7-5・外地の果て
身長が10m以上はありそうな巨人が闊歩して、博物館の恐竜よりより大きくて頭がたくさんある蛇が這い、僕の家より広い翼の生えた竜が飛び回る。僕等はRPG のラストダンジョンに出現するような魔物がいるところを移動していた。
「隠れろっ!」
茂みに入って大きな魔物をやり過ごす。言うまでも無く、僕等が挑んだら瞬殺されて終わりだろう。ブラークさんが単体なら、それなりに善戦はできるかもしれないけど、14人も足手まといを連れているんだから、守りながら戦うなんて不可能。
だけど、奴等が大きすぎるおかげで、僕達のことなんて眼中に入っていない。
「わっ!ヤバい!!」
全部を都合良くやり過ごせるわけじゃなくて、時々見付かって、餌にされそうになる。
「マジックソード・焔!!」
「富醒・レンタル!・・・ウインドミル!!」
潔く戦ってやっつける・・・なんて無理なので、ブラークさんと僕が牽制して、その間にマクウさんにマーキングフラッグを準備してもらって、事前に別のマーキングフラッグを置いてある場所に皆で瞬間移動をする。そして、「ほとぼりが冷めたかな~」ってタイミングを見計らって、一番最後にマーキングした位置に戻る。でも、時々、逃げる前の場所に魔物が居座っちゃうこともあって、そーゆー時は戻った位置から進路を変える。
「現実世界のアンタは、ガラケー世代か?」
「年寄扱いをするな。スマホ世代だ」
「今のスマホは5Gなんだぜ。知らねーだろ」
「ごじー?」
「5Gってのはな、スマホを専用ベルトに装着して、
人工衛星から超エネルギーを受け取って変身をできるシステムのことだ」
「そうなのか?目まぐるしいな技術の進歩だな」
「むとちゃん、それは特撮ヒーローの変身アイテムだよ」
「ブラークさん、信じないでください」
ずっとピリピリしているわけじゃなくて、時々は無駄話を楽しむ余裕もある。今は、武藤さんがブラークさんにカルチャーギャップを与えているところね。
「ちょうど良い洞穴だ。今日はここで野営をしよう」
強行はせず、ちょうど良い休息場があれば、日暮れを待たずに野営をする。瞬間移動が無ければ、逃げ場が一方向しかない洞窟で休むような選択はしないらしい。焚火や魔力ランプは標的になっちゃうので使わない。ご飯や飲み物や寝具は、トレイトさんがワームホールの等価交換で調達してくれる。
「明日からは果ての山脈に入る。
厳しい進行になるだろうから、今日はしっかり休んでおけ」
もちろん、全員で熟睡するような命知らずなことはしない。野営中は僕を含めた9人の男性が2人一組になって交代制で見張りをする。真田さんは「あたしも見張る」と言うんだけど、あんまり無理はしてほしくないので、説得をしてシッカリと休んでもらう。
「サリは寝たか?」
「・・・多分」
見張り番は僕とブラークさん。真田さんが横になったのは確認したけど、寝たかどうかまでは解らないです。
「サリが見張りを希望するのは、必ずオマエのサイクルだな」
移動中は厳しい表情のブラークさんが、星明りの下で穏やかな笑みを浮かべる。
「まぁ・・・そうですね」
モーソーワールドに来て以降、特に外地に出てからは、真田さんと2人でノンビリと話す余裕なんて無い。僕だって、ゆっくりと話したいと思ってる。でも、そんな理由で真田さんを見張り番にするわけにはいかない。
「どうなんだ?以前と比べて、自然体に見えるのだが?」
「まぁ・・・はい・・・それなりに・・・ですね」
ブラークさんが恋バナを仕掛けてくるのは予想外。だけど、改めて考えれば、ブラークさんは現実世界の人。ホントの名前は楽山来武。以前は僕と同じ一般人だったんだから、僕達の変化に興味を持つのは当たり前の感情なんだろうな。
「一応は仲良くしている・・・と思っています」
「好いているんだろ?」
「はい。僕は真田さんが好きです」
曖昧な答えは真田さんに失礼。目の前にいたら恥ずかしくて答えにくいけど、今は寝てるんだから正直に答えます。・・・大丈夫かな?ちゃんと寝てるよね?
