8-5・帰還と難題
「なんで、こんな急に?」
〈今回のキミ達の転移は、正規ルートではない。
バグを排除する為のキミ達がバグの原因になりかねない存在だからね。
目的達成と同時に、モーソーワールドから排除させてもらうよ〉
だからって・・・成功の余韻も味合わせてもらえないの?
〈カレ(トモ)の想定外な行動が原因で発生した小さな穴はこれで収まるだろう。
全ての不具合解消を確認したら、報酬を渡す為にキミ達のところに顔を出す〉
トモに触れて体温を確認したいのに、擦り抜けてしまって掴めない。ブラークさんともっと話したいのに、その時間すらない。
「ブラークさん・・・トモのこと、お願いします」
もう時間が無いので、トモのことをブラークさんに託す。ブラークさんは僕等の状況を理解したらしく、頷いて応じてくれた。
「おい、ブラークっ!!」
武藤さんが、白い靄の向こう側にいるブラークさんを睨みつけた。
「現実世界に帰ったら、アンタの見舞いに行ってやる!」
本気でお見舞いに行くつもりだったんだ?
「そん時に、今と同じ無愛想なすまし顔をしてやがったら、
デコピンしてやっから覚えとけよ!」
そりゃ無茶だ武藤さん。現実世界のブラークさんは昏睡状態なんだから、無愛想以外の顔なんてできないよ。
「だから・・何があったのかは知らねーけど、
私達より大人のクセして、終わったことでウジウジしてんなっ!
いつまでも無愛想なんてしてんなっ!
ちゃんと背負って、・・・それから、前を見て笑え!」
武藤さんの言い分、理屈は通ってなくて感情論に近いんだけど、何となく理解をできた。僕だってブラークさんには“優しく微笑む”だけじゃなくて“ちゃんと楽しそうに笑って”ほしい。
「ブラークさん・・・僕も、会いに行きますから」
転移をした仲間たち以外がホワイトアウトの中に消え・・・僕等は、智人の家の近所にある公園に立っていた。転移前に居た場所だ。
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「戻ってきた・・・のかな?」
スマホで時間を確認したら、転移前と同じ日の同じ時刻だった。
「ちゃんと戻ってきたみたいだね」
真田さん、陽ちゃん、藤原くん、武藤さん、ツィホーさん、誰一人「やり切った」表情はしていない。ミッションは無事にクリアできたんだけど、みんな「納得していない」って表情をしている。
そりゃそうだよね。打ち上げパーティーなんて要らないけどさ、成功の労をねぎらいあったり、ハイタッチでお祝いしたり、せめてそれくらいはしたかった。智人が目を覚ますまでは滞在したかった。異世界は嫌いだけど、終わった途端に問答無用で帰還させられちゃうのは寂しいよ。
「なんか疲れちゃったね」
真田さんがポツリとつぶやく。
「うん、上げっぱなしだったテンションが急に切れたからな」
武藤さんが寂しそうに同意をする。
「帰って寝るか」
藤原くんの提案に皆が頷く。
「そう言えば、数日中に達成報酬をもらえるんだっけ?
何が良いんだろ?明日、皆で相談しようか」
陽ちゃんが言った通り、ミッションクリアの報酬として、喋る光から願いを叶えてもらえる。僕等5人、一人一つずつ獲得できるんだから、わざわざ相談する必要なんて無い。でも、気持ちはわかる。
「そうだね。また明日・・・集まろう」
僕等には理解できない様々な事情があるんだろうけど、強制帰還が不満すぎる。皆が疲れ切っているけど、皆が話し足りない。
「9時、駅前のファーストフードでいいかな?」
今日は帰って、ゆっくりと体を休めながら脳内で不満を整理整頓して、明日の朝から愚痴大会をする。
「うん」 「そうしよう」 「9時な」 「異議なし」
現在地からだと、僕&陽ちゃんと、真田さん&藤原くん&武藤さんは、逆方向に帰ることになる。まぁ、陽ちゃんと智人は中学区が同じだから、直ぐにバイバイになっちゃうけどね。
今くらいの時間帯だと、いつもなら真田さんの近所まで送ってから帰るんだけど、今日は真田さんの近所に住んでる藤原くんがいるから大丈夫かな?
「じゃ、また明日」
「うん」
「お疲れ様」
「オマエ等、寝坊すんなよ」
「オメー(睦姫)が一番怪しいだろ」
「あの・・・・・俺はどうすれば良い?」
「ん?」×5
解散直前だった僕達5人は“6人目”の声で一斉に振り返る。
「俺の宿は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ツ、ツィホーさん」
疲れすぎてスッカリ忘れてたというか、存在感が薄すぎて気にしていなかったんだけど、ツィホーさんがいた。
「なんで、まだツィホーさんがいるの?」
異世界から帰還したの、僕等5人だけだったじゃん。いや、待てよ、あの時点で既にツィホーさんは戦線離脱していたよね。
「もしかして“死に戻り”しちゃった?」
死に戻りとは、ゲームで死亡して、スタート地点、または、セーブ地点まで強制送還されること。ゲームはあんまりしない僕だけど、それくらいの専門用語は知っている。
「よく解らぬが、気が付いたらここにいた。
ダークファントムとの戦でブラックホール弾を返されて、
飲み込またところまでは覚えているのだがな」
「・・・うわぁ」
思い出した。外地遠征の初期だ。
ミッションクリアまで一緒に居れば、そのまま異世界に残れたかもしれないのに、真っ先に脱落したからリセット機能が働いちゃったんだ?
さすがに、真田さんや武藤さんの家に泊まってもらうって選択肢はない。ビジネスホテルに泊まってもらうにしても、ツィホーさんは日本のお金なんて持ってないから僕等が出さなきゃならない。1日くらいならともかく、何日も宿泊費を提供する余裕なんて無い。
「最初はぐー!ジャンケン、ぽん!」
「・・・チィっ!」
2勝抜けのジャンケン勝負で、藤原くんが負けた。
「藤原くん、ごめんけどお願いね」
「明日は、オメー等のどっちかだからな!」
「明日は明日で改めて3人でジャンケンでしょ」
ツィホーさんを「親と喧嘩して家出をしたクラスメイト」ってことにして、とりあえず今日は、藤原くんに押し付けることになりました。
尊人以外で、早璃&吉見&藤原&武藤が記憶を残すことは、モーソー転移タイピングのかなり早い時点で決まっていた。だけど、追加ストーリーを描く気は全く無くて、吉見以外は「記憶が残ってるかも」程度の匂わせで終わらせるつもりだった。
追加ストーリーを書くにあたり、慣れない非日常に戸惑う展開は、もう要らない。記憶を残した5人をメインにするのが、言うまでも一番テンポ良く進められる。キャラの性格的にはダウナー系のの尊人と吉見、アッパー系の藤原と武藤、中間の早璃、バランスは良い。肉体労働系が少ないけど、現地で調達をすれば済む。
若干失敗したかな?と思うのは、会話のテンポを上げるキャラがいないこと。Ⅲまでは早璃が担っていたけど、1年が経過して尊人との関係性が落ち着いているので、言動も以前よりは落ち着いている。由井が混ざっていたら会話のテンポは上がったと思う。進展が遅い尊人と早璃を茶化して、早璃のテンションを煽っただろうな。由井の記憶も残しておくべきだった。でも、今更なので、由井には頼らずにストーリーを組み立てるしかない。




