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①異世界へ

「ブラークさん・・・トモのこと、お願いします」

「ああ、任せろ」

「おい、ブラークっ!!

 何があったのかは知らねーけど、

 私達より大人のクセして、終わったことでウジウジしてんなっ!

 いつまでも無愛想なんてしてんなっ!

 ちゃんと背負って、・・・それから、前を見て笑え!」


 転移者達は現実世界に慌ただしく帰還をした。ミコトは過去の友人を俺に託し、ムツキは一方的な要望を押し付けて・・・。


「・・・前を見ろ・・・か。

 勝手なことを言ってくれる」


 俺なりに、前を見ているつもりなのだが、ムツキの視点では足りないらしい。確かに俺は、腹の底から笑うことがなくなった。・・・あの日以降は。


・

・

・


 畔木(くろき)西高校のフェンシング部は、夏の大会で地方遠征をする為、顧問が運転するバスで県外の会場に向かっていた。

 県内では本腰を入れてフェンシングをする高校が少ない為、地方大会までは比較的簡単に進出できた。ここからが真価を測る本番になる。


「来武(らいぶ)!お菓子たべる?」

「おっ!サンキュー!」


 前の席に座っていたマネージャーの宇和木(うわき)が、立ち上がって振り返り、顔をのぞかせながらチョコを差し出したので、1ついただいて口の中に放り込む。彼女はキャプテンと交際をしているのだが、彼氏贔屓はせず誰にでも優しい。


「来武、頑張ってね!」


 部員は総勢26人。選手は3年生6人(男子4・女子2)、2年生が6人(男子3・女子3)、1年生が9人(男子4・女子5)で、マネージャー(全て女子)が3年1人(宇和木)、2年1人、1年3人。

 俺は「部内では一番強い」と言う理由で皆から推薦され、ガラではないのだが副部長をしている。

 

「絶対に全国大会進出だよ!」

「ああ、そのつもりだ」 


 学校対抗(団体戦)で全国大会に進出するのは少々厳しいが、俺がいつも通りの調子を発揮できれば、個人戦では全国進出を狙える。


「来武と一(はじめ)の両方とも勝ち上がってさ、同校対決しなよ」


 一(はじめ)とは、キャプテンで、宇和木と交際をしている千月一(ちづき はじめ)のこと。 


「ん?急になんだ?」

「そーゆーの見たいな~って思ってさ」


 後の席に座っていたキャプテンの千月が、席から身を乗り出して、俺の肩をポンポンと叩く。


「勝つのは、当然、俺だけどな」


 千月が会話に割り込んできた途端に、宇和木はそっぽを向いて座席に座った。


「ん?オマエ等、また喧嘩中か?」

「喧嘩ってほどじゃねーよ」

「まぁ、どうせ、いつの間にか仲直りしてんだろうけどな」

「そんなことよりさ、同校対決して盛り上がろうぜ」


 宇和木が提案して千月が乗ってきた「畔木西高キャプテンvs副キャプテン」は面白そうだ。


「悪いけど負けねーよ!」


 俺はサムズアップで千月の挑戦状を受け入れる。


「彼女が見てるからって、大事な大会で千月に勝ちを譲る気はないかならな」

「実力でオマエの勝って、心(宇和木)にどっちが強いか証明してやるよ」


 元々は「剣を振るのが格好いい」程度の理由で入部をしたのだが、思いがけずに俺に適したスポーツだった。高校最後の夏、俺はフェンシングで完全燃焼をするつもりだ。


・

・

・


 突然の轟音と衝撃。落石事故によってバスは潰れたという認識も無く・・・


 俺は真っ暗な空間に浮かんでいた。背後から光に照らされて声が聞こえる。


〈今のキミは仮死状態になっている

 今からキミはモーソーワールドに転移をする〉


 モーソーワールド。ゲームや映画でしか見たような世界。最初は、いまわの際の夢だと思っていた。


「人里か?助かった!」


 転移した場所から5キロ程度歩いたところに村があった。ミナーシャという村だ。

 行動の拠点に決めた南西村(ミナーシャ)で、 転移者は秘境(ヒキョー)者と呼ばれていることを知る。


 状況把握ができないなりに、生き残ることを最優先に考えた。

 初期装備として支給された剣を売り、使いやすい剣を手にした。


「富醒!マジックソード!!」


 転移時に富醒と言う名の特殊能力を獲得したのだが、切っ先に見えない小さな力が灯る程度で、たいした火力にはならない。魔法と併用しなければ真価を発揮できないと知り、俺は宿場に住む老人から基礎魔法を学んだ。


「俺が先日まで滞在していた都市に、君のように特殊な技を使う者がいたな」


 ホブゴブリンを倒せるようになった頃、南西村(ミナーシャ)に立ち寄った冒険者から「この世界の人間とは違う戦闘技術を持つ者」の噂を聞いた。


「西高の仲間かも!」


 居ても立ってもいられなくなり、翌日の朝にはミナーシャを発つ。


「来武先輩!」

「無事だったんだな!」

「おお、オマエ等か!会えて嬉しいぞ!」


 西都市(セイ)で、同期の男子1人&後輩の男子1人と合流をする。見知らぬ世界で緊張の連続だったが、知っている顔と出会えた安心感からか、話ながら久しぶりに笑った。


「転移をしたのは、部員26人と先生2人の計28人。

 過半数を『現実に帰りたい』で纏めればいいんだよな?」

「現実世界に帰りたくない人なんていますかね?」

「いるわけないだろ」

「期限は200日でしたよね」

「それほど広い世界ではなさそうだ。

 それだけの日数があれば、なんとかなるだろう」


 15人を集めれば現実世界に帰れる。ただし、仲間を探して動き回る為には、モンスターを蹴散らす力が必要。旅費も必要。だから、しばらくは、冒険者ギルドでクエストを受注して、稼ぎながら戦闘能力を高める。

 現時点で30日程度は経過したが、仮にあと70日を冒険者として過ごしても、残り100日あれば15人くらいは集められるだろう。当時の俺達は気楽に考えていた。


「登録名はどうする?」

「来武(らいぶ)先輩の名前にしますか?」

「それは恥ずかしい。パーティー名を考えよう」


 パーティーを組んでクエストを受注する場合、冒険者ギルドに代表者名かパーティー名を登録しなければならない。俺達は“畔木(くろき)西高フェンシング部”で登録をした。気の利いたネーミングを思い付けないほど想像力が欠落をしているわけではない。この名にすることで、噂を聞いた仲間達が集まってくれることを期待したのだ。


「生きて会えた~~!」

「来武君がいれば安心だね」


 解りやすすぎるパーティー名のおかげで同期の女子1人と後輩のマネージャーが合流をして、俺達は5人パーティーになった。尤も、再会直後に「パーティー名がダサすぎる」と言われたがな。


・

・

・

マジックソード

使用者:楽山来武

 剣に魔法を纏わせて放つことができる。同じ威力の魔法なら、素手や魔法の杖から発するよりも破壊力が高い。熟練度が上がると威力が増す。

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