まぁ、武藤ならベタベタな恋愛展開やシリアスな追及にはならないだろうし。
ブラークのストーリーで、ポイントになるのは、「何故、黒騎士団に所属をしているのか」「ノス公への忠誠心」と、Ⅲで書かれた「意に反して戦争に巻き込まれ、多くの仲間を失い、その結果『北の勇者』という不要な称号を得てしまった」という情報。「戦争」なんだから強い魔物の討伐ではなく人間同士の争い、「北の勇者」なんだから活躍は必須。先のことを考えずに書いた「戦争に巻き込まれ」と「北の勇者」という縛りに苦しめられた。尊人と智人の争いとは別ベクトルにしたかったけど、決められたプロットを辿った結果、似た方向になってしまったのも少々残念だった。
2~3話程度で終わらせたかったけど、描かなければならない要素が多すぎて、長尺に至る。
千月の闇落ち過程をもう少しシッカリと描きたかったけど、ただでさえ想定より長尺だし、ブラークの視点なんだから千月への感情移入は不要と考えて、手短な言い訳だけで終わらせた。
②で登場した白髭の黒騎士は、Ⅱ-23-1でブラークが会話をしていた白髭の黒騎士と同一人物で名はカファー。ブラークが一定の成長を遂げた時点で公爵護衛の任を交代して表舞台から退き、北都市で若い騎士の指導をしている。
甘ちゃんでボンボンの尊人視点とは違って、ブラーク視点はややシリアス。なかなか雰囲気に慣れず、タイピングに手間取った。




