8-1・武藤さんとブラークさん
武藤さんに詰められたブラークさんは、ため息をついて、しばらく間をおいてから口を開く。
「恋人の類はいない。
どうにも、この世界の女性には興味が持てなくてな」
あ~~~・・・解る。すっごい説得力がある。ブラークさんが、思考が無いとしか思えない女性を周りにはべらして「俺はモテるぜ」と勘違いするタイプじゃなくて安心した。
「この世界に取り残された現実世界の人間も少なからずいるだろう」
武藤さんは、まだ詰める。僕だったら「この世界の女性には興味が持てない」→「そうですよね」で、この話は終わってたよ。
「確かにいるだろうが、互いに出自を隠しているからな」
「『アイツ、現実世界の奴かな~』と思っても、追及はしないってことな」
「まぁ・・・そういうことだ。
オマエ等のように“隠す気があるとは思えない”のに生き抜いている方が珍しい」
異世界に転移した直後は、「自分が現実世界の人間」ってことを隠さない。でも、異世界に馴染む為に、異世界人になりきる。馴染めない者は淘汰をされていく。それが、1年前のモーソーワールドだった。
「政変を経て内地での諍いは減り、秘境者狩りは必要が無くなった。
だが、既に生活に馴染んだ者が、急に出自を公開することはない」
そりゃそうだ。狩られる心配が無くなった途端に「俺、異世界人だぜ!スゲー特殊能力持ってるんだぜ」なんて人ばっかりだったら怖い。たまに、いそうだけど。
ブラークさんの恋愛観は「モーソー人には興味無い」「リアル人なら恋に落ちる可能性があるけど誰がリアル人か解らない」でOKかな?
「要は、『出会いが無い』ってモテない君の言い訳な」
「・・・・・・・・・・・・・・なにっ?」
「・・・・・・・・・・・・武藤さん?」
ブラークさん、黙っちゃった。そりゃそうでしょ。いくらなんでも今のは失礼だよ。
「アンタ、現実世界にいた時から、そんなスタンスだったのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・武藤さん?」
口撃でブラークさんに精神的ダメージを負わせられる人がいるなんて予想外。それがクラスメイトなんて想定外すぎ。
「前々から思ってたんだけどさ、
アンタって、現実世界にいた時から、そんなに無愛想だったのか?」
「そういうわけではないが・・・」
「やっぱそうだよな。
強いから孤高で冷静って雰囲気を醸し出せてるけど、
戦が無い現実世界でそんなんだったら、ただの根暗だもんな」
根暗は言い過ぎ。暗いからブラークさんの表情が良く見えないんだけど大丈夫かな?怒ってない?
「こっちの世界に来てから、そんなキャラになったのか?
それとも、私達の前ではキャラを作ってるのか?」
「作っているつもりは無い」
ブラークさんが「キャラを作っている」と言ったらどうしようかと思ったけど、作ってないっぽいので安心をした。
「この世界で何かがあったってことか。
なぁ・・・なにがアンタを、そんな無愛想にしたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2人の会話に口を挟めない。聞きながら、「僕はブラークさんのこと、何にも知らないんだな」と感じていた。僕も、もう少しブラークさんのことを知りたい。
「君等に話すつもりはない」
ブラークさんに拒否をされてしまう。少し寂しけど、ブラークさんらしい対応だ。
「あっそう。だったら、この話はもういいや。
アンタ、現実世界ではどこに住んでんだ?
徳川みてーにどっかで寝てんだろ?」
「それを聞いてどうすんの?」
「決まってんだろ。オモシレーから、皆で見舞いがてら見に行ってやるんだ」
「『皆』って、もしかして僕も混ざってる?」
「当然だろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
とんでもない発案なんだけど、それはそれで興味がある。僕も、現実世界のブラークさんがどんな人なのか知りたい。
「どうなんだよ?
過去の詮索は諦めてやるけど、それくらいは教えろよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それとも何か?なんも語れねーほど私等を信用してねーってか?」
「く、畔木市だ」
あ!ブラークさんが押し負けた。武藤さんスゲー。
「おい、尊人。くろき市ってどこだ?」
「え~っと、多分、関東方面」
「よし、電車か車で行ける範囲だな。
畔木市のどの辺だ?アンタ、どこ中(どこの中学)出身だよ?」
「・・・どこ中って」
お見舞いとかじゃなくて、高校生が喧嘩売る時の台詞じゃん。
その後、見張り番交代になってケンさんと陽ちゃんが起きてくるまで、武藤さんのガン詰めは続いた。
ごめんなさい、ブラークさん。僕も知りたかったので止めませんでした。
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朝が来た。起きた直後、真田さんに手を引っ張られて皆から距離を開ける。
「尊人くん、武藤ちゃんと交代して寝れば良かったのに」
「え゛!」
武藤さんと交代ってことは、真田さんの隣で寝るってことだよ。真田さん的にはOKなの?
「尊人くん、すっごい邪魔」
「・・・ん?」
邪魔なら真田さんの隣で寝ちゃダメってことだよね?・・・てか、僕、真田さんに「邪魔」って思われてんの?
「なんでツーショットにしてあげなかったの?」
「・・・・・・・ん?何の話?」
真田さんが何を怒っているのか解らない。
「むとちゃんとブラークさんのこと。
その様子じゃ、全然気付いてないでしょ?」
武藤さんがブラークさんを小バカにしてマウントを取ってるってことかな?それなら、ちゃんと気付いたよ。いくらなんでも、そんなに鈍感じゃないってば。
「・・・気付けよ、超鈍感男っ!
むとちゃん、絶対にブラークさんのこと好きだよね?」
「・・・はぁ?」
武藤さんの口撃でブラークさんが黙る。その状況をどう見れば「武藤さんがブラークさんを好き」になるの?
「『好きな人いるか』とか『もっと楽しそうにしてよ』とか
『何があったのか』とか『どこに住んでるか』とか『会いに行く』とか、
めっちゃアピってたじゃん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言われて改めて考えると・・・「アピってる」と言えなくもない。
「あたしのタイプじゃないけどさ、ブラークさんが格好いいのは認めるよ」
「あのガン詰めが武藤さんの愛情表現?」
過激すぎね?僕だったら泣かされていたかも。好きな人を落ち込ませるって、どんな状況?
「・・・・・てか・・・あれ?
真田さん、あの時、起きてたんだ?」
「今頃、それ言う?
尊人くんと一緒に見張りをするつもりだったけどさ、
むとちゃんが先に起きちゃったから、寝たふりしてたの」
「・・・・・・・・・・・・ああ、そうなん・・・ですか」
この一連の会話の導入、ブラークさんから「真田さんを好きか?」と質問されて「好きです」と答えちゃった。思いっきり聞かれていたのね。小っ恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。
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