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8-4・ミレン

 改めて“外側”との境界から20mくらい離れて、改めてスタンディングスタートの姿勢になり、改めて心の中で「位置について、よーい」と叫ぶ。


「わぁぁっっっ!」


 気合を発し、智人(トモ)に向かってスタート!真っ暗闇の中に飛び込んだ!


「トモっっ!!」


 浮遊を感じながらトモを掴んで、力いっぱい引き寄せる。僕にできるのはここまで。あとは、仲間達がロープを引っ張って“内側”に戻してくれることを信じるのみ。


〈今回ハ ユックリ話セソウダネ〉

「声?」


 意識が朦朧として何も見えなくなる。


・

・

・


 トモを掴んで感覚が無い。トモの姿が見えない。


「トモっ!どこっ!?」


 トモの救出に失敗した?


「君ハ チャント彼ヲ掴ンデイルカラ 安心シテ良イヨ」

「また、声?」


 見廻したら、真っ暗な中にたくさんの目が浮かんで僕を見ている。現実世界でこんな状況になったら怖いけど、ここは異世界なんだから落ち着いて受け入れる。でも、やっぱりちょっと気持ち悪い。


「僕ハネ。君ノ内側二 直接話シ掛ケテイルンダヨ」


 たくさんある目のうちの一組が、真っ黒な人型を形作って近付いてきた。


「僕の内側?・・・君は?」

「僕ハ君ノ近ク二存在スル者。

 ダケド君二背ヲ向ケラレテイル者」


 前に僕に話しかけてきたのと同じ声だ。


「僕が背を向けている?」

「抽象的ナ表現ジャ解ラナイヨネ。

 ウーン・・・名無シジャ不便ダカラ 今ハ“ミレン”ト名乗ッテオクヨ」

「・・・ミレン・・・さん?」

「知ラナイ仲ジャナインダカラ 呼ビ捨テデ良イヨ」


 僕の近くにいるって説明されたけど、「ミレン」なんて名前には覚えが無い。


「コレ、面白イヨネ。続キ書イテヨ」


 真っ黒な人型が、いつの間にか手に持っていたノートを僕の方に向けた。見覚えのあるノート。表紙には、丸シールを6つ並べて貼られている。


「え?そのノートって?なんで君が?」

「トテモ大切ナ物ダカラ」

「よく解んない。なんなの?君はいったい?・・・いや、君達は何者?」

「僕ハ本来ノ君ト同ジ側ノ人ダヨ」

「同じ側?」

「前ニモ言ッタヨネ。君ハ コッチノ人」

「・・・意味が解らない。僕になんの用があるの?」

「要件ハネ、本来ノ君ヲ思イ出シテホシイ・・・カナ」


 本来の僕?僕は“選ばれし子”で、実は凄い能力を持っていて、世界の危機を救う的な?


「そんなイタイ話はありえないでしょ。からかってるの?」


 中学時代ならともかく、高校生になってまで「僕だけに都合の良い世界の話」なんて信じないよ。


「カラカッテナイヨ。

 櫻花(おー)チャン、諦メルノ?」

「はぁ?」

「小ッチャイ頃カラ一緒デ、ズット好キナノニサ。

 諦メテ 違ウ子ニスルノ?」

「ちょっと待ってよ!」


 ずっと櫻花(おー)ちゃんに片思いをしていたのは事実だけど、諦めたから真田さんを好きになったわけではない。


「ホントニ ソウナノ?

 目ヲ背ケテルダケジャナイノ?」


 今、僕は言葉にしていない。心で思っただけ。気持ちを読まれた?ミレンって人、気持ち悪い。


「背けるって何から?」

「君ノ記憶ニハ残ッテルコトデ、櫻花(おー)チャンノ記憶カラ消シタコト」


 櫻花(おー)ちゃんは、1年前のモーソーワールドで、心に傷を負った。そしてそれは、僕が「勝者が叶えられる願い」で記憶から消した。


「なんで君が知ってるの?」

「僕ハ君ノコトナラ何デモ知ッテル。

 向キ合エナイカラ 諦メルフリヲシテ 遠ザケタンデショ」


 そんなつもりは無い。でも、「向き合えているか?」と聞かれると、肯定はできない。


「違う!違う!違う違う違う!僕はっっ!!」

 

 櫻花(おー)ちゃんを諦めて真田さんにしたわけではない。そんな失礼な気持ちで真田さんと向き合ってるわけがない。櫻花(おー)ちゃんに背を向けるなんてありえない。・・・そのつもりなんだけど、ワケが解らなくなってきた。


「慌テナクテモイイヨ」


 ミレンの手が伸びてきた。僕の胸のど真ん中を通り抜けて、体の中にある“何か”を掴まれる。


「君ガ背ヲ向ケテイル本音ハ チャント ココニ有ルカラ」


 ミレンが外側に手を戻す。ミレンに掴まれた白いモヤモヤが、僕の体から引っ張り出される。


・

・

・


「わぁぁぁぁっっっ!!」

「尊人くん!」 「尊人!」

「・・・・・・ん?」


 目を開けたら、真田さんと藤原くんが僕の顔を覗き込んでいた。


「・・・あれ?」


 周りは明るくて、僕は地面で仰向けになっている。慌てて胸を触ったけど、特に異常は無い。


「ミレンは?」

「みれん?なにそれ?」

「真っ黒くて馴れ馴れしい人」

「尊人くん、夢でも見ていたの?」

「・・・・・・・・・・・・」

「オマエがチートを掴んで、俺等がロープで引っ張って・・・

 それは覚えてるか?」

「トモ?」


 思い出した。智人(トモ)の救出をしてたんだっけ?気絶して失敗した?

 慌てて上半身を起こして見廻したら、陽ちゃんと武藤さんとブラークさんが、寝転がってるトモの介抱をしていた。


「気が付いたか、ミコト」

「チート君、意識は失ってるけど、大丈夫みたいだよ」

「オマエ、根性あるな。

 気絶してんのにチートから手を離さなかったんだぞ」


 良かった。トモも助かったみたい。


「トモっっ!」


 直に安否を確認したくてトモに駆け寄ろうとして・・・異変に気付いた。


「なにこれ?」


 僕だけじゃない。仲間達もみんな、異変に気付いている。


「ミコト!サリ!フミヤ!ヨウスケ!ムツキ!

 オマエ等、いったい?」


 真田さん&陽ちゃん&藤原くん&武藤さんは鮮明なままなのに、ブラークさんと智人(トモ)は周りの風景と同一化をして白い靄の向こう側にいる。


「急になに?」

「どうなってんだ?」


 藤原くんだけは、この状況を経験してないんだっけ?


「これってまさか?」

「あの時と同じか?」


 武藤さんが言った「あの時」とは、1年前、僕等が「現実世界に帰る」で意見をまとめた時のこと。僕の「自分の手を血で染めたくない」という甘い判断が原因になって智人(トモ)を現実世界に連れ帰れなかった日のこと。


 現実世界への帰還現象だ。

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