「ブラークさんは・・・どうなんですか?」
今までは「ずっと高いところにいる」と思っていたブラークさん。でも「同じ人類」と考えると、急に親しみと興味が湧いてくる。
「好きな人とか・・・いるんですか?」
「急になんだ?」
ブラークさん、ちょっと照れた。ブラークさんから話を振ってきたんだから、全然「急」じゃないですよ。モーソーワールドにいるのかな?それは、誰にでも一目惚れするようなバカっぽい人じゃなくて、ちゃんとした人かな?ブラークさんがバカっぽい人とラブラブなのは想像したくないけど、ブラークさん優しいからバカっぽい人にモテモテだろうな。
「その話、私も興味ある。
アンタみたいな堅物でも普通の恋をすんのか?」
真後から声が聞こえて、ヌッと現れた武藤さんが僕の隣に座った。ヤバい。話し声が大きくて起こしちゃった?声のボリュームをもう少し落とさなきゃ。
「武藤さん、寝なくていいの?」
「見張り、たまには変わってやるよ。尊人は私の場所で寝ていいぞ」
寝所は男子グループと女子グループに分かれていて、武藤さんの場所は真田さんの真横。そんな特等席に招待されても眠れないよ。
「僕は大丈夫。交代の時間までちゃんと見張りするよ」
「あっそう」
武藤さんの返事が素っ気ないように思えたんだけど、気の所為かな?
「どうなんだ?アンタみたいな無愛想な奴でも恋人はいるのか?」
ブラークさんは感情をオープンにするタイプではないけど、無愛想は言いすぎでしょ。
「騎士の職務は主にこの命を捧げること。
恋人を作る余裕などは・・・」
「はいはい、そーゆー建前はいらね。
そもそもアンタは現実世界の人間なんだから、根っからの騎士じゃねーだろ」
さすがは、武藤さん。僕だったら「恋人を作る余裕などは無い」→「そうなんですね」で、この話は終わってたよ。
「どうなんだよ?
私等は信用できねーから、本音トークは無しか?」
気のせい?武藤さんが、いつもよりも女の子っぽく見える。口調はいつもと変わらないのにね。星明りしかない暗がりの所為かな?
尊人視点では、藤原とブラークはキャラ被りをしている。尊人視点では藤原の上位互換がブラーク。ブラークが登場してしまうと、藤原の影が薄くなる。さて、困った。
そんなわけで、藤原とブラークの違いを考えた。戦闘力と経験値と生真面目さは、ブラーク>藤原。リーダーシップは、ブラーク≧藤原。親分肌と男気と器は、藤原>ブラーク。承認欲求は、ブラーク=藤原(どちらも高くない)。愛想は、ブラーク=藤原(どちらも感情をオープンにしない)。
尊人視点では描けないけど、ブラークの合流直後、藤原は何でもかんでも仕切られて不満に感じていた(面識のある尊人&早璃&吉見&武藤はブラークの指示に素直に従う)。だけど、藤原はいつまでもいじけているような小者ではない。「ブラークにリーダーを任せられるなら、自由な立場で俺らしく動く」と考えるようになり、シャドウファントム戦での体を張る展開に繋がった。
1年前の時点では、武藤は藤原を好いていた。だけど、親友の安藤も藤原に好意を持っており、友情を優先させたい武藤は、藤原に気持ちを伝える気は無かった。1年を経て、藤原への感情は、好意ではなく信頼できる異性に切り替えている。
武藤の視点では、ブラークは根暗だが、相対的には藤原の上位互換。1年前はあまり接点が無かったが「格好良い」とは思っていた。今回で接点が増えて、まだ「明確な好意」には至っていないが、かなり気になる存在になっている。




